
3月9日、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の第10話が放送された。大河ドラマ64作目となる同作は、大河では数少ない“合戦シーン”がない作品だが、人気俳優の横浜流星が主演を務めることもあって放送前から期待値が高かった。
視聴率は初回が12・6%という数字で、ここ数年の大河ではそれほど悪くないスタートを切っている。しかし、「テンポがよくて、痛快で面白い」という評判とは裏腹に、思ったほど数字の上昇は見られず、それどころか下がることも。第8話は9.8%と1桁台に落ち込み、第10話では10.6%に回復したものの、この先どうなるか不安は隠せない。
専門用語が頻出
NHKの公式サイトを見ると、《日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築き 時にお上に目を付けられても面白さを追求し続けた人物 “蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯。笑いと涙と謎に満ちた“痛快”エンターテインメントドラマ!》と紹介されている。確かに“痛快さ”を感じることはできるが、視聴率が思ったほど上がらない理由はどこにあるのか。テレビ誌ライターは、こう分析する。
「その昔、映画やテレビでは、最後は悪が滅びる定番の“勧善懲悪・痛快時代劇”が喜ばれ、各局で何かしら時代劇が放送されていました。そして、そのどれもが割と視聴率を獲得していました。時代劇のファンは50代、60代以上の年配の男性が多いです。
大河のファンもやはり主に年配の男性が多いですが、大河ファンは、“痛快さ”よりも“歴史観”を重視する傾向にあります。多少の脚色があっても、子どものころに歴史の授業で学んだ“有名人”や、実際に起きた歴史的な出来事がドラマで再現されるのを楽しみたいんです」
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確かに、歴史の授業で『蔦屋重三郎』を習った人は少ないかもしれない。いや、ほとんどいないのではないか。また、“日本のメディア産業”や“ポップカルチャーの礎”と言われても、ピンとこない人も多いのでは。
「江戸時代に“本”を作った人の話ですが、思っていたより専門用語が多く出てきます。時代劇では当時の話し言葉で台詞を言うこともありますが、なんとなく理解できます。しかし、専門用語となるとさすがにわかりにくい。青本や赤本、細見など、その都度、検索して確認するのも楽しいのですが……」(前出・テレビ誌ライター)
概念を変えた『大奥』
そして、世帯視聴率の上昇を妨げている原因がほかにもある、と語るのはベテラン映画記者。
「NHKの番組は昔から、家族で楽しめるというのが基本だったと思います。ですから、ドラマでは血が噴き出すような残酷なシーンや度が過ぎる暴力的なシーンはありませんでした。民放で放送されていた時代劇ではリアリティーを求めて、斬られたときの効果音や着物が切られて出血している様子が写し出されることもありました。
ですが、大河ドラマの合戦シーンなどでは見られません。また、恋愛ドラマでも激しいラブシーンが描かれることはありませんでした。それが、10年ほど前から変わってきたような気がします。特に10時以降の遅い時間帯に放送されるドラマですね」
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“大人の恋愛ドラマ”ではラブシーンが不可欠とも言えるのだが、そこはNHK、さほど過激なシーは描かれなかった。ところが、昨年放送された『大奥』がその概念をがらりと変えてしまったのだ。
「ラブシーンというより、もはや“濡れ場”と言っていいほど過激なシーンの連発。ボーイズラブも描かれて、業界から“NHKは攻めてるな”という声が多数上がりました」(前出・テレビ誌ライター)
それでも、『ドラマ10』という枠の、遅い時間帯に放送されたドラマなので小中学生が見ることはないと思われた。もしそんなドラマが、一家団欒の時間帯に放送されたのなら、“攻めてるね”と歓迎されることはなかっただろう。そして、
「昨年放送された大河ドラマ『光る君へ』はこれまでの大河とは違って、異例尽くしと評されました。中でも、キスシーンなどのラブシーンが多く見られ、時代劇ながら“大人の恋愛ドラマ”として見ることができました」(前出・映画記者)
“攻めた”シーンの連続
大河の放送時間はNHK総合で、日曜日の午後8時。家族で食事をしているか、食事が終わってくつろいでいる時間だろう。SNSでは《子どもと一緒に見ている大人が気まずい気持ちになる》という声が上がっていた。『べらぼう』では、それがより顕著に。
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「まず舞台が、江戸時代の吉原。今で言う“風俗街”です。小中学生の子どもに“吉原ってどんなところ? 花魁って何をする人?”と聞かれても、説明に困ってしまいます。それに加えて初回では、後姿でしたが、死んだ花魁が全裸で横たわっているシーンがありましたし、3月2日の放送では、一瞬ですが小芝風花さん演じる花魁『瀬川』が客と“事”に及んでいるシーンが流れました。これがけっこう生々しくて、《これではとても子どもと一緒に見ることはできない》と言っている視聴者は多いです」(前出・テレビ誌ライター)
そんな背景もあり、録画した上で子どもが寝た後に見る、あるいは配信で見る視聴者が増え、視聴率に影響しているのではないかという。
ネット上では、「最近のNHKのドラマは面白い」という声が増えている。それは本当に大人が見たいドラマを作っているからだろう。そもそも、ドラマの人気度が世帯視聴率では測れない時代になっているのだから、数字に囚われることなく、NHKにはこれからも“攻め”の姿勢を崩さないでほしいものだ。