
日本流で言えば「令和の怪物」、アメリカ的に見れば「2025年のメジャーリーグ トッププロスペクト(有望株)」はMLBデビュー戦でどんなピッチングを見せるのか──。
3月19日、カブス対ドジャースの「東京シリーズ」第2戦を控え、試合前会見では佐々木朗希(ドジャース)に関する質問が日米の記者たちから相次いだ。
そのなかで最も興味深かったひとつが、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督が語った内容だ。「今季を通じてどういう成績を期待するか」と聞かれた際の答えで、試合後にこの日のピッチングの評価を質問された時も同じ内容を繰り返した。
「朗希のように若さと才能を備えていると、調子の波が大きいものだ。本当にすばらしい投球をする日もあれば、そうではない日もある。それはまだ経験が少ないからだ。私はまだ朗希のプロのピッチャーとしての特徴を理解している段階なので、しばらく様子を見るつもりだ」
【160キロ連発、衝撃の立ち上がり】
前日の開幕戦と同じく、超満員のファンで埋まった東京ドーム。1回裏、佐々木は衝撃の立ち上がりを見せた。1番イアン・ハップに99.5マイル(160.1キロ)の速球をいきなり投げ込むと、2球目も99.5マイル、3球目は100マイル(160.9キロ)の速球を続けてレフトフライ。初回は全11球のうち9球がフォーシームで、力で押し切り三者凡退に抑えた。
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だが、2点を先制してもらった直後の2回裏、別人のようなピッチングに変わる。先頭打者の4番マイケル・ブッシュに四球を与えると、一死後、6番ダンスビー・スワンソンも歩かせた。フォーシームを制御できず、フォークはベース板の上を外れた。
このピンチはダブルプレーで切り抜けたものの、さらに1点の援護をもらった3回裏、一死から内野安打で出塁を許すと、3連続四球で1点を献上。苦しむ理由のひとつになったフォークについて、佐々木は試合後にこう振り返っている。
「今日はなかなかコントロールできなかったり、ベース板の上を通らなかったりしました。ここまでの(スプリングトレーニングでの)2回の登板ではなかったものです。(アメリカに行くと)気候や環境などいろいろ違うところがあるので、その場に応じた対策はしていかなければいけないと思います」
19日のカブス戦では全56球を投げたうち、フォーシームが37球、フォークが15球、スライダーが4球。フォークはベース板の上に操れないため見逃され、いつも以上にフォーシームで勝負せざるを得なかった。
そのフォーシームは制球に課題を残したものの、スピードと球威はMLBでも十分に通用した。3回に押し出し四球で1点を与えた直後、4番ブッシュには5球のうち4球をフォーシームで見逃し三振。つづくマット・ショウはフォーシームとスライダーで空振り三振に仕留めた。
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【指揮官が語った交代の理由】
3回までにヒットは打ち取った当たりの内野安打しか打たれなかったものの、5つの四球を与えて1失点。試合前にロバーツ監督は「球数の制限はない。ストレスのかかるイニングがあるかにもよるが、目標として4、5回を投げてほしい」と話していたが、交代の理由をこう説明した。
「ある意味で簡単な決断だった。スプリングトレーニングで一番長く投げたイニングは4回だ。全体的に見ると、今日はスピードもすごく出ていたし、最後の2イニングは(ピンチで)多くのストレスもかかっていた。まだシーズンは長いので、われわれは朗希をしっかり守り、自分を築き上げていってほしい」
佐々木は続投の意思を示したというが、ロバーツ監督は先を見据えて決断した。3回56球というメジャーデビュー戦は、NPBで完全試合をはじめ鮮烈なピッチングを見せてきたことを考えると物足りなく感じたが、佐々木自身はどう受け止めたのだろうか。
「スプリングトレーニングからいろいろ練習してきたなかで、真っすぐは一番よかったです。コントロールで乱れてしまう部分もあったけど、それ以上に自分の中でいい感覚があったので良かったです。同じクオリティのボール、フォームを再現して、同じような球を投げられたらと思います」
この日の最速は100.5マイル(161.7キロ)、平均は98マイル(157.7キロ)。数字が何より佐々木の豪腕ぶりを物語っている。
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「球速に関してはウォーミングアップの時からいいフォームで投げられて、投げる前から手応えを感じていました。実際に良いフォームで、いい感覚で投げられたので良かったと思います。コントロールについては前のイニング(=2回)から少し微妙なズレもあったので、次に向けて修正していかなければいけないと思います。でもそれ以上に、初回をしっかり投げられました。あの感覚はしばらくなかったので、そこがしっかり戻ってきたことの方が良かったと思います」
【早めに課題が出てきてくれたら】
高校を卒業して6年目の今季、23歳の佐々木はドジャースにマイナー契約で入団し、今回の東京遠征を前にメジャー契約を果たしたばかりだ。だからこそMLBではプロスペクトという扱いであり、ロバーツ監督や佐々木自身が語った内容からも発展途上であることが伝わってくる。
筆者は"令和の怪物"にもっと鮮烈なデビューを期待していたひとりだが、あらためて佐々木の並外れたポテンシャルを感じさせられたのは、会見の最後で語った内容だ。
「自分の持っているものというか、ストレートだったり、フォークボールがどういうふうに通用していくのか。投げていったなかで課題が出てくると思うので、シーズン終盤の大事な時にそういったものをなくせるように、早め早めに課題が出てきてくれたらなと思います」
シーズンはまだまだ長い。ドジャースは通常より1週間早くシーズン開幕を迎え、ポストシーズンが始まるまでには半年ある。今世紀初のワールドシリーズ連覇を目指すチームにとって、10月からの戦いこそ"本番"だ。佐々木の口ぶりは、そこを見据えているかのようだった。
2025年の開幕2戦目に抜擢されたトッププロスペクトは今後、どんな成長を果たしていくのか。圧倒的な才能と課題を同時に示したデビュー戦は、新たな挑戦の始まりにすぎない。