大阪地検特捜部が手掛けた業務上横領事件を巡り、無罪となった不動産会社元社長の山岸忍氏(62)が一連の捜査で苦痛を受けたとして、国に7億円超の損害賠償を求めた訴訟の中間判決が21日、大阪地裁(小田真治裁判長)で言い渡される。山岸氏を逮捕・起訴した捜査の違法性が争われており、国が賠償責任を負うか否かの判断が示される。
この事件では、検事が山岸氏の元部下への取り調べで「検察なめんなよ」と威圧的な言動を繰り返したことも明らかになっている。賠償責任を認めるハードルは高いとされるが、検察独自事件を巡る捜査を違法と判断すれば異例だ。
「プレサンスコーポレーション」(大阪市)の社長だった山岸氏は学校法人理事長だった女性らと共謀し、法人の土地を売却した際の手付金21億円を着服した疑いがあるとして、2019年に逮捕・起訴された。
山岸氏は一貫して関与を否定。元部下のほか、一連の取引を仲介した別の会社元社長は、着服計画を山岸氏も知っていたと述べ、検察側はこの2人の証言が有力証拠だとした。
ただ、元社長は後に自らの証言を撤回した。21年にあった大阪地裁判決は元部下の証言について、検事の取り調べで圧力を受けたことによる虚偽の可能性があるとして信用性を否定。「山岸氏が計画を認識していたとするには疑いが残る」として無罪とした。検察側は控訴せずに確定した。
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無罪となった元被告に対する賠償責任を巡り、最高裁判例は「無罪が確定しただけで、逮捕や起訴がただちに違法と認定されるわけではない」とする。容疑について、証拠を総合的に評価して合理的な判断ができていたかが違法性を審査するポイントとなる。
訴えを起こした山岸氏側は「特捜部による事件の見立てが不自然で誤ったものだった」とし、山岸氏の関与を示す客観的な証拠はなかったと主張。威圧的な取り調べで元部下の証言を引き出すなどした経緯を踏まえれば、山岸氏の容疑を裏付ける証拠とはいえず、逮捕・起訴は違法だったと訴えている。
これに対し、国側は「証拠評価に重大な過誤はなく、容疑が十分認められるという判断は合理的だ」と違法性を否定した。元部下の証言に信用性があるとする判断は間違っていないとしたうえで、取り調べは「説得や正当な追及」であり、任意性は担保されていたと反論している。
中間判決では国の賠償責任の有無のみ判断が示される。「責任あり」の場合は後日、賠償額が言い渡される。山岸氏は慰謝料に加え、所有していた株の廉価売却による損害などを請求。算定が複雑なため、地裁の訴訟指揮でいったん結論を出すことになった。
一方、元部下を取り調べた田渕大輔検事(52)は大声を出して机をたたくなどしたとして、特別公務員暴行陵虐罪で刑事裁判を受けることが決まっている。
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山岸氏は特捜部に対し、一連の捜査の検証を求めている。中でも取り調べの問題について「田渕検事個人の責任だけではなく、検察組織にこそ問題があると判決で書いてほしい」と話す。【木島諒子、高良駿輔】
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