火曜ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』の場面カット(C)TBS 俳優の芳根京子が主演を務める、TBS系火曜ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』(毎週火曜 後10:00)。18日放送の第6話では、生徒たちの見舞いに来ていた教師・園田麻衣(柳美稀)が原因不明の腹痛で倒れてしまう。まどかたち医師がさまざま手を尽くして“正中弓状靭帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome:MALS)”であることを突き止め、治療にあたっていく様が描かれた。医療法人社団 あんしん会 四谷メディカルキューブで正中弓状靭帯圧迫症候群の診療スタッフとして在籍する春田英律先生にインタビューを敢行し、MALSとはどんな病気なのか教えてもらった。
【写真多数】芳根京子、鈴木伸之、高橋ひかる、大西流星ら…キャストを一挙紹介!――監修する上でリクエストしたことはありますか?
MALSでは、食後の腹痛や、胸・背中の痛みといった症状が現れますが、病気自体の認知度が低く、診断に至らないことも少なくありません。作中でも描かれていましたが、心の問題として見なされて精神科を紹介されてしまうケースが多いんです。6話では各専門分野の医師がチームとなって1人の患者さんを診断し、治療に導いていくという展開だったので、MALSについてもチーム医療の重要性が伝わるように描いてもらいたいというリクエストをしました。
MALSの症状に悩まされている患者さんは多数いますが、比較的最近分かった疾患のため、MALSを知らない医療従事者が多いのが現状です。内科や救急医療の現場でも認識が広がれば、より多くの患者さんを救える可能性があります。 その思いを込めて監修に携わらせていただきました。
――患者さん側にもMALSへの理解が深まる描かれ方だったと思います。
現在、MALSの専門外来で診療しているのですが、そこには何十年と腹痛に苦しんできた方が私の講演をたまたま聴いていた内科医に紹介されたり、自分の症状を必死に調べて当院のホームページにたどり着き来院された方などさまざま。その方々の多くは、平均して5年以上は痛みに悩まされていたといいます。このドラマをきっかけに自分の症状と向き合ってもらえると、多くの人を救えるのだろうなと期待しています。
――食後の腹痛だけだと、なかなか気づきにくい病気ですよね。
誰にでも起こりうる症状ですからね。胃カメラやレントゲン検査では診断できませんが、息を吐いたときの腹腔動脈の状態を観察すれば、超音波検査やCT検査でも比較的容易に診断できる疾患でもあるんです。本当にちょっとした視点の違いで発見できるはずなのですが、知られていないがために「機能性ディスペプシア(ストレス性胃腸障害)」と診断されてしまう方も多いんです。
――技術指導も行われたそうですが、キャスト陣と接して感じたことはありますか?
第3話では、芳根さんや木村(多江)さんに内視鏡の取り扱い方や手順を指導しましたが、短時間での出来事だったので、本当にできるのだろうかと勝手に心配をしていたんです。しかし、実際の撮影では完璧な所作に感情も乗った演技をされていて、演技のプロはさすがだなと感心しました。そして、死亡宣告のシーンではスキルス胃がんで苦しむ勇人を演じられた小久保寿人さんや、その夫を支え、死を受け入れる妻・美波を演じられた田畑智子さんの迫真の演技に圧倒されてしまいました。私も死亡宣告の際には、(まどかのように患者さんとその家族と一緒に闘い、)ああすればよかった、こうすればよかったと色々と後悔を抱えながらやっていたなと思い出しました。リハーサルでその演技にあてられて、感情が溢れ出てしまい、まどかより先に僕の方が泣いてしまいました。
――さまざまな“医療現場あるある”が描かれる本作ですが、春田先生もあるあるだと感じたことはありますか?
僕が研修医だった当時は紙カルテでしたし、連絡手段はポケベル(連絡を取りたい相手に、小型受信機を使って電波で“合図を送る”システムのこと)でした。カンファレンスでの資料の暗記はもちろんですが、全ての患者さんの基本データやバイタルまで覚えるようにと言われていましたね。それにポケベルが鳴って、その返信をしたくても電話が置いてある場所が限られていたので、そこまで急いで向かわなければなりませんでした。それもあってか、靴は2カ月も経たないうちにボロボロになりました。食事をまともにとる時間もなかったので、気づけばガリガリに痩せてしまう人も多くいました。そんなこんなで夜になり、その日起こったことをカルテに記入していると、いつの間にか寝てしまい、さらにはいつ移動したのかストレッチャーで寝ていたこともありました。
――本作では同期の絆も描かれていますが、春田先生にとって同期はどんな存在でしょうか?
今でも仲がいいですし、たまに会って話をすることもありますね。その当時は、「あいつが先に執刀した」など小さなことでライバル視していましたが、年月を重ねるうちに、何でも相談できる仲間になっていきました。切磋琢磨できるライバルであり、良き友人であり、さまざまなことを一緒に乗り越えてきた戦友です。
――まどかたちが2年間で成長する様子も描かれます。成長するために大切なことは何だと思いますか?
患者さんが訴えている言葉に真摯に耳を傾けることだと思います。その言葉には必ず診断する上で鍵となるヒントが隠されているはず。苦しみや不安の訴えに耳を傾け、誠実に向き合うことが大切になってきます。
外科医としては、手術は患者さんにとって命がけの一発勝負であることを忘れないこと。困難を避けるために日々学び、技術を磨き、経験を積むことで、スキルと責任感が成長していくのだと思います。なので、「なんとかなるっしょ」で逃げないように自分を奮い立たせて、責任感を持って挑むことが大切。度胸がないと難しいことでもあるので、「逃げないことだけ、決めてみた」はとてもいい言葉だなと感じます。