
一方で、そんなことは気にもしなかったという人たちもいる。人の受け止め方、感じ方は本当に千差万別だ。
ママ友が怒っていたファミレスへ
「ママ友が、最近できたファミレスの女性スタッフさんが『すごくがさつで嫌だった』と言うんですよ。うちでもみんなで行ってみたんですが、そのママ友が言うスタッフさん、特に何の問題もなくて。うちは3人子どもがいて、一番下は4歳。ファミレスで人に迷惑をかけたらいけないから、きちんと言い聞かせてから連れていきましたが、案の定、途中で『これ嫌だ、おにいちゃんのがほしい』と騒ぎだして。『さっき言ったでしょ、うるさくしたらもう連れてこないよ』と小声で叱ったんです。するとそのスタッフさんが、子ども向けのちょっとしたノベルティーをもってきてくれたんです」
ケイコさん(42歳)は、ファミレスに夫と子ども3人の5人家族で行ったときのことを話してくれた。ノベルティーをもってきたスタッフは、4歳の子に話しかけ、「ご飯を食べ終わったらこれで遊ぼうね」と言った。すると息子はおとなしく食べ始めたそうだ。
感じ方は人それぞれ
「子どもの扱いを分かっているし、フランクでいい感じだったんですよ。ママ友は『お皿の置き方が雑だった』というけど私は全然、そうは思わなかった。音をたててガチャンと置かなければいいじゃないかと思うタイプなので。高級店なら別ですけどね」支払い時もレシートと釣銭をそれぞれ片手で差し出したのが、ママ友は気に食わなかったようだが、それも気にはならなかったとケイコさんは言う。
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確かにそれも意見が分かれるところだろう。
ひざまずくのはやめてほしい
「近くにいい喫茶店があって、時々ママ友たちと行くんです。夫婦2人でやっている店なんですが、ママさんがとても丁寧な人で、ちょっと話をするにも、いちいちひざまずくんですよ。私はどうもそれが苦手で……。でもママ友たちには好評なんですよね。接客のためにいちいちひざまずくことなんてないと思うけど」過剰な丁寧さがむしろ気になるというミエコさん(40歳)。彼女も前出のケイコさんのように、両手で包み込まれるのはもちろん、深いお辞儀をする店員さんも苦手だという。
「売った人と買った人。立場は違っても同じ人間。特にスーパーなど日常的な店なら、『ありがとうございました』と軽く会釈する程度で十分だと思う。丁寧すぎると時間ばかりかかるし」
ところが世の中には、「丁寧に接客されたい人」も多いのだ。だから接客業にはクレームが入りやすい。
人を下に見て文句ばかり言う父
「うちの父がそういう人間なんですよ。70代になった今も、文句ばかり言ってる。すぐに『あんたの口のききかたはなんだ、それが客に対する態度か』って。子どものころから、心の中でいつも、あんたはそれほど偉いのかと突っ込んでいました」人を下に見て、すぐに態度が大きくなる父を見ながら、ミエコさんは、こういう男性とは結婚するまいと決めていたという。
「夫と付き合い始めたばかりのころ、尊敬する人は誰かみたいな話になったんです。彼は『自分以外の他人には、全て敬意を払うべきだ』と言った。敬意は払うけど、特に尊敬する人物は作らないと彼は言う。『尊敬する人を作ると、軽蔑する人も作ってしまうから』って。いい人だなと思いました。
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当然、夫はどんな職業の人に対しても敬意を払っている。それは一緒にいるとよく分かるとミエコさんは笑みを浮かべた。
「接客業へのクレームって、やっぱり自分が不当に扱われたと思い込んでいることから起こるんですよね。よほど失礼な態度をとられたならともかく、いちいち文句を言わないと気がすまない、うちの父のような人間って薄っぺらいなあと思います」
無礼でもなく、過剰に丁寧というわけでもなく、人と人としてちょうどいい距離感はあるはずだが、感じ方が違いすぎるためにいざこざは絶えない。接客の態度を気にしすぎるタイプの人は、相手を「この人はこういう人なんだろうな」とさらりと受け止めるスマートさも必要なのかもしれない。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))