1992年、太陽系の外で初めて「太陽系外惑星」が見つかり、現在ではその発見数は6000個近くとなっています。太陽系外惑星の理解が進むにつれ、とてつもない環境を持つ惑星がいくつも見つかっています。
この記事では前後編に分け、特に極端な環境を持つ6個の惑星を紹介します。
●最高気温4300℃の惑星「KELT-9b」
太陽に近いことから高温となっている水星(最高430℃)や、分厚い大気の温室効果によって高温となっている金星など、太陽系にも高温の天体はありますが、その温度はせいぜい500℃です。一方、太陽系外惑星は太陽と水星との距離よりずっと近い軌道を公転している惑星が次々と見つかっており、表面温度が1000℃を超えている例も珍しくありません。
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地球から670光年離れた位置にある「KELT-9b」は、温度が測定されたことのある最も高温な惑星として知られています。その表面温度は最高で4300℃にもなり、もはや惑星というより、低温の恒星の温度となっています。
あまりにも高温なため、普通の惑星の大気に存在する水や二酸化炭素のような分子は分解され、存在しません。一方で鉄やチタンといった金属が大気の中で見つかっており、惑星の大気に含まれるものとしては最も重い元素であるテルビウムも見つかっています。
この異常な高温は、恒星である「KELT-9」からわずか500万kmの距離を公転していることに加えて、KELT-9自体の表面温度がほぼ1万℃と、惑星が公転している恒星としては極めて高温だからです。太陽が5500℃であることを考えれば、どれほど高温かが分かるでしょう。
●昼夜の気温差1000℃の真っ黒な惑星「LHS 3844 b」
では逆に、最も低温な惑星は何になるのでしょうか? 太陽から最も遠い惑星である海王星の表面温度が-200℃であるように、恒星から遠く離れるほど表面温度が低下することはすぐに想像がつきます。一方、現在の惑星の見つけ方では、恒星から遠く離れた惑星を見つけることが難しいため、なかなか低温の惑星を見つけることはできません。推定ではなく実際に温度を測定することはさらに難しい状況です。
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しかし、高温の惑星である水星が、夜間には-170℃まで寒くなるように、大気がほとんどない惑星では恒星から近い位置でも低温になるケースがあります。これは、大気が温度を保つための毛布のような役割を果たすためです。
太陽系外惑星の中には、自転周期と公転周期が一致するために片面が永遠に夜となってしまう惑星もあります。そのため、夜側の温度が極めて低くなる場合もあります。
地球から48.5光年離れた位置にある惑星「LHS 3844 b 」(固有名クアクア)は、大気が存在せず、自転周期が公転周期と一致するよう固定されていることが確実視されています。この性質から、昼側の温度は770℃なのに対し、夜側の温度は絶対零度(-273℃)にかなり近く、実に“昼夜”の温度差が1000℃以上もあると推定されています。
同じような環境を持つ惑星が他にある可能性は否定できませんが、少なくとも現時点では、実際に温度が測定されている惑星としては最も低いことは間違いありません。
ところで、LHS 3844 bの想像図が真っ黒に描かれているのは、実際にそのような色を持つと推定されているからです。その理由ははっきりとは分かっていませんが、恒星や宇宙空間から飛来する高エネルギー粒子線による宇宙風化が原因ではないかと考えられています。月や水星も、宇宙風化によって黒っぽくなっている天体の例です。
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●岩石によって鏡のように輝く「LTT 9779 b」
遠く離れた太陽系外惑星の表面温度は、熱源である恒星からの距離に加え、熱を反射する物質があるかどうかでも大きく変化します。しかし、太陽系に類例が存在しない極端な環境にある惑星が珍しくないため、正確な反射率を推定することはしばしば難題となります。
地球から246光年離れた位置にある「LTT 9779 b 」(固有名クアンコア)は、惑星表面の大気の反射率を測定するためのいくつかの条件を満たしているとして研究対象となりました。しかし、詳細な測定の結果、反射率が約80%と鏡のように高いことが分かり、天文学者を驚かせました。
この反射率に匹敵する天体は、太陽系では金星や土星の衛星であるエンケラドゥスが知られていますが、金星は大気中の硫酸、エンケラドゥスは表面の氷によるものです。しかし、LTT 9779 bは表面温度が2000℃にも達するため、硫酸や氷はとても存在できません。
LTT 9779 bの場合、高い反射率の元はケイ酸塩とチタン酸塩、分かりやすく言えば岩石であることが推定されています。LTT 9779 bの高温で、大気が岩石の蒸気で飽和しており、上空で岩石の粒が“結露”するというとてつもない状況が発生しているのではないか、と考えられています。
しかし、2000℃という高温の環境も、岩石の“鏡”によって幾分か遮熱されてマシになっている可能性もあります。これにより、LTT 9779 b自体が蒸発して消滅することが避けられている可能性もあります。
参考文献:N. W. Borsato, et al. “The Mantis Network III. Expanding the limits of chemical searches within ultra-hot Jupiters: New detections of CaI, VI, TiI, CrI, NiI, SrII, BaII, and TbII in KELT-9 b”. Astronomy & Astrophysics, 2023; 673 (A158) 31. DOI: 10.1051/0004-6361/202245121
Laura Kreidberg, et al. “Absence of a thick atmosphere on the terrestrial exoplanet LHS 3844b”. Nature, 2019; 573 (7772) .87-90. DOI: 10.1038/s41586-019-1497-4
Xintong Lyu, et al. “Super-Earth LHS3844b is Tidally Locked”. The Astrophysical Journal, 2024; 964 (2) 152. DOI: 10.3847/1538-4357/ad2077
S. Hoyer, et al. “The extremely high albedo of LTT 9779 b revealed by CHEOPS”. Astronomy & Astrophysics, 2023; 675 (A81) 13. DOI: 10.1051/0004-6361/202346117
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