――欅坂46を復活させるため、ライバルグループとして坂道初の男性グループを誕生させるプロジェクトが始動したらしい――。2024年秋に駆け巡った真偽不明の情報をきっかけに“平手友梨奈さんのいとこ”とされる1人の男性メンバーの情報が公開されました。手の込んだ謎解きゲームのような情報が投稿され続ける中、約半年に及んだ取材の結末は「詐欺」でした。
●欅坂46とは――
「乃木坂46」に次ぐ坂道シリーズ第2弾として、2015年から2020年10月13日まで活動した女性アイドルグループ「欅坂46」。メッセージ性の強い楽曲を高いパフォーマンス力で披露する姿は従来のアイドル像と一線を画し、熱狂的な支持を集めました。
2020年10月14日からはグループ名を「櫻坂46」に改名。高い表現力はそのままに、さまざまな表情のパフォーマンスを見せる姿は、国内外からの人気を集め続けています。
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●真偽不明の欅坂46復活情報――
2025年がグループ結成10周年の節目ということもあり、「欅坂46復活」を望む声が上がる中、2024年9月には週刊文春が「1日限定で復活する準備が水面下で進められている」と報道。
時期を同じくして、XとYouTubeを中心に投稿され始めたのが「とあるプロジェクトチーム(KEYAKIZAKA46 NEXT project)」なる企画でした。
主な登場人物は「【公式】 とあるプロジェクトチーム」「N」「暴露@makkuro」「NONAME」「夜明坂46公式」「NextProject公式YouTube」「タイキ」の7アカウントで、「【公式】 とあるプロジェクトチーム」と「NextProject公式YouTube」と「夜明坂46公式」は、プロジェクトの公式アカウント。
「N」「暴露@makkuro」「NONAME」はいわゆる“リークアカウント”で、通称“リーカー”と呼ばれる情報暴露アカウントとしての立ち位置でした。
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こうしたアカウントから投稿されていた情報をまとめると、「とあるプロジェクトチーム」の概要は以下の通りとなります。
●「とあるプロジェクトチーム」の概要――
・欅坂46を復活させるために、坂道グループから初の男性ライバルグループが誕生する
・グループ名は「夜明坂46」もしくは「4∀(フォーエース)」で、そのセンターをタイキ氏が務める
・同グループのプロデューサーは平手友梨奈さんが務める
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・タイキ氏は平手友梨奈さんのいとこで、今回のプロジェクトには「Seed &Flower」社と「JME」グループが関わっている
・タイキ氏はまずPococha(ポコチャ)でライブ配信を始めるが、配信のランクが落ちれば欅坂46復活プロジェクトも白紙
・「夜明坂46」もしくは「4∀(フォーエース)」のオーディションがまもなく始まる
こうした情報に多くの欅坂46ファンや平手友梨奈さんのファンが反応。投稿された意味ありげなYouTube動画は投稿間もなく数万再生をマークするなど注目度が高く、筆者の元にも多数の情報提供が寄せられました。
●タイキ氏は何者なのか――
ここで気になるのが、タイキ氏とは何者なのか。
ねとらぼ編集部の調べによるとタイキ氏は九州地方在住の男性で、過去には配信者・俳優などの芸能活動を行っていた人物。
「契約上他言禁止となっているため現在所属している芸能事務所をはじめ、詳細なプロフィールについては非公開」「事務所から与えられた課題条件をクリアするため活動しており、クリアした場合はアイドルデビューが約束されている」として、ポコチャを中心に活動をしています。
タイキ氏のいう「課題」とは、ポコチャでの配信ランクとSNSフォロワー数のことを指しており、「期日までに達成が必要」であることをことさら強調していました。
●「欅坂46復活プロジェクト」は本当なのか――
欅坂46復活プロジェクトとも呼べる「とあるプロジェクト」は、本当に実在するプロジェクトなのか。ねとらぼ編集部は欅坂46(現・櫻坂46)の所属事務所のSeed & Flower合同会社に取材を行いました。
