終盤の肉弾戦を抜け出したウイリアム・バイロン(Hendrick Motorsports/シボレー・カマロ)が“Great American Race(グレート・アメリカン・レース)”での2年連続優勝を果たした デイトナ・インターナショナル・スピードウェイにて開催された2025年NASCARカップシリーズ開幕戦、第67回『デイトナ500』は、大幅な雨天中断も経て終盤の肉弾戦を抜け出したウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が、背後に0.113秒差でタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)、3番手にジミー・ジョンソン(レガシ・モーター・クラブ/トヨタ・カムリXSE)を引き連れる劇的な結末に。
今回も自身4度目のデイトナ500制覇が目前だったデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)はチェッカー目前で“マルチタングル”に散り、白煙の上がる混乱を潜り抜けたバイロンが、2019年と2020年に連覇を達成したそのハムリン以来となる“グレート・アメリカン・レース”での2年連続優勝を達成した。
待望のレースウイークを迎えたデイトナは、木曜のシングルカー予選で最速を記録した56号車のマーティン・トゥルーエクスJr.(トライコン・ガレージ/トヨタ・カムリXSE)や、同84号車の“JJ”ことジョンソンが、オープン登録ドライバーとして早々の本戦出場枠を確保。さらに新規定となる“オープン免除暫定の申請”で参戦枠を得ていた注目のエリオ・カストロネベス(トラックハウス・レーシング・チーム/シボレー・カマロ)も、自身初のカップ実戦となる予選デュエルレース1で洗礼のクラッシュに巻き込まれるなど、日曜に向け機運を盛り上げる数多くのトピックスが生まれた。
そんななか、トヨタ陣営JGRへの移籍直後にポールウイナーを射止めた、チェイス・ブリスコ(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)と同じく、この予選シークエンスで主役に躍り出たのが、言わずと知れたデイル・アーンハートJr.率いるJRモータースポーツ(JRM)だった。
昨季のNASCARエクスフィニティ・シリーズ王者に輝いたジャスティン・オルゲイヤーとともにカップ初参戦を目指すチームは、最初の予選デュエルで9位に喰い込み、40号車シボレー・カマロZL1を公式に決勝のスターティンググリッドに送り込むことに成功した。
「この感情を言葉で説明するのは難しい。おそらく、これまで答えなければならなかったなかでもっとも難しい質問だ」と予選通過直後のアーンハートJr.も感極まった状況で応じた。
「カップシリーズでレースをしたい気持ちを控えめにしようとしてきた。少なくとも僕はそうしてきた。『運命なら運命だ』という感じだ。自分の世界で起こっている他の素晴らしいことを台無しにするつもりはないからね。でも、ここに来て、その味を知った。まったく、昨日は本当にがっかりしたよ」と、シングルカー予選で3番目に速い結果を出しながら、わずか0.0008秒差で権利を逃した事実を振り返る。
「実際に経験してみるまで、自分がどれだけこれをやりたかったのか、あるいはこのようなことに参加したかったのか、正確にはわからなかった。昨日は(0.0008秒遅れという)単純なことさえ理解するのがとても大変だった。本当に理解しにくく受け入れるのが難しかったよ。ここから先は真に最高の瞬間だ」
同じく「今が何曜日で、何時なのかも分からない。タイムワープしているような気分だ」と語ったオルゲイヤーも「デイルとケリー(・アーンハート・ミラー /共同所有者)がここにいて、彼らの感情や今夜ピットロードにいる全員の感情を見ると、言葉で言い表すことはできないと思う」と続けた。
「デイルはすでに言っているが、なぜこれが違う感じなのか、なぜこれがより感情的なのか、なぜこれがよりプレッシャーとストレスなのかはわからない。僕としては、デイルをがっかりさせたくないし、ケリーをがっかりさせたくないし、ファンをがっかりさせたくないだけだと思う」と続けたオルゲイヤー。
