金融機関が集まるニューヨークのウォール街を示す標識(AFP時事) 【ニューヨーク時事】米金融市場で企業のM&A(合併・買収)が活発化するとの期待が急速にしぼんでいる。規制緩和を好むトランプ政権が予想に反し、バイデン前政権の厳格な合併審査指針を堅持したことが要因。トランプ大統領が掲げる高関税政策による景況感悪化も響き、企業はM&Aなど投資活動に及び腰になっている。
消費者保護を優先したバイデン前政権では、旗振り役の連邦取引委員会(FTC)が反トラスト法(独占禁止法)に抵触しないかについて厳格に審査。M&A阻止へ法廷闘争に持ち込むFTCの強硬姿勢が起因し、人気ブランド「コーチ」を展開するタペストリーはブランド大手の買収を断念した。M&Aの機運が下がり、企業の不満は強まるばかりだった。
一方、企業寄りとされるトランプ氏の大統領復帰が決まって以降、「独禁審査はないに等しい」(専門家)との見方も浮上。収益が押し上げられるとの観測から、M&A助言業務を手掛ける金融大手ゴールドマン・サックスなどの株価は急伸した。
ところがFTCのファーガソン委員長は2月、前政権の厳格な審査基準を維持すると発表。報道によると、同委員長は経営者らに対し「合併が米国民を経済的に傷つける場合、(阻止のため)提訴する」と述べ、楽観論をけん制した。市場の期待は大きく裏切られ、金融大手の株価は直近のピークから1割強も下がった。
高関税政策を巡っては景気減速が不可避との懸念が広がり、企業心理が冷え込んでいる。同政策に関するトランプ氏の発言が二転三転する中、経営者らは「M&Aどころではない」(市場参加者)というのが本音だ。ゴールドマンは「政策スタンスをより明確にすることが重要」と政権に注文を付けている。