――新たな坂道グループとして男性グループ「夜明坂46」ないし、「4∀(フォーエース)」というグループを発足させる予定はありますか。
S & F:そのような事実はございません。
――タイキ氏がSeed & Flower合同会社ないし、坂道グループの所属であるという事実はありますか。
S & F:そのような事実はございません。
――坂道グループといえば、配信に関してはして「SHOWROOM」だと思いますが、「ポコチャ」で投げ銭を集めることはありますか。
S & F:ポコチャを使用する予定はございません。
また「とあるプロジェクト」のプロデューサーに就任するとされていた平手友梨奈さんの所属事務所、Cloud Nine inc.(クラウドナイン)では公式サイト上に2月15日付で次の通りのお知らせが告知されています。
いつも平手友梨奈を応援いただきありがとうございます。
最近、アーティスト本人やレーベル、事務所の名前を悪用した悪質な行為の事例が確認されました。
男性アイドルプロデュースの予定や公式で発表してない稼働の予定は一切ございません。
また、アーティスト本人およびマネージャー・スタッフ・関係者が、ファンの皆様に直接コンタクトを取ることや、オフィシャルサイト以外で金銭や個人情報などを求めることも一切ございません。
不審なアカウントからのメッセージやDMなどを受け取った場合には、速やかに削除し、被害防止のためにも該当アカウントのブロックや運営会社等への通報をお願いいたします。
●プロジェクトは嘘、100万円投げ銭した被害者は――
またねとらぼ編集部では「とあるプロジェクト」で、タイキ氏に高額の投げ銭を行っていたZさんにも取材を申し入れました。
タイキ氏の活動を最も応援していると自負していたZさん。当初はプロジェクトの存在を信じていましたが、ねとらぼ編集部の調べで「夜明坂46」「4∀(フォーエース)」という名称が商標出願がされていないと伝えたところ、「最初はタイキくんを応援したくて連絡したのですが、違う展開になりましたね」とこれまでに感じていた違和感について情報を寄せました。
――「とあるプロジェクト」に関して、投げ銭はどのくらい行いましたか。
Zさん:約100万円です。配信ランクが落ちてしまうとプロジェクトが終了すると言われている中、視聴者の人数がなかなか増えないこともあり、生活が苦しくなってでも投げ銭を続けていました。
――「とあるプロジェクト」を応援する原動力は何だったのでしょうか。
Zさん:私は平手友梨奈さんの大ファンなので、平手さんが関わっているというお話が大きかったです。そしてリスナーは欅坂46復活のためにがんばっていたんです。
――信じてしまうような根拠というのはありましたか。
Zさん:タイキくんの公式YouTubeがスタートした際、すでにチャンネル登録者が数千人いる状態だったのですが、これをタイキくんは「事務所に用意してもらった」と話していました。リーカーたちの情報からもあたかも「Seed & Flower合同会社」が用意したYouTubeアカウントなんだと見えるようなやり方でしたし、やはり芸能人なのでそういうことがあるんだなと思いました。
――今改めてどういう気持ちでしょうか。
Zさん:疑いながらも楽しい時間を過ごしていたということは事実です。タイキくんの人柄も好きでしたが、プロジェクト自体が嘘なのであれば投げ銭については返金してほしいです。今回のプロジェクトを通じて私がだまされやすい典型だということも分かりました。
●突然の「とあるプロジェクト」終了告知――
こうしたやり取りを受けてZさんが“リーカー”のN氏に連絡したところ、N氏は「ごめんなさい、もう限界です。全部話させてください。私はタイキの友人です。嘘をついていました」と告白。
首謀者はN氏であり、「自身には障がいがあること」「タイキ氏は全く何も知らない状態であったこと」を長文で明かしたうえで、欅坂46関連のプロジェクトと匂わせていた理由については、「欅坂が好きで憧れだった」と述べていました。
N氏の主張をまとめると、「タイキ氏が大手芸能事務所系列の事務所に所属しているのは事実。ダンス・歌・配信条件などをクリアすればアイドルデビューできるというのは本当で間違いない。ただそこには坂道グループは一切関わっていない」ということになり、タイキ氏と友人関係にあったN氏が何とかしてタイキ氏をデビューさせるために大掛かりな嘘をついたということになります。
