画像提供:マイナビニュース 米Uber Technologiesは、テキサス州オースティンで米Alphabet傘下のWaymo(ウェイモ)と組んで自動運転タクシーの配車サービスを3月に開始しています。この機会に合わせて日本を含む世界各国の記者を集めたメディアイベントがオースティンで開催されました。
今回のイベントでは「Uberアプリで呼べる自動運転タクシーの展望」が話題の中心になりました。Uberのキーパーソンが日本市場への興味も含めてコメントしています。
○Uberのキーパーソンが「自動運転」の戦略を語った
メディアイベントの初日に開かれた記者会見のステージにはMobility & Business Operations部門シニア・バイス・プレジデントのアンドリュー・マクドナルド氏が登壇しました。
マクドナルド氏は現在のUberの輸送サービスには「電動化」「シェアリング」「自動運転」という3つのエッセンスがあると語ります。
その中でもWaymoと組んで実現した自動運転タクシーや、Uber Eatsのロボットデリバリーサービスに代表される「自動運転」を成長軌道に乗せることを、Uberは今後の大事な課題に位置付けています。
日本では残念ながらまだUberによる自動運転タクシーの導入時期は見えていませんが、Uber Eatsのロボットデリバリーサービスはロボット系スタートアップのCartken(カートケン)が開発した自律走行ロボットを、三菱電機が日本仕様へのローカライズに関わり、3社によるコラボレーションの形で2024年春からスタートしています。
筆者は今回のメディアイベントに参加して、UberアプリからWaymoの自動運転タクシーが呼べる「Waymo on Uber」を体験しました。オースティンの街中では既に数十台を超える自動運転タクシーが住民や観光客の足として活躍しています。Uberのマクドナルド氏は、同社の配車サービスが電気自動車(EV)の認知拡大を促してきたと語ります。特にヨーロッパではEVを商売道具にしているUberのドライバーが増えていることから、「EVによる走行距離」がヨーロッパ全体で約5分の1、ロンドンでは3分の1を占める割合にまで伸びているそうです。
EVに対する期待と満足は、ドライバーに限らずUberアプリによる配車サービスを使うユーザーの中でも高く、「初めてEVを体験したきっかけがUberだった」という乗客も多いといいます。マクドナルド氏は「今後、EVと同じことが自動運転タクシーにも起こるだろう」と、期待を込めて将来を予見しました。
○便利なUberアプリに多種多様なサービスを集める
メディアイベントが開催されたオースティンでは自動運転タクシー、ロボットメーカーのAvride(エイヴィーライド)によるフードデリバリー、そしてUberとビジネスのパートナーシップを結ぶLime(ライム)のマイクロモビリティが、ひとつのUberアプリから利用できます。2024年3月時点では、Waymo on Uberが利用できるエリアはオースティン市内の中心部から37平方マイル(約96平方キロメートル)に限られますが、「Uberアプリで気軽に自動運転タクシーが呼べる体験」は、今後着実にユーザーの生活に定着していくでしょう。
実際に、筆者は今回の短い滞在期間中に5回ほどWaymoの自動運転タクシーに乗る機会を得ましたが、道行くオースティンの街の人々が"ロボットカー"に驚いてカメラを向けることはほとんどなく、早くも日常の風景として溶け込んでいる印象を受けました。
このような先進の自動運転テクノロジーとサービスをいち早く取り込んだ「ワンストップのグローバルマーケットプレイスを他に運営・提供できるプラットフォームはUberのほかにない」とマクドナルド氏は胸を張ります。今後はそのマーケットプレイスに、人間とロボットが一緒に関わりながら共存共栄できる「ハイブリッドマーケットプレイス」を育てていくことも、マクドナルド氏は「Uberにとっての大きなテーマ」に掲げています。
ハイブリッドマーケットプレイス構想については、続いて記者会見に登壇したUber Technologiesのチーフ・プロダクト・オフィサーであるサチン・カンサル氏が具体的な取り組みを説明しています。
○人とロボットが一緒に良いサービスをつくる
現在、Uberはロボットを活用する配車サービス、フードデリバリーサービスを先に挙げたWaymoやCartken、Avrideなど14社のパートナーと一緒に拡大しています。その数は今後さらに増えることが期待されています。
