2019年12月に日本上陸を果たしてから5年。Xiaomiが、日本での本格的な拡大戦略にかじを切る。3月13日に開催されたイベントでは、3月2日(現地時間)にスペイン・バルセロナで発表されたばかりの「Xiaomi 15 Ultra」を披露。日本で初となるフラグシップのノーマルモデルとなる「Xiaomi 15」の発売予定も明かされた。スマホ以外のワイヤレスイヤフォンやタブレット、IoT家電とその製品数は多岐にわたる。
これらを一挙に展示、販売する拠点として、Xiaomi Storeの常設店もついにオープンする。提携したのは、イオンモール。3月22日には埼玉県のイオンモール浦和美園店で、4月5日には同じく埼玉県のイオンモール川口店で、店舗の運営を開始する。本格的な拡大に向けかじを切ったXiaomiだが、どのような販売戦略を立てているのか。その詳細を解説する。
●より早く、より安く投入するUltra、無印フラグシップも初投入
3月2日にスペイン・バルセロナでグローバル版のXiaomi 15、Xiaomi 15 Ultraを発表したXiaomi。MWC Barcelona 2025に合わせて披露した2機種は、イベントでも高い評価を得ている。そのお披露目からわずか11日後の3月13日に、Xiaomi Japanは日本でも製品発表会を開催。2機種の発売を正式にアナウンスした。2024年は最上位モデルの「Xiaomi 14 Ultra」のみ投入された格好だが、今年はラインアップを広げ、フラグシップモデルの標準機ともいえるXiaomi 15も発売する。
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グローバル版の発表から日本上陸までのタイムラグも、大きく縮めてきた。2024年はバルセロナでの発表から約2カ月半後の発売だったが、Xiaomi 15 Ultraはほぼ同時といっていいタイミングになった。全世界で展開しているメーカーでも、発売時期は国や地域をいくつかのまとまりに分け、段階的に投入するのが一般的。より重要視している市場ほど、発売を早める傾向がある。その意味では、Xiaomiが日本市場攻略により本腰を入れてきたサインと受け止めることが可能だ。
ラインアップを広げ、発売時期を早めただけでなく、2024年のXiaomi 14 Ultraから価格も引き下げてきた。グローバル版はXiaomi 15が999ユーロ(約16万円)から、Xiaomi 15 Ultraが1499ユーロ(約24万円)からだったが、日本での価格(税込み)はXiaomi 15が12万3000円から、Xiaomi 15 Ultraが17万9800円からと、EU圏よりも安価に販売する。アジア市場では安めの価格をつけることが多いXiaomiだが、日本市場での価格もここに合わせてきた。
2024年発売されたXiaomi 14 Ultraとの比較では、2万円の値下げになる。この価格を実現できた背景を、Xiaomi Japanのプロダクトプランニング本部 本部長を務める安達晃彦氏は、「グローバルと極力スペックをそろえ、全体のボリュームによってコストを抑えているところがある」と明かす。また、「サプライチェーンも最適化し、これまで以上にアグレッシブな価格戦略を採用した」(同)という。
2機種ともオープンマーケットでの展開で、おサイフケータイなどの国内向けカスタマイズは施されていないが、それが投入を早め、価格を抑えられる理由にもなったというわけだ。大手キャリアの取り扱うモデルが一部に限られる中、オープンマーケットモデルとして差別化を図るための策ともいえる。実際、キャリアに導入された「Xiaomi 14T」や「Xiaomi 14T Pro」は、海外だと9月に発売されたが、日本への投入は2カ月程度遅れている。
国内向けのカスタマイズを加えたXiaomi Tシリーズが存在する中、投入時期にさほど差がないXiaomi 15やXiaomi 15 Ultraをあえて日本専用仕様にするより、グローバルモデルとして展開した方が製品の差別化にもなる。2台持ちや、スマートウォッチでFeliCaをカバーできるコアなユーザー層との親和性が高いこともあり、フラグシップモデルはタイミングや価格を重視したというわけだ。ラインアップをどう広げていくかは、「10割の打率でやるのではなく、トライアンドエラーの中で見極めながらやっていく」(同)という方針。後述するXiaomi Storeの拡大もあり、品数重視に踏み切った格好だ。
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●ついにオープンするXiaomi Store、海外での関係を生かしてイオンモールに出店
Xiaomi 15、Xiaomi 15 Ultraの投入に合わせ、Xiaomi Japanは日本で常設のXiaomi Storeをオープンする。冒頭で述べたように、3月、4月にそれぞれ1店舗ずつを展開。いずれも、埼玉県内にあるイオンモール内での出店になる。Xiaomiは2024年、東京都渋谷区の渋谷PARCO内に、ポップアップストアとしてXiaomi Storeを開設。現在は閉店しているものの、延長を重ねて国内でのショップ運営ノウハウを蓄積してきた経緯がある。
このころから、Xiaomi Japanは常設の店舗を国内でも展開する方針を掲げ、その可能性を模索していた。では、なぜイオンモールだったのか。実は、海外でも、Xiaomi Storeがイオンモール内に出展していたケースがあり、両社は以前から取引関係があったという。イオンモールの取締役執行役員 営業担当 坪谷雅之氏は、既に「アジアの26モールで、Xiaomi Storeを展開していただいている」と語る。
