皇后杯躍進の新潟Lは“厳しい冬”をどう乗り越えたのか…山本英明社長が明かす苦労と努力

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2025年03月20日 11:04  サッカーキング

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©WE LEAGUE (写真は3/9 I神戸戦)
 度重なる寒波の影響を受け、新潟県にとっては厳しい冬となった。そんな中、アルビレックス新潟レディースは今年1月に行われた皇后杯で8大会ぶりに決勝に進出。タイトル獲得とはならなかったものの、橋川和晃監督のもとベテラン・中堅・若手の見事な融合で躍進を果たした。

 準決勝は1月18日、決勝は1月25日と積雪期の真っ只中で行われ、クラブは調整、決断、行動の忙しい日々を過ごしていた。「皇后杯に向けて1月の2週目からチームは再始動したのですが、そこから決勝まで、もっと言うと沖縄キャンプ開始(2月10日〜)までの期間に自前の練習場でフルピッチで練習できたのは一回だけでした」と明かしてくれたのは新潟Lの山本英明社長。今冬の知られざる苦労と努力、そして躍進を支えたサポーターへの思いを聞いた。

取材・文=三島大輔(サッカーキング編集部)

――まずは今冬の新潟の状況、クラブとしてはどういった苦労やアプローチがあったのかを教えて下さい。
山本 新潟は毎年雪が降りますし、雪の影響でトレーニングがしづらい環境というのは昔から変わりません。ただ、今年はよく雪が積もったし、雪が溶けづらい日も多かった印象です。聖籠町の練習場の様子をXで発信したのですが、ピッチが雪で埋もれているような状況でした。皇后杯に向けて1月の2週目からチームは再始動したのですが、そこから決勝まで、もっと言うと沖縄キャンプ開始(2月10日〜)までの期間に自前の練習場でフルピッチで練習できたのは一回だけです。新潟市内で比較的雪が積もりにくいグランセナさん(※新潟市西区を拠点とするサッカークラブ)の練習場をお借りしたり、クラブハウスから車で約1時間半かかる長岡市寺泊で練習したこともありました。選手たちはストレスを感じることもあったかと思います。そんな環境の中でも勝ち進み、準決勝・決勝までを戦うことができたことは、改めて素晴らしいと感じています。

車が埋もれそうな勢いで降り続くアルビレッジ❄このままでは明日以降ここでトレーニングができない💦
毎年のことですが、この時期の公式戦に臨む新潟は相当不利な環境😢

それでも文句や弱音を吐かず、#本気でタイトルに挑む 選手チームに熱い応援をよろしくお願いします📣#皇后杯 #albirexL #albirex pic.twitter.com/DHHgVncnwE— 山本英明/Hideaki YAMAMOTO (@AlbirexL1914) January 8, 2025

準決勝は京都、決勝は広島と西日本での開催だったので、公式戦の3日前からJ-GREEN堺に入り練習を行いました。クラブとしては日本サッカーの由緒正しき皇后杯という大会でタイトルを獲りに行く。大事な大会・試合に臨むにあたり、自前の練習場でここまで練習がままならず、改めて大変な冬でした。ただ、これは今に始まったことではありません。特に女子のプロ化が進み、私も深く携わる中で感じていることもあります。女子サッカーの地方中堅クラブの事業規模では、事実としてコスト的な難しさもありました。

――いつどこで練習するのか、どの選択がベストなのか。クラブスタッフの皆さんは調整、決断、行動の連続だったと思います。
山本 常にスケジュール、2〜3週間先の天気予報、お財布とにらめっこの日々です。直前で大雪になって練習できない、移動できないでは遅いので、早め早めの決断をしなければなりません。チームマネージャー、ゼネラルマネジャー、お世話になっている旅行代理店さんたちの協力があって乗り越えることができました。私もチームの荷物を自家用車の後ろに詰め込み、前日入りや練習会場まで届けたこともあります(笑)。繰り返しになりますが、選手たちは逞しく、天候や環境を一切言い訳にせず、感謝の気持ちを持ってサッカーに取り組んでくれました。

――秋春制のWEリーグと春秋制のなでしこリーグ、大学チームなども参加する皇后杯をいつ行うのがベストなのかは悩ましい問題だと思います。
山本 今年は1月中旬〜下旬にかけて準決勝と決勝が行われましたが、年内までに終わる時もありました。WEリーグ発足前、なでしこリーグを戦っていた時からリーグ閉幕後に皇后杯があるというスケジュール自体に変わりはありません。ですが、どうしても12月に入ると雪の影響が出てきます。青空の下で何一つ不自由なくクラブもあれば、我々のように苦労をするクラブもある。ディスアドバンテージは昔から感じていました。

――先ほど「コスト的な難しさ」というお話がありましたが、クラブ強化支援募金でたくさんのサポーターが支えてくれたそうですね。
山本 クラブの強化支援募金にご協力いただいた皆様には感謝しかありません。ちょうど今日、全体会議で強化支援募金の話をしたところでした。ひとえにクラブを愛し、応援してくださる皆様のお気持ちの表れだと思いますので、オンザピッチではひたむきに頑張る姿を見せること。オフザピッチでは地域活動、メディアやSNSを通じた発信など、より一層喜んでいただけるクラブ運営をしていくこと。それぞれの立場でできることをして、感謝の気持ちを示していこうと呼びかけました。