「クリス・ステイプルトンとトラベラー・ウイスキー(カントリーミュージックのスターでグラミー賞を10回受賞。週末は自身の醸造ブランドで初のタイトルパートナーに就任)は、今回のこのプロジェクトに非常に興奮している。うまくいけば、彼は日曜日にここへ来る予定だが、彼が現れたときにフィールドにクルマが1台もなかったら嫌だった。それはかなり奇妙なことだからね」
こうして迎えた日曜は、ドナルド・トランプ大統領も出席してスタートが切られたものの、わずか9周のグリーンフラッグを経てレースは降雨中断に。ここから3時間9分59秒も続いた赤旗のあと、路面を確認しながら12周を走行したものの、レースは短期間のスコールに見舞われふたたび20分29秒の中断を強いられる。
夜の帷(とばり)が迫る薄暮の“マジックアワー”に、ようやく24周目から本格的な勝負が幕を開けると、ゼイン・スミス(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)とジョシュ・ベリー(ウッド・ブラザーズ・レーシング/フォード・マスタング)が絡んだアンダーコーションのまま、王者ジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)がステージ1の勝利を手にしていく。
しかし71周目のリスタートではチャンピオンの22号車に異変が生じ、スロットルボディに破片が詰まったことで加速が鈍り、背後のターン1で7台が絡む“ビッグワン”が発生。ここでトゥルーエクスJr.やロス・チャスティン(トラックハウス・レーシング・チーム/シボレー・カマロ)に続き、奮闘の僚友カストロネベスも戦列を去ることとなった。
「アクスルが壊れた」と笑顔で応じたカストロネベス。「もちろんガッカリしている。たくさんのことを学んでいたからね。周回を重ねるにつれ、空気の流れやドライバーたち、燃料節約のために彼らが何をしているのかがわかってくると、信じられない気持ちになる」と続けたインディ500通算4勝のスター。
「危うい瞬間もあったが、ああ、残念だ。まだ理解すべきこと、学ぶべきことがたくさんあるし、まだレースに出ていられれば良かった。プロセス全体に少しずつ慣れてきたんだけど……でも仕方ないね」
前述のとおり木曜夜の予選デュエルで事故に遭遇し、土曜の午後に出場したARCAメナーズ・シリーズでも多重事故に巻き込まれていたカストロネベスだが、これが“最後のNASCARカップシリーズ”にはしたくないと意欲を示す。
「もちろんだ。クルマに乗るたびチェッカー前に降りたくはないが、残念ながらこれが今回のシナリオだった。トラックハウス・レーシングと『プロジェクト91(国際ゲスト招聘枠)』、そして(代表の)ジャスティン・マークスに、この素晴らしい機会を作ってくれたことを感謝したい」
「今は少し理解が深まったが、楽しい時間を過ごしていたからこそ、すべての過程を終えたいま、もう少しシートタイムが欲しかった。次はロードコースで、ぜひそうしたいね」
■運命のファイナルラップは「自分の直感を信じた」
その後、ステージ2は2023年王者のライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が制覇し、今季もチーム・ペンスキーが盤石の体制であることを誇示したが、残り38周でデブリ由来のコーションが発動すると、そこからはレースの様相が一変。デイトナらしいラストの攻防に向けた肉弾戦が繰り広げられる。
残り15周となる186周目に、まず3番手にいたリッキー・ステンハウスJr.(Hyakモータースポーツ/シボレー・カマロ)がロガーノを牽制にいった動きがクラッシュの引き金となり、ここでブレイニーを含むペンスキー艦隊と、ノア・グラグソン(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)、カイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)、週末好調のブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)、そして今季のエキシビジョン“Clash”覇者チェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)らが姿を消すことに。