またN氏はやり取りの中で「私が償います。申し訳ございませんでした」とZさんに謝罪したうえで、2月12日には「NextProject公式YouTube」上にも同様の文章を「自殺します」というタグ付きで投稿。
また「暴露@makkuro」というXのアカウントでも同様の文面を投稿したことから、N氏が複数のアカウントを操っていたことが明らかになりましたが、タイキ氏のアカウントを残して関連アカウントは2月13日までにすべて消滅しました。
●タイキ氏からの反論、衝撃の3697文字――
ねとらぼ編集部は2月12日にタイキ氏に接触。取材依頼のために所属事務所の連絡先を通知してほしい旨を問い合わせたところ、「僕の所属事務所は契約上他言禁止となってしまっております、、普通の芸能事務所です」との返信がありました。
また、「とあるプロジェクトチーム」に関連する6アカウントの運営者がタイキ氏ではないか。タイキ氏と平手友梨奈さんには親戚関係があるか。投げ銭を返金する予定はないか。との質問を行ったところ、1回目が1189文字、2回目には3697文字に及ぶ超長文の返信がありました。
ねとらぼのストレートニュースが約2500文字ということを考えると、これはかなり多い文字数であり、私の記者人生の中では最も長い返信でした。
タイキ氏は返信の中で、「僕は運営には携わっておりません」「平手さんとは親戚関係ではありません」「僕は一度も虚偽の内容を伝えた事はなく、課金を煽った事はありません」と主張。
「僕の活動も虚偽の活動では無く、事務所に正式に与えられた課題条件をクリアするため活動しています。クリアした場合、アイドルデビューが約束されています」としました。
また、「今は記事の力などを使わず頑張っていきたい」「改めて事務所の契約規約を見直したのですが、記事などになってはいけないとなってしまいますので、ポジティブネガティブ関わらずに記事への出演は拒否してもよろしいでしょうか」「デビューした際は事務所は上層に変わる予定なので、その時は記事などは大丈夫になるかもしれませんので、その際にまたお世話になりたいと思っています。ご縁ですのでその際は是非協力させていただきます」と持論を展開しました。
●探し当てた配信事務所、マネージャーは困惑隠せず――
ねとらぼ編集部からはタイキ氏に、「YouTubeのアカウント上では運営者メンバーとしてタイキ氏のXアカウントのクレジットされていること」「今後、IPアドレス開示請求等が進んだ際に主張が事実と万が一異なった場合、タイキ氏に不利益が生じる可能性がある」旨を伝えたものの、タイキ氏の主張は変わらず、持論を展開する流れが繰り返されたため取材を打ち切ることを決定。
かたくなに所属事務所の名前を口にしなかったタイキ氏でしたが、活動の痕跡をつぶさに調べたところ、マネジメントを行っているのがライブ配信事務所「RISE」であることが分かりました。
ねとらぼ編集部が同事務所に問い合わせたところ、対応した担当マネージャーは「タイキさんとは配信に限定したマネジメント契約しかしておらず、タレントとして事務所に所属しているわけではありません。またアイドルデビューが確約されているという話もございません。関連会社が展開するスクール生として歌やダンスを学んでいるのは事実ですが、レッスンには1度しか来ていません」と困惑しきった様子でした。
また事態の重大性を鑑みて「本人との面談を早急に実施したうえで、面談の様子をねとらぼ編集部に共有する」として、直ちに対応に入りました。
●ついにすべてが明らかに――
2月14日19時から始まったタイキ氏、担当マネージャーらの緊急ミーティングでは冒頭、マネージャーが「『とあるプロジェクト』の首謀者はタイキさんで間違いないですか?」と質問し、タイキ氏は「違いますね」と否定。「(IPアドレス)開示請求などですぐ誰が投稿していたのかは分かる」と再三伝えられても「首謀者ではないです」と繰り返しました。
「N氏」との関係については「友達」だとしたため、マネージャーが「N氏の本名と連絡先を教えるように」と伝えると「LINEも連絡先は消してしまった」とし、名前については「分かりますけど……うーん」と言いよどみつつ、N氏は100パーセントタイキ氏自身ではないと明言しました。
