5月に注目の判決、「入管収容と入管法は国際法に違反する」と訴え 入管の「原則収容主義」「無期限収容」に裁判所の判断は?【“知られざる法廷”からの報告】

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2025年02月16日 07:05  TBS NEWS DIG

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 日本の入管収容制度と入管法は恣意的な(思うがままの)拘禁を禁じた国際法に違反している−−1300日以上も入管施設に収容された2人の外国人男性が訴えた裁判が結審した。判決は5月に言い渡される。裁判所が違法と判断すれば入管行政への影響は大きい。提訴から3年、何が問われたのか。「知られざる法廷」から報告する。(元TBSテレビ社会部長 神田和則)

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1300日収容と2週間だけ仮放免の繰り返しで、自殺未遂、うつ病に

 「日本の入管法では、残念ながら、どのような目的の収容も、どんなに長い収容も許されてしまいます」
 「入管法がそもそも収容の目的や上限期間について定めておらず、原則収容主義、無期限収容を許しているからです」

 1月28日、東京地裁(本多智子裁判長)で開かれた15回目の法廷。原告弁護団の浦城知子弁護士が最後の弁論に臨んだ。

 「この裁判が入管収容における原則収容主義、無期限収容、そして司法審査がない(裁判所の判断を受けられない)ことが間違いだったという転換点になるはずです。いま、この原則を変えなければ、これからも入管で無期限収容や司法救済なき収容による犠牲者が出るのを止めることができません」
                
 裁判は、強制退去処分となり入管施設に収容されたトルコ国籍のクルド人デニスさんとイラン国籍のサファリさんが起こした。

 訴えによると、デニスさんは2007年に来日、トルコ政府による少数民族クルド人への迫害を理由に4回難民申請したが認められず、計1384日収容された。
 サファリさんは1991年に来日、祖国で不当に自由を奪われるなど迫害を受けたとして3回難民申請したが認められなかった。入管収容は1357日に上る。

 かつて入管当局は、外国人が非正規滞在となっても拘束を一時的に解く「仮放免」を弾力的に運用していた。しかし東京五輪を控えて「送還の見込みが立たない者であっても、収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能となるまで収容を継続し送還に努める」(2018年)と方針を転換した。

 収容される人は増えて期間も長期化、退去強制処分が出ても「迫害されて命の危険がある母国には帰れない」と訴え続けてきたデニスさんとサファリさんも収容された。
 2019年ごろには、絶望の思いから抗議の意思を示すハンガーストライキが全国に広がった。
 こうした中、入管当局はハンストで体調を崩した人を2週間だけ仮放免して、再び先の見えない収容に戻す対応に出た。この「2週間仮放免」が多くの人をさらに苦しめ「水中で溺れている人に一瞬だけ空気を吸わせて、また水に沈ませる」と批判された。

 長期収容と「2週間仮放免」の繰り返しによって、デニスさんは複数回自殺を図るなど心身を害し、サファリさんもうつ病と診断された。
 当時の私の取材に、2週間仮放免中のサファリさんは「入管では信じられないことが起きている。日本ではない。地獄。わずか2週間で再収容される怖さは、経験してみないとわからない」と涙ながらに語っていた。

国連人権理事会の作業部会が「自由権規約」違反と判断、そして裁判へ

 2019年10月、2人は国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会に「個人通報」を申し立て、極めて長期の収容と短期の仮放免・再収容が恣意的に繰り返されていると訴えた。

 作業部会は2020年9月、「2人に対する身体の自由のはく奪は『世界人権宣言』『自由権規約』に違反して恣意的である」と結論づける「意見」を公表した。
 作業部会の「意見」では「裁判所の審査なしに収容が認められ、理由も、期間も告げられていない。収容は、必要性を個別に評価したうえでの最終手段だが、代替手段を検討したこともない。事実上、日本の入管法は無期限収容を許すもので恣意的だ」と指摘した。

 その根拠となった「自由権規約」は国際法であり、入管法より上位に置かれる規範だ。第2次世界大戦中に起きた大量虐殺などの人権侵害や抑圧を教訓に、国連が1948年に採択した「世界人権宣言」を条約にした。日本は1979年に批准しているので憲法によって「誠実に遵守することを必要」(98条)とされている。
 
