欠けたものを埋めていく藤田和日郎、全力で突き進んでいく島本和彦

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2025年03月21日 22:35  コミックナタリー

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左から島本和彦、藤田和日郎。
島本和彦と、ゲストとして藤田和日郎が登壇するイベント「島本和彦 炎の原画展 Ver.3 トキワ荘編 開催記念 島本和彦×藤田和日郎 炎のトークショー」が、去る3月14日に東京・アニメイトシアターで開催された。2人がトークショーを行うのは、2019年2月に開催された「オールとしま・ウエルカム・東アジア」のイベント以来、6年ぶりとなる。

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■ すみませんね、うちの子が
今回のイベントの参加券はアニメイト池袋本店で配布されたのだが、参加券をもらうためには、配布開始日と同日に開幕した「島本和彦 炎の原画展 Ver.3 トキワ荘編」のチケットの半券を手に入れておく必要があった。トークショー開始早々、藤田は来場者に向けて「一旦行かなくてもいい原画展に行って、来なくてもいいアニメイトに来て、すごく大変なことをやったんだよね? すみませんね、うちの子が」と、島本とともに客席に頭を垂れた。

■ 復讐戦として挑んだ「ブンブンジャー」のデザイン
昨年、特撮ドラマ「爆上戦隊ブンブンジャー」で敵キャラクターのデザインを手がけた島本。「けっこうがんばったね!」と意気揚々と振り返る島本に、藤田は「『仮面ライダーゴースト』の怪人もデザインしたんだって? 俺は観てないんだけど『ちょっと失敗した』って自分で言ってなかった? 俺はまったく観てないんだけど。この人(島本)の仕事にはまったく興味ないから!」と話を振る。島本は「今日石森プロの人も来てるから……!」と気まずそうな顔を見せながらも「仮面ライダーゴースト」でのデザインについて「がんばりはしたんだけど、ちょっとやりきれなかった部分もある。経験不足もあって、立体になったときに『うーーん、こういうふうになるのか!』と初めてわかって……」と当時の様子を説明していくと、話を聞いていた藤田は「要するに失敗したということでいいですね?」と問いかける。島本は「業界のデザイナーの方に『あれはなんだ?』って怒られたんですよ! 怒られることがあるんだって、もう二度と怪人のデザインなんかやるもんか!!って思って、『ブンブンジャー』も断ったんですよ」と明かす。藤田に「『ブンブンジャー』も失敗した?」と尋ねられると「『ブンブンジャー』は全部よかった」と満足げな顔を見せ、会場からは拍手が贈られた。

続けて島本は「ブンブンジャー」のデザインを引き受けた際に「『絶対にちゃんとしたものができるまではリテイクを出し続けてくださいね、だったら復讐戦としてやります!』と言って、最初に来たのが『ウエディングドレスの車怪人を描いてください』だった。言葉がわからない!! リテイクがどうのじゃなくて、意味がわからない!!」と語る。そんな島本に、藤田は「なんか期待があるわけよ。島本和彦に言っておけば、俺たちの見たことのないものが見れるかもしれないから、頼みたいんじゃない?」と返し、客席も頷きながら拍手した。

■ 20分と言いながら1時間20分も歓談
声を張り上げる島本について、藤田が「島本さんはずっとこのテンション。今日は15時入りだったんだけど、(トークショーが)始まる前にもう『疲れた……』と言い出して」と言及。北海道在住の島本は「たまに東京に来ると『いろんな仕事をさせてやれ』って思われるらしいのよ。この間の小学館漫画賞(の贈呈式)も講評があるから来たんだけど、その前に対談の仕事が入って。対談も楽しい話にしないといけないから、ワーッとやったら、ハアハア……って」と疲れた表情を見せる。そんな島本に対し、司会であり島本の担当編集者である石田氏は「疲れたとか言っておいて、あの日『藤田さんと話があるから。20分だけ! 20分だけ!』って言って。20分話をするのかと思ったら、1時間20分も待ってましたよ?」と2人が長時間歓談していた様子を暴露した。

それに対し、島本は「こっち(藤田)は週刊マンガ家じゃない。私は月刊だから、楽してマンガ家をやってるわけよ。月に1本描いてマンガ家を名乗っている。だから途中で怪人の仕事でも挟み込まないことには、申し訳なくて藤田和日郎と話ができないのよ」と話す。前回のトークショーでは、その言葉通りお互いが掴みかかるトークバトルが繰り広げられたことから、藤田は「お? 今回は俺褒めになってきたぞ?」と微笑む。島本が劇団四季でミュージカルとして上演された「ゴースト&レディ」について触れると、藤田は「あれは言っとくけどね、俺はなんの努力もしてないからね? もともとあった(自身の)マンガを向こうさんが脚色してくれて、立派な人たちが歌ってくれて」と称賛する。「島本さんも招待しましたよ、見せつけてやるんだって」と観客に話すと、島本は「よかった、感動した……」と心からの感想を口にした。

