「一緒に旅行より私にお金を」定年後に豹変した妻に「遺産なんて、一円も残したくない」…夫が決断した「相続廃除」その条件は【行政書士が解説】

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2025年03月15日 21:00  まいどなニュース

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退職してから優しかった妻が豹変してしまう… ※画像はイメージです(kapinon/stock.adobe.com)

長年勤めた会社を定年退職したAさんは、妻と穏やかな老後を過ごせると心を弾ませていました。退職金も入り、二人で温泉旅行に行く計画を立てていたのです。しかし定年退職から1週間もすると妻の態度が豹変します。Aさんが朝食の準備をしていると、妻が突然キッチンに入ってきて、「あなたの作る料理なんて食べられないわ」と言い放ちます。掃除をしていても「下手くそね」と冷ややかに言い、洗濯物を干していると「そんなやり方じゃシワになるわよ」と批判の言葉を浴びせるようになりました。

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温泉旅行の話を持ち出しても、妻は「そんなお金があるなら、私に渡しなさいよ」と言われてしまいお金を引き出してしまったのです。Aさんから貰ったお金で友人と食事にいこうとする妻にAさんが抗議すると、妻は「私が自由に使って何が悪いの?」と開き直りました。

その後も毎日、妻からの暴言を浴びせられたAさんの自尊心は踏みにじられていきます。ついには「こんな妻に遺産なんて、一円たりとも残したくない」と思うようになりました。ただ、単に遺言書を書いても、妻には遺留分のお金が渡ってしまいます。

そこでAさんは、妻の暴言や金銭の無断使用の証拠を集め始めて、「相続排除」の手続きを取ろうと考えたのです。では、この相続廃除とは一体どのような制度なのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

ー相続廃除とはどのようなものですか

相続廃除とは遺留分権を有する相続人を、相続人の対象から外す制度です。民法892条にて、被相続人への虐待や重大な侮辱、もしくはその他の著しい非行があったときに相続廃除ができると示されています。

ただし被相続人による家庭裁判への申し立てが必要です。家庭裁判所が相続廃除を認めた場合、その対象者は相続する権利を失い、遺留分の請求もできなくなります。Aさんの場合、妻の行為が重大な侮辱、その他の著しい非行に該当すると認められれば、相続廃除できるでしょう。

これらの行為が被相続人と(推定)相続人との間の人的信頼関係を破壊したに足るものであるかが評価の基準で、そのハードルは決して低くはないと考えます。

また相続廃除は遺言書に該当の相続人を廃除する旨をしるすことで、死後家庭裁判所に申し立て、審判により認められた場合、廃除の効果が生じることとなります(遺言廃除)。この場合、被相続人になりかわって遺言執行者が申し立てを行うことになります。

なお、廃除相続人の相続権は直系卑属(子など)に代襲される点が相続放棄の場合と異なります。

この事案では、妻の行為の原因となる背景が判然としませんが、妻にそのような行為をさせるに至った夫にも原因がある場合(誘発原因)、人的信頼関係を破壊した責任は被相続人にもあるとして、廃除事由に該当しないとの判示もあります(平成8年9月2日東京高等裁判所決定)。

ーどれくらいの割合で認められるものなのでしょうか

裁判所の司法統計年報によると、実際に審判を下された件数のうち、相続廃除および廃除取消が認められた割合は約20%前後と決して高くはありません。廃除取消の件数も含まれていることを考えると、実際に排除された件数はさらに少なくなるでしょう。

本当に相続廃除を望むのであれば、早めに専門家に相談し、証拠集めなどの対策が望ましいと考えます。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

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