※写真はイメージです 特殊清掃の仕事では、“孤独死”の現場に遭遇する確率が高い。だが、「いったいなぜこの環境で孤独死が起こるのであろうか?」と頭を抱えるケースがあるという。たとえば、“二世帯住宅”だ。
都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに詳しい話を聞いた。
◆二世帯でも日常生活で顔を合わせる機会は皆無
親世帯と子世帯が一緒に暮らす二世帯住宅の場合、孤独死とは無縁のような環境に思える。だが、2〜3ヶ月に一回程度は二世帯住宅での孤独死現場に遭遇するという。
「よくあるケースとしては、玄関で二世帯が分かれていて、建物の中で繋がっていないといった状況ですね。リビングや階段で繋がっていれば、物音がしない静けさや、臭いの異変などで気づきやすいと思うのですが……。世帯間で日常生活においてまったく交流がないことも多いので発見が遅れる場合もあります」
特に、兄弟などの関係性で二世帯住宅の孤独死が増えてきているという。
「上の階にお兄さん、下の階には弟さんの夫婦が住んでいて。6LDKなどの間取りで、1フロアで150平米くらいあるような豪邸です。
兄弟同士は最低限のやりとりはあるものの、わざわざ声をかけたりといったこともなく、顔を合わせれば喋るくらいの関係だったようです。最近顔を見ないから大丈夫かなと思い、家をたずねると、すでに死後3週間くらい経過していて、体液などが滲み出ていたという状況がありました」
孤独死の発見でよくあるのが、2階の体液が下の階に垂れてきて気づくというパターンだ。しかし、今回は豪邸できちんとした作りになっていたことが仇となり、発見が遅れてしまった。
◆距離感が近すぎて逆に交流を避けるケースも
「二世帯住宅とはいえ、実質、マンションの隣の家みたいな感じになるので、どうしても発見が遅れてしまうようです。
また家が近すぎるというのが、逆に交流をしない原因にもなっているようです。本来は玄関は一つあって、家の中でもお互いの家を行き来できるといった作りにした方がいいかと思われますが、家族といっても“プライバシーを守りたい”など、様々な事情があるのでしょう。
自分の兄弟となると、“まだ死ぬ年齢じゃないから”という思い込みもあります。年齢は関係なく、二世帯住宅での交流は3日音沙汰がなかったら連絡を1本入れてあげるみたいに気を使ってあげることが大事なのかもしれません。倒れていても発見が早ければ、命が助かる可能性もあります」
◆「8050問題」引きこもりの息子が死んでも両親は“見て見ぬふり”
また、ふつうの一軒家で親子が同居している場合でも孤独死は発生するケースがある。
「高齢のご夫婦から『息子が家で自殺したので清掃にきて欲しい』と依頼がありました。私が『死後どれくらい経過してますか?』と尋ねると、『2〜3日は経過してるのでは?』と言われました。
現場に向かい、玄関の扉を開けると、ものすごい腐敗臭がしました。現場に入ると、2〜3日どころではなく、死後2週間は経過しているような具合でした。それは7月頃で、一緒に住んでいて腐敗臭に気づかないわけないのですが、おそらく故意に“見て見ぬふり”をしていたのではないかと疑問が浮かびました」
なぜ、このような状況になってしまったのか。詳しく聞きたい気持ちはやまやまだが、あまり深く突っ込みすぎるのもよくないそうで、グッと堪えたという。
「依頼主と話していてなんとなく感じたのは、無職で引きこもりの息子さんに手を焼いていたということでした。でもビックリしたのは、リビングの隣の部屋で息子さんが首をつるという選択肢を取ったことです。命を断つといっても外へ行くなどの方法はあったと思うんですよ。それを両親が食事をするリビングからふすま1つ挟んだ部屋で……。
両親はふつうに生活しているので、息子が首を吊ったらすぐわかると思うんですよね……」
家族構成としては、80代の両親と50代息子の3人。いま、ニュースで取り沙汰される機会の多い「8050問題」の典型例だろう。
◆すでに家庭は崩壊していた
亡くなった息子はいわゆる就職氷河期世代だ。
「息子さんが家にいて、何日も顔を見ていないはずなのに声をかけないといった状況に驚きを隠せないですよね。もしかすると嗅覚がおかしくなっていて、匂いに気づかなくなっていた可能性もあります。また、息子さんとの関係性も悪いので、食事なども各々で自由に食べていたのかもしれません。
息子さんは一体何を食べて生活していたのか気になります。外に出て弁当を買ってきて食べてるとかならわかりますが、無職だとそういったことはしないと思うんです。家族で住んでいるのなら食事の時に『ご飯ができたから置いておくわね』くらいは声をかけるはずなんです。そこから推測するに、家庭はもう崩壊していたのだろうと思いました」
遺書も用意されておらず、和室に体液が染み込んでいること以外は、特に変わった様子はなかったという。
「息子さんの部屋は荒れているわけではなく、かなり整理整頓をされていました。洋服ダンスとベッドがあって、押入れの中も綺麗に片付いていて。柔道の黒帯があったのでおそらく昔は柔道を真面目にやられていた方なんだなと思いました」
それにしても依頼主の対応には違和感を覚える点があったという。
「依頼主がご高齢の場合、必ず別のご家族とか第三者を巻き込んで契約をするようにしているんです。80代や90代になってくると、やっぱり物忘れとか自己での判断能力が低下していたりするので。でも『他に家族はいないし、認知症にもなってないので大丈夫よ!』と少し強い口調で言われたりもして、物の言い方にトゲがあるというか……」
◆二世帯住宅の孤独死に共通している特徴
さて、二世帯住宅の孤独死に共通するのは、まだ死ぬような年齢ではないにもかかわらず亡くなっていたケースが多いということだ。もしも両親がすでに高齢の場合は顔を見ていないと心配になって会いに行ったりするのだろうが、“まだ若いから大丈夫だろう”といった慢心が孤独死につながってくるのだ。2〜3日に一度は顔を合わせたり連絡を取ってみたり、生存確認をするべきだろう。
<取材・文/山崎尚哉>
【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