■ 笑顔で問い詰める藤田和日郎
そんな島本に藤田は「じゃあじゃあ、『逆境ナイン』(の実写映画)はどうだったの? 満足してるの?」と笑顔を浮かべて問い詰める。島本は「あのね、俺は自分の作品は誰がどう作ろうと別にいいって言ってたんです。(人の手に渡った時点で)人のものだから」と具体的な感想を述べずにコメント。それでも藤田は「自分のかわいい我が子じゃない。俺、『逆境ナイン』大好きなんだもん。それがね……」と正直な感想を吐き出していくと、島本は「これがコミックナタリーに載るのか……!!」と顔を歪めた。

その後も藤田のペースに飲み込まれ、責め立てられる島本は「あのね! この人(藤田)は週刊連載をやっているだけで地位が確立してる。私は月刊マンガ家だから、ところどころ何かを挟み込まないと忘れられるの。そういうときに『映画にしましょう』と言われたら『ラッキー!!』なんですよ! マンガ家として少し華やかな立場になれる。これだけでもう作品なんてどうなろうといい。宣伝だよ、宣伝。悲しい月刊マンガ家の宣伝だよ!」と主張。藤田は「わかりました。(感想を)答えなくてもわかった気がする」と納得し、島本は「いやいや、面白かったよ、あれ!!」と強調し、「俺は『ゴースト&レディ』を褒めたのに!!」と悔しそうに叫んだ。

■ マンガの作り方がそもそもわかってなかったのかもしれない
さらに島本は「アオイホノオ」の1話目を描いた当時、藤田に「新しいマンガを描いた」と見せたことを振り返り、「そのときに『またマンガ家マンガ……』と言って。マンガ家マンガを下に見ているよね」と嘆く。藤田に「そんなこと言ってないよね?」と反論されると、島本は「『マンガ家マンガを下に見ている』とは言ってない。ただ俺が、心でひしひしとプレッシャーを感じている(笑)」と明かす。一方の藤田は「例えば島本和彦がマンガ家マンガを描くときは、自分の身の回りのことでそのマンガって描けるでしょ? だけど職業マンガとかスポーツマンガを描くと『命をかけて一生懸命やっている人がいる』とか『本当はこういうルールなのに』とか、必ず意見が出てくる。そんな中で、絵だけ描いて生活してるマンガ家が、その題材すらも外に行って引っ張ってこなくて、自分の近くにあることだけで面白おかしく描いて、どーーよ? だから下に見ているんじゃなくて、楽すんなよってことなんだけど」と意見しながら「ただその話を(島本に)しているときに、(『G戦場ヘヴンズドア』の)日本橋ヨヲコ先生が横にいたことは全然気がつかなかった(笑)」と明かして笑いを誘う。そして「日本橋ヨヲコは本当にすごい。そのあと『私のマンガを見てください』と言って、単行本の全巻セットを送ってくれた。読みましたよ、『うしおととら』も描かずに。面白いでやんの。あそこには、命を振りかざした何か魂があった」と称賛。「だけど『燃えよペン』とか『吼えろペン』は、がんばりたいのはわかるんだけど……面白いだけなのよ。ちょっと物足りなかったかな」と島本に噛みついた。

またイベントの中盤には、お互いのマンガの描き方についての話題が膨らむ。藤田が「島本さんは(マンガを)感情で描くところもあるじゃない? 俺の描くマンガは大抵、心のどこかが欠けた人間が、ストーリーによって埋まっていって、物語のクライマックスに向かっていくっていうのをやってるんだけど、島本さんってあんまりそういう積み上げ方をしないよね?」と問う。それを島本は「なるほどな……」としみじみ受け止めながら「そんなふうに考えたことがなかった。マンガの作り方がそもそもわかってなかったのかもしれない」と吐露。「どこか欠けたキャラクターを出すと、なんとなく見透かされちゃう感じがする。だから常に私も全力で突き進むし、キャラクターも全力で進むから、欠けているところがなんなのかわからないまま壁にぶつかっていって。ひっくり返りながら『どうしたらこの欠けてるところが埋まるんだろう!?』と思って、『ハッ!!』と思いついて、『これだ!!』って描くタイプなの。だから読者もわからないと思う、俺にもわからないから」と語る。それを聞いた藤田は「だから島本さんのマンガって波があるよね。すっごい面白いときもあるけど、全然面白くないときも……」と続けようとし、石田氏からは「言わないで! 言わないで!」とストップがかかった。

トークショーは予定時間を大幅に超えて終演。なお「島本和彦 炎の原画展 Ver.3 トキワ荘編」は3月23日まで東京・豊島区立トキワ荘マンガミュージアムで開催されている。

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