 ところが、日本政府は意見書に異議を申し立てた。22年1月、2人は裁判を起こした。

問われているのはグローバルスタンダード

 争点は3つ。
 1 日本の入管収容制度・入管法が「自由権規約」に反して違法か
 2 2人の原告に対する個別の収容が「自由権規約」に反して違法か
 3 違法とされた場合、国は賠償責任を負うか
 ここでは1と2について、双方の主張の柱を追ってみたい。

 <1 日本の入管収容制度・入管法が「自由権規約」に反して違法か>

【原告側】
 「自由権規約」によれば、入管収容が認められるには、まず目的が合理的(合理性)で、必要があり(必要性)、目的と比べて手段が過剰であってはいけない(比例性)という3つの要件を満たしていなければならない。
 ところが、いまの日本の入管収容は、目的や必要性に関係なく「原則として収容する」という原則収容主義の下、定期的な審査もなく無期限の収容がなされている。「合理性」「必要性」「比例性」のいずれも満たさない。
 また、「自由権規約」は裁判所による「司法審査」を求めているが、日本の入管収容にはない。
 したがって入管当局による収容は「恣意的」であり「自由権規約」(国際法)に違反している。

【国側】
 入管収容の目的は、送還のための身柄の確保、在留活動の禁止にある。
 収容は、国内秩序の維持という高度の公益性があり、入管法に定められた理由、手続きによる身柄拘束の手段である。
 国連人権理事会の作業部会の「意見」は何ら法的拘束力を有するものではない。
 「自由権規約」は、身柄拘束にあたり必ず事前に裁判所が関与すべきとは明示して義務づけていないし、不服があれば行政訴訟を起こせる。

 <2 2人の原告に対する個別の収容が「自由権規約」に反して違法か>

【原告側】
 デニスさんには同居している日本国籍の妻がいて、仮放免の身元保証人でもあり、逃亡の恐れはない。体調不良で継続的な治療が求められ、逃亡できる状態ではない。収容の必要性はない。
 サファリさんも5年半にわたり仮放免の延長許可にはまじめに出頭するなど逃亡の恐れはなかった。うつ病の診断も受けている。 

【国側】
 入管法は、収容によって移動の自由が制限され、一定程度の精神的苦痛などの不利益が生ずることを当然に予定、許容している。
 また、そもそも収容にあたって、逃亡の恐れ、健康状態に支障がないこと、収容が長期にわたらない−−などを要件として規定していない。
 2人については、過去の仮放免時の状況や収容中の言動などから、逃亡の恐れの観点で収容の必要性がないとは認められない。

 私は法廷でのやりとりをすべて傍聴したが、国側の主張は「入管法という法律の手続きに基づいて収容しているのだから違反ではない」とするだけで、それ以前にそもそも入管法自体が「自由権規約」という国際法の解釈に照らして違法ではないのかという原告側の問いかけに正面から向き合ったとは思えなかった。

 国際人権法の専門家、阿部浩己・明治学院大教授は裁判をどう見るのか。
 「最大の特徴は、日本も批准している国際人権条約(国際法)である自由権規約を前面に出して、裁判所にどう解釈するのかと判断を求めているところにある。人権条約は基本的に身体の自由が原則なので、制約する場合には、何のために、どれだけの期間、身体を拘束するのかが、合理性、必要性、比例性によって説明できなければならないが、国側は意識的に本質的な議論をすれ違わせてきた。非常に不誠実。問われているのはグローバルなスタンダードであり、ぜひ裁判所には国際的な視点から人権条約の要請を実現する判断を望みたい」

 判決は5月13日に言い渡される。

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【自由権規約】
 第9条1項「すべての者は、身体の自由及び安全についての権利を有する。何人も、恣意的に逮捕され又は抑留されない。何人も、法律で定める理由及び手続によらない限り、その自由を奪われない」
 第9条4項「逮捕又は抑留によって自由を奪われた者は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する」
 また第5項では、違法な身体拘束は賠償を受ける権利があると定めている。

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<“知られざる法廷”からの報告>
 裁判所では連日、数多くの法廷が開かれている。その中には、これからの社会のあり方を問う裁判があるが、人知れず終結することも少なくない。“知られざる法廷”を掘り起こして報告していきたい。

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