アルビレックス新潟は新潟県の県民球団として、男子・女子に限らず今日までやってきたクラブだと思っています。大変恐縮ではありますが、皆様のご支援で皇后杯決勝進出や沖縄キャンプがあったと思っています。心から感謝の気持ちしかありません。皇后杯の賞金も大変ありがたくいただいたのですが……。今冬の事前準備などでほぼ全てなくなってしまいました。いただける賞金だけではコスト的に補えなかったので、トレーニング環境の整備やサポート、クラブ強化支援募金は本当にありがたかったです。

――これまでの経験を踏まえ、山本社長が考える“現実的にベストな選択”というのはどういったことが挙げられるでしょうか?
山本 大きく分けると、自社努力と仕組み作りの二つだと思っています。まずはアルビレックス新潟レディースというクラブがもっともっと大きくなり、収益を上げられるようになること。降雪対応を含めたクラブ体力を付けていく必要があると思っています。サポーターが増え、我々クラブがもっともっと成長し、今後より高みを目指していきたいです。

そして、女子サッカー界としてこういった環境に陥っているクラブを公的にサポートできるファンド(基金)を用意することが解決策の一つになると思っています。降雪だけではなく、大雨による水害など、今は何が起こるか分からない地球環境です。チーム活動に大きな影響がある際には、公の立場で支えていけるような構造を作っていく。女子サッカー、WEリーグがより発展していくためには必要だと思っています。私はWEリーグの理事も兼務しておりますので、これから提唱していきます。またJリーグは2026年から秋春制に移行しますが、降雪地域に対する投資やサポートがあると聞いています。環境整備があった際には兄弟クラブとして施設を共有するなど、JリーグとWEリーグが共存していくことができればと思っています。

――WEリーグは終盤戦を迎えています。3月22日(土)13時〜大宮アルディージャVENTUS戦では、WE ACTION DAY(理念推進日)が開催されます。「アルビレックス新潟レディース・女子サッカーを応援する人の幅(多様性)を拡げるためには」というテーマで選手たちが知恵を出し合ったそうですね。
山本 選手たちはグループディスカッションをし、すごく良い企画をたくさん考えてくれました。大宮V戦を開催した上で引き続きアレンジを加えながら、良い企画は今後のホームゲームでも継続的にできたらと思っています。大宮V戦は“きっかけの日”にしていきたいですね。多様性を重んじた様々な楽しみ方をご提供したいと思っていますし、選手たちは気持ちを込めてここまでやってくれました。チケットキャンペーンやチャレンジ企画など、選手たちを身近に感じてもらえる機会のスタートにしたいと思っていますので、お時間がある方はぜひデンカビッグスワンスタジアムにお越しください。

――『本気でタイトルに挑む』戦いは続いていきます。周囲からの期待も上がっているのではないかと思いますが、最後に今後の目標とサポーターへのメッセージをお願いします。
山本 地域力・クラブ力・チーム力、この3つが重要だと考えています。まず地域力ですが、アルビレックス新潟はもうすぐ創設30周年を迎えます。新潟に根付いてサッカー文化を脈々と作ってくださり、その延長として女子チームもここまでやってきました。地域の皆様がもっと女子サッカーを応援し、盛り上げていただけるように、これからも成長していきたいと思っています。新潟には間違いなくスポーツ文化が根付いているので、その力を借りながら前に進む推進力にしていきたい。こういった文化を作り上げた先人たちに感謝しながら、頑張れる環境にあると思っています。

次にクラブ力です。分社して約6年、経験値はまだ浅いかもしれませんが「女子サッカーの魅力を伝えたい」「このクラブをもっと良くしていきたい」という職員がたくさんいます。自分たちで工夫しながらアイディアを出し、行動することでもっともっと良くしていこうという集団になってきました。クラブ力は徐々に上がってきていると感じていますし、一方でもっともっと伸びると思っています。

最後にチーム力ですが、橋川和晃監督を先頭にキャプテンの川澄奈穂美選手、上尾野辺めぐみ選手、川村優理選手、有吉佐織選手、平尾知佳選手と経験豊富でチームを引っ張ってくれる選手たちが在籍していて、そこに期待の若手選手たちが融合し始めています。三菱重工浦和レッズレディーズ、日テレ・東京ヴェルディベレーザ、INAC神戸レオネッサに対しても臆することなく「やれるよね」「もう一押しで勝てるよね」という雰囲気になってきました。“勝者のメンタリティ”とまではいかないですが、それに近いものを感じています。特にこの1、2年は自信を付け、目覚ましい成長を遂げているので、これからのWEリーグ最終盤にかけてもっと良くなっていくはずです。

地域力・クラブ力・チーム力、この3つの成長ポイントを重ねていくこと。そうすれば今季最終盤の結果にも期待していいのではないかと思っています。サポーターの皆様にはこれからも新潟Lの戦いを楽しみにしていただき、成長するクラブを一緒に作っていってほしいと思います。

2024-25 SOMPO WEリーグ 第15節
アルビレックス新潟レディース vs 大宮アルディージャVENTUS


2025年3月22日(土)13:03キックオフ
デンカビッグスワンスタジアム(住所:〒950-0933 新潟県新潟市中央区清五郎67−12)

クラブ・選手全員で考え実行するWE ACTION DAYを3月22日(土)のホームゲームで開催します。
1月に選手全員が参画し「アルビレックス新潟レディース・女子サッカーを応援する人の幅(多様性)を拡げるためには」というテーマでワークショップを実施。回答いただいた内容を基に、各グループで実施した意見交換で挙げられたアイディアをホームゲームで実行します。

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