【週末映画コラム】挑戦的で刺激的でもあるが癖が強い『エミリア・ペレス』/嫌悪感がこみ上げるが妙なエネルギーを感じさせる『悪い夏』

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2025年03月21日 08:10  エンタメOVO

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(C)2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHE FILMS - FRANCE 2 CINEMA COPYRIGHT PHOTO : (C)Shanna Besson

『エミリア・ペレス』(3月28日公開)




 メキシコシティの弁護士リタ(ゾーイ・サルダナ)は、麻薬カルテルのボスであるマニタス(カルラ・ソフィア・ガスコン)から「女性になって新たな人生を歩むために力を貸してほしい」という極秘の依頼を受ける。

 リタは完璧な計画を立ててマニタスが性別適合手術を受けるに当たって生じるさまざまな問題をクリアし、マニタスは無事に過去を捨てて姿を消すことに成功する。

 それから数年後、イギリスでセレブとなったリタの前に、エミリア・ペレスという女性として生きるマニタスが現れる。それをきっかけに、彼女たちの人生が再び動き出す。

 フランスのジャック・オーディアール監督が、犯罪、コメディー、ミュージカルなどさまざまな要素を交えて描いた異色作。

 カンヌ国際映画祭では、トランスジェンダー俳優として初となるガスコンをはじめ、サルダナ、マニタスの妻を演じたセレーナ・ゴメス、エミリアの恋人を演じたアドリアーナ・パスの4人が女優賞を受賞した。米アカデミー賞でもガスコンが主演女優賞候補となり、助演女優賞(サルダナ)と主題歌賞の2部門で受賞した。

 各賞を争った『ANORA アノーラ』と同様に、この映画も現代のカオスを描きながら、実はきっちりと三幕構成を行っている。

 前半は能力はあるのにそれを生かせないことにストレスを感じている弁護士リタと女性になることを願う麻薬王マニタスとの出会い。中盤は2人が再会して行方不明者の遺体を捜す支援団体を運営し、成功していく過程を描く。そして終盤は犯罪劇と化し、予想外の終わり方を迎えるといった具合だ。

 中でも、こわもての麻薬王から女性へと華麗に変身するガスコンのギャップが目を引く。犯罪者が女性になったことで救済に目覚めるというのはいささか類型的だが、これは一種の寓話(ぐうわ)だと考えれば納得がいく。息子が“エミリアおばさん”に父の影を感じているのに、妻は全く気付かないところが皮肉っぽく映る。

 そんなこの映画は、ハリウッド製のミュージカルとは異質で、挑戦的で刺激的でもあるが癖が強い。これも『ANORA アノーラ』と同様に、賛否や好みは分かれるところがあると感じた。多様性の時代に、もはや万人受けをするような映画はできないのかもしれない。

『悪い夏』(3月20日公開)




 市役所の生活福祉課に勤める佐々木守(北村匠海)は、同僚の宮田(伊藤万理華)から、職場の先輩の高野(毎熊克哉)が生活保護受給者の女性に肉体関係を強要しているらしいと聞かされる。

 面倒に思いながらも断り切れず真相究明を手伝うことになった佐々木は、その当事者である育児放棄寸前のシングルマザー・愛美(河合優実)のもとを訪れる。

 愛美は、高野との関係を否定するが、実は裏社会で暗躍する金本(窪田正孝)とその愛人の莉華(箭内夢菜)、手下の山田(竹原ピストル)と共に、ある犯罪計画に手を染めようとしていた。そうとは知らず、愛美に引かれる佐々木にとって悪夢のような夏が始まる。

 生活保護の不正受給問題を根底に、真面目に生きてきた気弱な公務員が転落していく姿を描いたクライムサスペンス。

 第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した染井為人の同名小説を映画化。『アルプススタンドのはしの方』(20)や『ビリーバーズ』(22)などの城定秀夫監督がメガホンを取り、『ある男』(22)の向井康介が脚本を担当。

 前半の善意から愛美とその娘に肩入れしていく佐々木の様子は、停水執行を行う無気力な水道局員(生田斗真)がシングルマザーの娘と関わる中で再生していく姿を描いた『渇水』(23)とよく似ているが、一転、後半のだまされたと知って落ちていく佐々木の姿は正反対。だんだんと精気が失われ目が死んでいく、闇落ちした佐々木=北村が印象に残る。

 この映画のキャッチフレーズは「クズとワルしか出てこない狂乱サスペンス・エンターテインメント」。それが最も端的に表現されたのが、ラスト近くでボロアパートの一室に勢ぞろいした面々がすったもんだを繰り広げるカオスシーンだ。まさに悲劇と喜劇が表裏一体となって押し寄せ、当事者にとっては悲劇だが、第三者から見ると喜劇であるという矛盾の本質をついていて面白い。

 見ながら嫌悪感がこみ上げ、登場人物の誰にも共感できないが、妙なエネルギーを感じさせる映画になっている。

(田中雄二)

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