
緒方孝市インタビュー 後編
広島の野手陣について
(前編:今季のカープ投手陣を高評価 キーマンになりそうな投手の名も挙げた>>)
緒方孝市氏に聞く広島の現状の野手陣。5月12日時点で、チーム打率.252はリーグトップ、116得点はリーグ2位と、ここ数年で課題とされてきた打線に向上の兆しが見えてきている。その理由や、打線の組み方などについて聞いた。
【田村俊介ら「次の世代」が奮闘】
――今季の野手陣をここまでをどう見ていますか?
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緒方孝市(以下:緒方) 昨年、Bクラスに終わってしまった最大の要因は得点力不足です。チームはこれまでも、秋季練習、春季キャンプ、オープン戦と打撃力強化に力を注いできまましたが、目に見える成果はなかなか表われにくいものなんです。
そんななか、末包昇大が打点を稼ぎ(リーグ2位の29打点/5月12日時点、以下同)、サンドロ・ファビアンには安打がよく出ています(リーグ2位タイの44安打)。また、昨年は4番バッターが決まらなかったのですが、末包が4番に座ってから、3番に入ることが多い小園海斗、またはファビアンとの流れが非常に機能しています。
――前を打つバッターの調子がよければ、後ろを打つ末包選手が打点を稼げますね。
緒方 クリーンナップがある程度固定できているのは明るい材料です。気になるのは、末包がシーズンを通じて4番を打てるかどうか。シーズンを通してプレーした経験がないので、そこが不安材料です。
――そのほかに注目している選手は?
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緒方 誰かひとりというわけではなく、田村俊介や中村奨成、二俣翔一、林晃汰といった若手に注目しています。次の世代のレギュラー候補というか、だいたい同じ世代の選手たちが「一軍のベンチ入りのメンバーに加わるんだ」と意気込み、いい意味でチーム内で競い合っています。
田村は昨年、オープン戦まではよかったのですが、注目されていた選手だったこともあって(シーズンに入ると)研究されて弱点を突かれました。その弱点をなかなか克服できず、力を発揮できませんでしたよね。本当に悔しいシーズンを送ったなかで、「自分に何が足りないのか」を考えて取り組んできたと思うんです。
その成果が今年のオープン戦中盤あたりから出始め、開幕してから最初にいい形でヒットが出た。あの1本ですごく自信をつけたと思いますし、乗っていける要因となった一打でしたね。今まで取り組んできたことの成果が少しずつ出て、手応えを感じていると思います。
【中村奨成も1番でブレイク。競争が激化】
――中村選手はいかがですか?
緒方 ワンチャンスをものにして、ここまでは非常にいい形で打ち続けていますね。まだ打席数は少ないですが、打率.367、出塁率も.415と高いです。1番バッターで起用されていますが、チャンスメイクが重要な1番バッターにとって、出塁率は高いに越したことはない。若い選手たちがもらったチャンスを活かして結果を残しているので、連敗が続いた時でもチームの雰囲気は悪くはなかったと思います。
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たとえば二俣が打てなくなると、ほかの若い選手にチャンスが与えられるじゃないですか。その選手たちは、「自分がこのチャンスをつかむぞ」と臆することなく試合に出ています。選手個々を見れば、調子のいい選手と悪い選手がいますが、チーム全体として考えれば、これはポジティブなことです。
――二俣選手はバッティングで苦労しているように見えます。
緒方 打撃フォームを大幅に改造して取り組んでいますからね。もともとスイングスピードが速く、遠くに飛ばす能力のあるバッターなのですが、課題のひとつが確実性。昨年、一軍である程度の打席を経験して、いろいろなことを感じてフォーム改造に行きついたと思うのですが......先ほど話したように、すぐに成果は出にくいんです。ただ、昨年とバッティングの内容を比べれば、確実に力はつけてきています。
――今後、秋山翔吾選手、エレフリス・モンテロ選手が戦列に復帰すると、野手の競争はますます激しくなりそうです。
緒方 そうですね。若手にとっては正念場でもありますから、アピールして頑張ってほしいです。それと、戦列に復帰した坂倉将吾の存在が大きいですよ。仮に末包が調子を落としても坂倉がカバーできますし、ファビアン、小園、末包、坂倉らで組む中軸には厚みがあります。秋山やモンテロが戻ってくれば攻撃のバリエーションも増えますしね。
【クリーンナップは臨機応変に】
――中軸は固定すべきでしょうか?
緒方 打線は"水物"と言われますし、得点はひとりで取るのではなく、つながりで取っていくもの。今は末包の調子がよく、勝負強いので4番を任せていいと思いますが(得点圏打率.483はリーグトップ)、どの選手にも好不調があります。
若手同士の競争の話もしましたが、やっぱりベテランであろうと中堅であろうと、調子のいい選手を軸にして打線を組んだほうがいいと思います。(5月4日の)中日戦では、小園をスタメンから外して山足達也を起用。その山足がタイムリーを打って勝利に貢献しましたし、選手の心身の状態を見ながら柔軟に対応していっていいのかなと。もちろん、末包の状態がよければ引き続き4番でいいと思います。
――昨年は長打力が大きな課題でしたが、今は末包選手(長打率.479/リーグ5位)、ファビアン選手(長打率.478/同6位)に長打が期待できます。
緒方 チームとして非常に明るい材料です。今後も末包やファビアン、坂倉も野手のキーマンだと思います。もちろん小園もやってもらわないといけない選手ですが、クリーンナップを固定しなければいけない、4番を固定しなければいけない、ということでありません。先ほどお話ししたように、各選手の状態を見極めて臨機応変に起用していくほうがいいと思います。
【プロフィール】
緒方孝市(おがた・こういち)
1968年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。1986年に広島東洋カープからドラフト3位で指名され入団。2008年まで主に外野手として活躍し、盗塁王のタイトルを3度、ゴールデングラブ賞を5年連続で受賞した。2009年に現役を引退後、コーチとして後進の指導。2015年に監督に就任すると、2016年から18年にかけてチームを球団史上初の三連覇に導いた。2019年に退任後、野球評論家などで活躍中。