残り8周で迎えたリスタートからは、デュエル2勝者のオースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が僚友の仇討ちとばかりに先頭集団を牽引したが、残り5周で4番手コール・カスター(ハース・ファクトリー・チーム/フォード・マスタング)が前方のクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)をプッシュすると、196周目に外壁に激しく衝突したベルの20号車は、そのままSAFERバリアに跳ね返って車列後方のライアン・プリース(RFKレーシング/フォード・マスタング)と激突してしまう。
これで宙を舞ったプリースの60号車マスタング“ダークホース”は、屋根から着地して滑走したのち直立。この夜における最大のクラッシュに巻き込まれたプリースにとっては残念ながら珍しい経験ではなく、2023年のダラデガ、昨季2024年夏のデイトナに続く、立て続けのバレルロールとなった。
「クルマがあんなふうに飛び出したとき、周囲の動きは本当に静かになり、娘のことばかり考えていた」と明かしたプリース。「無事に帰って来られたのは幸運だった。風の強い日にトラックに出ると、ディフューザーのせいか、それとも……とにかく、このクルマがベニヤ板のようになる原因が何かは分からない。僕は無事に逃げられたが、誰かが逃げられない状況に本当に近づいている」と現行Next-Gen規定のスーパースピードウェイ仕様にも警鐘を鳴らす。
都合10台のクルマが絡んだこのクラッシュにより、レースは延長戦のオーバータイムに突入。総勢15名のドライバーにより56回のリードチェンジを経た勝負は、ハムリン、シンドリック、カスターの対決構図となり、バックストレッチでシンドリックに先行したハムリンに対し、カスターがアウトサイドに振ってから降下。この動きが最終周でのクラッシュを引き起こした。
「フラストレーションが溜まる。ホワイトフラッグをリーダーとして捉えていたんだ」と木曜のデュエル・アット・デイトナ2を制覇していたシンドリック。「リスタートはすべて正しく実行できたと感じたし、最終ステージ3全体もそうだった。今回はトップからクラッシュしなかったのでマシだったが、それでも気分は良くならないね」
同じく「2号車(シンドリック)を捕捉して、追い抜いた」と語ったハムリンも巻き添えとなり、バイロンに重要なチャンスを与えてしまう。
「どちら側で追い抜くかある程度コントロールできるくらい、彼と長く一緒にいた。41号車(カスター)が追い抜いて行ったが、彼をブロックしないことにした。なぜなら、こういうレースではターン4を無事に抜けて生き残らなければならないが、今回はそれが出来なかった」
こうして白煙の上がる最終ラップのクラッシュから、トップのハイラインを抜け出したバイロンの24号車が、伝統の“グレート・アメリカン・レース”を2年連続で制覇するデイトナらしい予想外のエンディングとなった。
「ああ、もちろん運もあったけど、最後のラップでは自分の直感を信じたよ」とフィニッシュ直後に明かしたバイロン。
「彼らがボトムの方で不安定になっているように感じたし、正直言って、こちらは6番手あたりからの追い上げだったから、とにかく3番(上段)レーンに行くつもりだった」
「それが僕らに有利に働いたのは明らかに幸運だった。でも、このチームを本当に誇りに思う。1週間ずっと一生懸命に働いて、素晴らしいクルマを持っていた。ただ燃料を節約し、なんとか先頭に留まるのに本当に苦労した。クレイジーだよ、正直信じられない! でも僕たちはここにいる。とても誇りに思う」
金曜夜に併催されたNASCARクラフツマン・トラック・シリーズの2025年開幕戦『フレッシュ・フロム・フロリダ250』は、アンダーコーション決着でトップチェッカーを受けたパーカー・クリガーマン(ヘンダーソン・モータースポーツ/シボレー・シルバラードRST)の75号車が、レース後の再車検で最低地上高違反を指摘され衝撃の失格処分に。これでコーリー・ハイム(トライコン・ガレージ/トヨタ・タンドラTRD-Pro)がキャリア通算12勝目を手にすることに。
同じく併催のNASCARエクスフィニティ・シリーズ開幕戦『ユナイテッド・レンタルズ300』は、こちらも背後で大規模な多重事故が発生するワイルドなフィニッシュを制した20歳のジェシー・ラブ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)が、同じくアンダーコーションの延長戦勝負で勝利を飾っている。