坪谷氏が「海外での活躍を見て、日本でもぜひ展開してほしいと継続的にお話をしてきた」と話すように、イオンモール側からも、Xiaomi Japanにラブコールを送っていた格好だ。「当社のショッピングモールにはファミリーのお客さまが多く来店いただいているが、Xiaomiのスマート家電は忙しい家族の時間を効率化し、より家族の時間が多く生まれる(ことに貢献している)」というように、イオンモールの客層と、Xiaomiが販売する商材がマッチしていることも、出店を持ちかけた理由だという。
実際、発表会では、Xiaomi 15やXiaomi 15 Ultraに加え、スマート家電やIoT製品などが多数発表された。スマート体重計やチューナーレスTV、室内用スマートカメラといったインターネットに接続するIoT製品だけでなく、エアフライヤーや掃除機などの一般的な家電まで多数取りそろえられた。これらをインターネットにつなぐ、メッシュWi-Fi対応のルーターまでそろえられていたほどだ。家庭の中の、あらゆるユースケースをカバーしようとしていることがうかがえる。確かに、こうした製品群と、ファミリー層が多いイオンモールは相性がいい。
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坪谷氏が「“まずは”関東圏。今後、われわれが運営する日本全国のモールのお客さまにXiaomi Storeをご覧いただき、体感していただくことを引き続き取り組んでいきたい」と述べていたことから、埼玉県の2店舗を皮切りに、イオンモールへの出店を拡大していくことがうかがえる。国内だけで163のモールを抱えるイオンモールだけに、Xiaomiにとって、強力なパートナーになりそうだ。
もっとも、イオンモールはどちらかといえば郊外が中心で、東京23区のように比較的小型の店舗しかない地域もあるため、その他の出店も考えているようだ。Xiaomi Japanの副社長を務める鄭彦氏は、「立地条件にもよるが、必ずしもイオンモールだけになるというわけではない」と語る。拡大している中では、単独店舗のような出店形態を取る地域が出てくる可能性もある。
●ミッドレンジモデルも発表、謎が残るRedmi Note 14 Pro 5Gの仕様
Xiaomi Storeの開設でオンラインに加え、オフラインの直販を強化しているXiaomiだが、Xiaomi 15やXiaomi 15 Ultraをより強力に販売するのも、こうした戦略の一環といえる。スマート家電を豊富に取りそろえ、事業の多角化は進んでいるものの、Xiaomiの売り上げはスマホの占める割合は半数程度と高い。Xiaomi Storeの展開には、Xiaomi自身がコントロールできるオープンマーケットモデルが必要だ。それも、その他の家電に負けないバリエーションが必要になる。
こうした戦略のためか、3月13日のイベントではフラグシップモデルとなるXiaomi 15やXiaomi 15 Ultraだけでなく、ミッドレンジモデルの「Redmi Note 14 Pro 5G」も合わせて発表している。2億画素のメインカメラを備えたモデルで、プロセッサにはMediaTekの「Dimensity 7300-Ultra」を採用。これは、1月に発売された「POCO X7」と同じプロセッサで、処理能力は比較的高めの端末になる。
オープンマーケットモデルを一気に拡充しているXiaomiだが、キャリア経由の販路は諦めてしまったのか。この疑問に対し、先の鄭氏は、「日本では、キャリアと量販、弊社自身のチャネルのバランスを取りながらやっていく」とコメント。「スマホはキャリアやMVNO、量販店が強いので、そこは一緒にビジネスをやっていく」とした。豊富なラインアップの中から、一部はキャリア向けにカスタマイズを施しつつ、そうでないものは自社で展開していく方針と捉えていいだろう。
安達氏も、「販路によって期待できる数量は大きく異なる」としており、キャリア経由で数を稼ぎつつ、オープンマーケットではよりバリエーションを出していく方針であることを示唆した。事実、発表会にはキャリア関係者も招待されていたという。今回発表されたスマホやタブレットは、いずれもオープンマーケットモデルで、これらがキャリアでも販売されるというわけではないが、今後、何らかの形でキャリアの必須仕様に沿った端末が追加される可能性はある。
もっとも、ミッドレンジモデルで販売数が稼げそうなRedmi Note 14 Pro 5Gまで、FeliCaなどの日本仕様が省かれていた点には疑問も覚えた。同クラスの端末は、数が出ることでコストを抑えている。また、フラグシップモデルほどとがったユーザーが使う端末ではないため、今までの端末でできていたことが求められる傾向も強い。翻って日本市場全体を見渡すと、5万円前後の端末でおサイフケータイなどに全対応しているモデルは多い。
実際、Redmi Note 14 Pro 5Gの先代にあたる2024年モデルの「Redmi Note 13 Pro 5G」は、同じく2億画素カメラに比較的高性能なプロセッサを搭載しながら、おサイフケータイに対応していた。オープンマーケットモデルはなく、auやUQ mobileが同モデルを取り扱っていた。その上位版にあたる「Redmi Note 13 Pro+ 5G」はオープンマーケットモデルながら、ベース機と同様おサイフケータイに対応している。
コストパフォーマンスの高いミッドレンジモデルは、Xiaomiのシェアを支えているだけに、この仕様の割り切りによって販売数を落としてしまう恐れもある。2024年とは異なり、上位モデルが発表されていないため、“隠し玉”がある可能性もあるが、現状では、Xiaomiが軸足をよりオープンマーケットに移しているようにも見える。少なくともXiaomi Storeの展開開始に伴い、ラインアップ戦略を転換し始めていることがうかがえた。
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