しかしマネージャーは「思っている以上に話が大きくなっている」「正直に答えてもらわないといけない」「事務所を退所したとしてもこの問題はなくならない。1人では対応しきれない問題だ」と厳しく追及。
最終的にマネージャーから「N氏はタイキさんなのか?」と改めて問いただされると、「僕ですね」と告白。欅坂46に関連する情報やタイキ氏が平手友梨奈さんのいとこだという話についても「うわさを広めたのは僕」と認めました。
またN以外のアカウント以外のアカウントが行った一連の投稿についてもマネージャーに画像を示されると、投稿したのはすべてタイキ氏自身であると認め、「他には(関係者は)誰もいない」としました。
「作り話を始めたきっかけは何なのか?」との質問には、「2つのYouTubeアカウントを所有しており、Aのチャンネルで遊びのつもりでアップした欅坂46関連の動画が何万再生も伸びてしまい、結果的にBのアカウントにも紐づいてしまった。そこから『欅坂46が復活するのではないか』といううわさが加速して、登録者が一気に増えた」と経緯を説明。
投稿した動画には欅坂46のファンから「嘘かもしれないけれど希望が持てたからうれしい」という主旨のコメントが多数投稿されていたことから、意味深な動画をいくつか投稿したとしました。
一連の騒動において課金を行ったのは20人前後で、中でも継続的な課金を行っていたのは10人程度。配信ランクを上げていくためには視聴者があまりにも少なかったことから苦しくなり、うわさを流し始めたのだと明かしました。
また「Seed & Flower合同会社」が用意したと説明していたYouTubeアカウントについても、自身がもともと所有していたアカウントであり、本名・出身地・年齢に関しても「嘘をついていることが多かった」としました。
●被害者への弁済は――
もっとも課金額が大きいZさんについてタイキ氏は「課金額が圧倒的で(Zさん自身)本当にもう生活ができないぐらいになってしまっているというのを聞いて。僕も毎日すごく苦しかった」と心境を吐露。
被害弁済については「ポコチャの収益だけで生活しており、お金が溜まったらマンスリーマンションを契約して東京へ通ってレッスンを受けているという状態なので、貯金はない。少しずつでも返済できたらと思うが……」としました。
また、欅坂46復活を信じて応援していたリスナーに対しては「今まで伝えてきた言葉は全部本心で、みんなを大好きという気持ちは変わらない。Zさんに対しても嘘をついてしまったが、嫌われたくなかったというのがあった」としました。
●マネジメント契約解除、被害者は警察へ――
一連の経緯を受けて、マネジメント契約をしていた配信事務所の法務担当は「弊社と致しましては、今回お問合せいただきましたことがきっかけで、事実を認識いたしました。当該ライバーにつきましては、本件を理由として2月15日付で契約を解除致しました。本件については顧問弁護士に相談しながら慎重に進めさせていただきます」とコメント。
またZさんも「欅坂46の復活関連情報に関係なく、事務所にも正式に所属しておらず、デビューが確約されているという話が嘘なのであればそれは完全に詐欺にあたる」として、2月15日付で警察に被害相談を行い、受理番号が発行されたとのこと。今後はZさんとかかわりのある被害者らと共に警察への被害相談及び情報提供をを早急に進めるとしています。
突然の終了発表により困惑の声が広がっていた「とあるプロジェクト」。その中身は1人の配信者が複数のアカウントを使い分けて巧妙に作り上げた架空のストーリーでした。
欅坂46という伝説的な足跡を残したグループの活動、そして、現在世界を股にかけて羽ばたく櫻坂46、音楽活動などを続ける平手友梨奈さん、そしてそれぞれのファンを傷つけるような行為を行ったタイキ氏ですが、最後にマネージャーに行った質問は「今後のライブ活動はどうすればよいでしょうか」。対応に奔走するマネージャーや被害者らへの謝罪の言葉はなく、反省の様子は見られませんでした。
多くの人の心をもてあそんだ代償は小さくなさそうです。
(Kikka)
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