マクドナルド氏、カンサル氏が言及するUberの「ハイブリッドマーケットプレイス」とは、今回のイベントでは「人間とロボットが共につくるサービス」のことを指しているのだと筆者は理解しました。配車サービスはドライバー、フードデリバリーサービスは配達員として、今後はロボットが仲間に加わります。
筆者は今回のメディアイベントでWaymo on Uberの自動運転タクシーと、Avrideのロボットデリバリーサービスの両方を体験しました。どちらも先進的で便利なサービスでしたが、だからといってロボットサービスだけが魅力的という風には感じませんでした。当然ながら人間とロボットによるサービスはそれぞれに一長一短があります。
Uberではこれまでに積み上げてきた知見に基づいた独自の機械学習モデルを開発しています。最大の特徴は正確な需給状況の予測ができるモデルであるということで、これから車で移動したいユーザー、食事をしたいユーザーを余計に「待たせない」サービスの提供を目的としています。このようなUberのサービスに最適化されたモデルがあることが、ドライバー、配達員にとっては1日の間に効率よく仕事を回せるようになり、引いては安定した収入を得ることにもつながります。
カンサル氏はUberがサービスを提供する街の需給データを集めてきた結果、「どのような街にもそれぞれに異なる特徴が見られる」と語ります。例えば「季節」「時間帯」による、Uber Eatsのフードデリバリーの"山と谷"をグラフ化すると、それぞれの地域によって傾向の違いが表れるといいます。人による配車・配達が手薄になる時間帯や時期などが存在する場合、ここをロボットによるサービスで埋めることによって、ユーザーは待機時間のストレスなくUberのサービスが利用できるようになり、今よりもっと快適な体験が得られることにもなります。カンサル氏は「ユーザーの皆さまは常に多様なサービスの選択肢を持つべき」だと語ります。
あとは単純にこれから自動運転タクシーが拡大しても、ロボットでは対応が難しい地域や乗降場所などの条件がいくつか出てくることが予想されます。人間とロボットが互いに協調しながらUberの便利なサービスに厚みを増していくことの先には、今はまだ実現できていないタイプのサービスを新たに生むことも含めた様々な成長の可能性が見えてきます。
○自動運転は安全性を徹底重視 - 日本進出の可能性は?
Waymo on Uberの体験ツアーをナビゲートしていただいた、Uber TechnologiesのHead of Autonomous Mobility & Delivery Product(自動運転関連のプロダクト責任者)であるウェンディ・リー氏に今後の展望を聞きました。
Uberはアリゾナ州フェニックスの街に始まり、今回のオースティン、今後はアトランタにもWaymoとのパートナーシップによる自動運転タクシーのサービスを順次展開します。リー氏は、電動化され、自動化されたモビリティが導く未来の生活はゼロエミッションの希望と結び付き、人々の生活をより豊かにするという共通のビジョンをUberとWaymoは共有していると語ります。
UberとWaymoはまた自動運転タクシーの安全運用を徹底的に追求しているといいます。両社はテクノロジーにただ依存するのではなく、独自の知見に基づく厳格なセーフティガイドラインを設けてそれぞれのプロダクトである自動車とサービスを設計・開発しています。リー氏は「自動運転は人間のドライバーによる運転よりもはるかに安全になる可能性があります。それは人々が暮らす社会に、あるいは輸送ビジネスにとても良い変革をもたらすはず」と期待を込めてコメントしています。
インタビューの最後に、日本市場で自動運転関連のプロダクトを展開する可能性についてリー氏の見解を聞きました。
「日本でフードデリバリーをはじめ、現在Uberがパートナーの皆様と提供する各サービスがとても好調であることを大変うれしく思っています。米国以外の他の市場と同様に、日本にも自動運転のテクノロジーを活かしたモビリティサービスを展開して、多くの方々に活用していただける豊かな可能性があると私も信じています。残念ながら現在、日本での今後の展開について具体的なことをお伝えできませんが、私も楽しみにしています」
先述の通り、日本の一部地域ではUber Eatsのロボットデリバリーがサービスを開始しました。多くのユーザーによる体験が積み上がり、自動運転タクシーを含む様々な新しいサービスへの広がりが生まれることを筆者も期待したいと思います。
取材協力: Uber Japan
著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら(山本敦)