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東京駅から、各方面への中距離電車が運行している。東京圏内で中距離電車として分類されるのは、横須賀線や総武快速線、上野東京ラインや湘南新宿ラインの各路線だ。
これらの中距離電車の大きな特徴は、「トイレ」と「グリーン車」が備わっている点である。かつてグリーン車が導入されていたのは東海道本線と横須賀線のみだったが、徐々に拡大し、現在では当たり前のようにあるものとなっている。
そんななか、比較的長い距離を走るにもかかわらず、長年「普通車のみ」という状態を維持し続けていたのが中央快速線だった。
なぜ、中央快速線には長らくトイレやグリーン車が導入されなかったのか。そして今回の導入で何が変わるのか。
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●中距離を走る電車は、中央本線にもあったが……
かつては、東京から高尾に向かうトイレなしの「快速」と、新宿から甲府・松本方面に向かうトイレありの「普通」は別の列車として存在しており、新宿からの列車は高尾までは三鷹、立川、八王子にしか停車しなかった。
ところが、甲府・松本方面へ向かう普通列車が立川や高尾発となり、高尾より西へ行くには乗り換えが必要となった。高尾を過ぎると利用者が大幅に減少し、列車の本数も少なくなる。そのため、高尾より東側では10両編成の通勤型電車、西側では6両編成の近郊型電車というすみ分けが行われるようになった。
その一方で1986年に大月まで特別快速などの運行が行われるようになり、次第に本数も増えていった。しかし、この区間にはある問題があった。東京から高尾までの区間であれば、一旦どこかの駅で降りてトイレを利用しやすいが、高尾から大月までの区間では列車の本数が少なく、気軽に降車ができないことだ。そのため、都心部のような通勤型電車で、中距離移動を強いられる状況が発生していた。
東海道本線などの路線では、都心部にもトイレ付き車両が導入されているが、中央快速線には長らくそうした設備がなかった。東京から大月まで乗り通す利用者がいるにもかかわらず、快適な移動に必要な設備が整っていない状態が続いていたのである。
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●中距離移動には快適な座席の提供も求められた
中央快速線が中距離電車化するにあたり、快適な座席の提供も求められるようになった。
そのための手段として考えられたのが、グリーン車の導入である。JR東日本は2012年に発表した経営構想において、速達性や着席サービスの改善を含む東京圏ネットワークの充実を掲げていた。その一環として、中央快速線や青梅線にグリーン車を導入することを決定した。
しかし、中央快速線は混雑が激しい路線であり、10両編成のままグリーン車を組み込むことは難しかった。そこで、2階建てグリーン車を2両追加し、12両編成とすることで対応することになったのだ。
この改編により、既存の普通車の定員を維持しつつ、グリーン車の導入により、定員を増やすことが可能になった。
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●度重なる延期を経て導入された、中央快速線のグリーン車
当初、中央快速線のグリーン車は2020年度に運行開始予定だった。しかし、ホームの改築工事に想定以上の時間がかかったこと、さらに半導体不足などの影響で新車両の製造が遅延した。これにより、当初の計画は延期を余儀なくされた。
ようやく中央快速線にグリーン車が組み込まれるようになったのは、2024年10月のことだ。
導入初期は、グリーン車なしの編成とグリーン車付きの編成が混在するため、「お試し期間」として正式運用開始前の2025年3月14日まではグリーン車の料金が無料となった。ダイヤ改正が終わる翌15日から中央快速線のグリーン車が正式にサービスを開始する。この日からは、アテンダントが乗車し、グリーン車内のトイレも使用可能となる。
なお、普通車のトイレ自体の設置は段階的に進められ、設置された車両では2020年3月のダイヤ改正以降、利用が可能となった。最終的に、2023年度末までにすべての普通車にトイレが設置された。
●「通勤電車」と「中距離電車」を両立しなければならない中央快速線
中央快速線の複々線区間は、御茶ノ水から三鷹までに限られている。そのため、本来都心まで乗り入れるはずの中距離電車が入れず、中央快速線の車両がその役割を担わざるを得ない状況になっていた。
特に中野から立川にかけての区間では、さまざまな利用者が乗車している。中距離移動で座りたい人もいれば、短距離移動で立っている人もいる。しかし、上述の理由から中距離電車の乗り入れができなかったこともあり、中距離利用者の快適性は損なわれていた。JR東日本の他の幹線のように、グリーン車の連結やトイレの設置が求められていた路線でありながら、それが長年実現していなかったのである。
中央快速線は「通勤電車」と「中距離電車」の役割を両立する必要があるにもかかわらず、これまでは中距離電車としての機能が提供できていなかった。こうした中距離電車不足をカバーするため、JR東日本は、東京から八王子・青梅間の特急列車を2025年3月のダイヤ改正まで運行する動きも見せていた。
中距離利用者にとって不可欠な、快適な座席やトイレ。今回の導入により、これまで不便を強いられてきた中距離利用者も、やっと快適な通勤・移動ができるようになりそうだ。
(小林拓矢)
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