「特攻隊を笑いものにするな」と批判された男が明かす“戦争と笑いの意外な関係”…異色の芸人の覚悟

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2025年03月20日 16:20  女子SPA!

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お笑いコンビ・アップダウンのメンバーである竹森巧さん。彼が現在、ライフワークとして取り組んでいるのが「戦争の歴史を伝える活動」。2024年11月19日には、著書『桜の下で君と 特攻隊の真実を伝えるお笑い芸人の物語』(東京ニュース通信社)を発売し、自身の制作した二人芝居『桜の下で君と』が生まれるまでの過程を綴っています。

後編はお笑い芸人として活動していたアップダウンが、なぜ「戦争」というテーマに取り組んでいるのか。竹森さんに、戦争にまつわる様々な活動とそれに至った理由、そして今後の目標について聞かせてもらいました。

◆「笑い」と「戦争」相反するテーマに挑戦する理由

――竹森さんは現在、主にどのような活動をされているのですか?

「お笑いの仕事やアーティストとして歌う仕事は以前と変わらずしています。それ以外には、戦争の歴史を幅広い世代に伝える活動、主に相方との二人芝居や、戦争をテーマにした漫才などを、学校の芸術鑑賞や自治体の催しなどで披露しているんです」

――「笑い」と「戦争」ともすれば相反するように見えるものですが、これを結び付けたのはなぜでしょうか。

「もともと、エンターテイナーが歴史の語り部をしていたと思うんです。自分たちがその方向で“いけるかどうか”はさておいて……それなら自分たちもやるべきという発想から始まったんです。でも、僕たちのキャリアはお笑い芸人からスタートしているので、そこにお笑いを入れないわけにはいかないよなぁ、と」

――必然といえば、必然ですね。

「僕の人生って、これまで全部流されてきてるんですよね。相方に誘われて、親への反発からこの世界に入り、辞めようと思っていたら歌をやることになって、結果は出たけどそれも疲弊して……。いよいよ本当に辞めようと思った矢先に鹿児島県の知覧特攻平和会館に行ったことで、戦争の歴史に触れることになって、今がある。導かれるって言ったらカッコいいのかもしれないけど、そういうことの連続なんですよ。まさに合縁奇縁といった感覚です」

――特攻隊の二人芝居だけでなく、アイヌ民族を題材にした音楽劇や長崎原爆を題材にした漫才も作っているとか。

「ちなみに、今は縁あって北方領土の漫才を作っています。2月に完成して好評いただきました」

◆「特攻隊を笑いものにするな」という批判もあった

――難しい題材にも果敢に挑戦し続けているのですね。

「始めた当時は『やめとけ』って否定されてばかりでしたよ。『そこに触れたら大変だぞ』とか、『批判の対象になる』とか。実際、追求していくうちに『特攻隊を笑いものにするなんてけしからん』と批判されたこともありました」

――その頃と比べて、現在は周囲の反応に変化はありますか?

「ガラッと変わったのは、2024年の11月頃からです。驚くことにそれまでと全く反応が違ってきているんですよ。お客さんも『はぁ……』って反応だったのが、だんだんと他人事ではなく、自分のことのように捉えている方が増えたように思います」

――ちょうど著書が発売されて、竹森さん自身の説得力が増したのでは?

「僕自身は変わってないんですけどね……。でも、ちょっとずつ合致しているのかもしれないです。僕たちの表現の仕方であったり、社会情勢的な部分も含めて」

◆戦争反対だけじゃない。同じ「人間」として生きていたはず

――著書『桜の下で君と』を通じて、竹森さんが最も伝えたいことは何でしょうか?

「『戦争反対』『平和が大事』などではなく、不測の事態はこれからも起こりうるので、そのとき先人がこうやって未来を育んできたのだと知れば、これからの参考にもなります。それを伝えていきたい。こういった事実があることを忘れるなと主張したいわけではないんです。先人の生き方を知れば勇気が湧き、それが力になるんじゃないかな?と思っています。少なくとも、僕はこの活動をすることで力が湧きました」

――戦争の記憶や記録は、現代では遠ざけられる傾向にあるようにも感じます。

「仕方がないことかもしれませんし、それを嘆いてもしょうがない。でも、これからも僕はその時代を『想像してみよう』をテーマに二人芝居も漫才もやっていくつもりです。

あの当時の人たちは、自分たちとは感覚が違うところもあると思います。でも同じ人間ですし、そこにはきっと現代と同じように日常の笑いがあったはずなんです。だから『戦争時の日常』を笑いにしてもいいよな、と思うんですよ」

◆戦後まもなくとコロナ禍に見つけた共通点

――「同じ人間なんだ」と感じた、印象深いエピソードはありますか?

「戦後まもなくに行われた、盆踊りの話は心に残りました。混沌とした時期には『そんなのやってる場合じゃない』という風潮もあります。でも、『先人の魂が帰ってくるから』と開催した地域があったそうです。もちろん批判はあったようですが、祭り囃子を聞きつけた人たちがかけつけて、大勢で輪になって踊った。その瞬間は、辛いことも忘れることができたという話。

これって、コロナ禍と同じじゃないですか? エンタメって衣食住に関係がないから自粛ムードでしたけれど、結局は人がわいわい楽しむことは鋭気を養うことだと気づき始めた。戦争の時に気づいたはずのことが、数十年後は忘れ去られてしまっていた……」

――本当ですね。今度こそ忘れないようにしたい。

「エンタメは明日を乗り切るために必要なものだったんです。だから僕も、自分の活動に誇りをもってやろうと改めて思えました」

◆若い世代への「繋がりの大切さ」を伝えたい

――竹森さんが今後やっていきたいことをお聞かせください。

「やっぱり若い世代に伝えていきたいですね。世の中の関係性がどんどん希薄になっているように感じます。自分さえよければいい、という人が増えているような。

でも横のつながりの大切さや、お父さんお母さんだけでなく、さらに上の人たちが途絶えずに生んでくれたから自分がある……という気持ちを忘れないでいてほしい。そんな世代を超えて伝えるためのエンターテインメントをやっていきたいです」

――アップダウンはM-1グランプリやキングオブコントで何度も準決勝まで進んだ経歴があります。率直にお聞きしますけど、今後お笑い芸人として賞レースなどに挑戦するつもりはない?

「今のところ出場するつもりはありません。評論されること、そこから有名になることへの興味はないし、自分たちの役割ではないと思います。『見られて良かった』『これで明日頑張れる』と感じてくれる人たちの前でやっていきたいんです」

――では、竹森さんのエンターテイナーとしての将来的な目標は?

「死んでも名前を残したいってことですかね。2024年12月に名古屋の劇団の方が『桜の下で君と』を上演してくれたんですよ。自分たち以外の人が演じたあの劇は、すごく良かったし嬉しかったです。

劇中にはアップダウンが登場するのですが、別の人たちがアップダウンを演じるということは、僕たちがいなくなった後もアップダウンはあの作品の中に生き続けられるんです。だからこそ、今後も色んな方たちに演じていってもらいたいですね」

――ありがとうございました!

<取材・文/もちづき千代子>

【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama

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