「今年の新人は受け身だな」と決めつける前に、上司のあなたが自覚すべきこと

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2025年05月14日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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嫌われる上司の特徴と、打開策とは

 「なぜ私は新入社員に嫌われているのか……」


【画像】あなたが決めつけてかかれば、その予想は悪い意味で「的中」する


 ある課長が悩みを深めていた。10分ほど会話すると、分かった。どうやら、この課長は「アナロジー思考」が欠けているようだった。


 そこで今回は新入社員から嫌われる上司の特徴と、打開策としての「アナロジー思考」について解説する。部下育成に悩む全ての上司は、ぜひ最後まで読んでいただきたい。


●下手なレッテル貼りが招く悲劇


 なぜその課長は、新入社員に嫌われているのか? 発言からすぐに分かった。


 「今年の新人は、受け身の姿勢で困ります。もっと自分から動かないと」


 そのように不満を口にするので、どんなエピソードがあったか尋ねると、会議で質問しても、新人は少し考えるだけで「特にありません」と答えたという。他のエピソードを尋ねても、その一回しかないそうだ。


 他の新人たちにも、「やる気が見られない」「積極性がない」「個性を主張しすぎだ」と苦言を呈したようだが、まだ1回や2回しか会っていないのに、そのようにレッテルを貼っていたようだ。


 私は「それは早すぎる判断では?」と意見をした。


 「だから私は嫌われるんでしょうか? 部長から、けっこう厳しく注意されまして」


 この課長の思考は「過度の一般化バイアス」に基づいている。少ない情報を手掛かりに、あたかも相手を見抜いたかのように振る舞うのだ。そして一度貼ったレッテルを、なかなか剥(は)がそうとしない。


 「この新人は、根が暗い」


 「あの部下は、指示がないと動けない」


 「どうせ、努力しないタイプだろう」


 こうした思い込みは、相手の可能性を閉ざすだけでなく、自分自身のマネジメントの幅も狭めてしまう。


 なぜこのように、すぐレッテルを貼りたがるのか。これには心理的な理由がある。不確実なものは人を不安にさせるため、何とかシンプルに解釈し、分かりやすいカテゴリーに押し込めたくなるのだ。


●なぜ「アナロジー思考」が必要なのか?


 このようなレッテル貼りを防ぐには、「アナロジー思考」が役に立つ。アナロジー思考が必要な理由は以下の3つだ。


人間理解を深める


 アナロジー思考とは、ある対象を、似た構造を持つ別の事例になぞらえて考えることだ。言い換えれば、「これは別の何に似ているか?」と問い直す思考法である。


 例えば意見や質問をためらう新入社員を見たとき、すぐに「受け身の姿勢だ」と決めつけるのではなく、こんなふうに考えてみる。


 「初めて参加した茶道教室で、先生から『質問は?』と聞かれても、すぐには出てこないよな」


 「入社直後の新入社員は、いわば転校生のようなもの。教室の空気に慣れるだけでもせいいっぱいじゃないか」


 別の状況に置き換えることで「いま質問しない=受け身の姿勢=やる気がない」という単純な図式に疑問を覚える。


 「いや、そうとも限らないか……」


 そこからようやく「もう少し様子を見てから評価しよう」「今度は話しかけやすい雰囲気を作ってみようか」といった建設的な思考に切り替えられるのだ。


マネジメントの余白を生む


 アナロジー思考の最大の効用は、「決めつけを防ぎ、余白を残すこと」だ。


 ある製造業の部長の例を見てみよう。その部長は新人の配属直後、「あいつはダメだ」と決めつけた。だが、同時に「いや、待てよ。うちの息子も大学時代は自分の意見を言えなかったな」と思い直した。そして「半年くらいは見守ってみよう」と判断した。


 結果として、その新人は半年後には見違えるように成長した。先輩とのランチで緊張がほぐれたことをきっかけに、徐々に自分の意見も言えるようになったのだ。部長が早とちりしなければ失われていたかもしれない人材だった。


 人はとかく、未知のものに対して不安を感じる。だから、早くラベルを貼って安心したくなる。しかし、組織においてはその"安心"がかえって害になる。新入社員は、見えない部分が多いのだ。


●「自己成就予言」を防ぐ


 レッテルを貼ることで生じる最大の問題は、そのレッテルが「自己成就予言」として働いてしまうことである。


 自己成就予言とは、ある予測や思い込みが、それ自体の影響で現実になってしまう現象を指す。心理学者ロバート・マートンが提唱した概念で、「予言の自己成就」とも呼ばれる。


 例えば教師が「この生徒は優秀だ」と思うと、無意識に多くの機会を与え、結果的にその生徒は優秀になる。一方「この生徒はダメだ」と思えば、期待しなくなり、その生徒は本当に成績が下がる。有名な「ピグマリオン効果」と呼ばれるものだ。


 ある情報システム部門の課長は「あの新人はITに向いていない」と早々に判断してしまった。その結果、重要なプロジェクトから外し、単純作業ばかりを任せるようになった。新人は「自分には期待されていない」と感じ始め、やがて勉強もしなくなった。そして一年後、「やはりITに向いていなかった」と課長の予言は「的中」した。


 しかし同じ新人が別の課長の下につき、「プログラミングは未経験だけど、料理のレシピに例えてコツを教えたら理解できるかも」と粘り強く教えられたら、結果は違っていたかもしれない。


 「この部下はやる気がない」と思えば、重要な仕事を任せなくなる。すると部下も「自分には期待されていない」と悟り、実際にやる気をなくす。この悪循環を断ち切るためにも、アナロジー思考が必要なのだ。


●「好きになれない仕事」だって、変えられる


 そもそもアナロジー思考は、相手理解だけでなく、自分にも役立つ。


 例えば「この仕事、どうしても好きになれない」という感情があったとしよう。そのとき「これまでに好きになったものって、どんなときだったっけ?」と振り返るのだ。


 「部活の練習は嫌いだったけど、大会前だけは燃えてたな」


 「勉強は苦手だったけど、誰かに教える立場になると真剣になれた」


 こうした記憶をヒントに「いま目の前の嫌いな仕事も、似たようなパターンにできないか?」と考えてみる。


 アナロジー思考とは、いわば「具体と具体をつなぐ橋」だ。その橋を架けることで、自分や他人を理解する視野が広がる。


 日常の多くの場面でアナロジー思考は活用できる。例えば「この新入社員は、自分の子どもが運動会で緊張しているときとよく似ている」と考えれば、叱るよりも励ます言葉をかけるだろう。「この会議は、初めて参加するパーティーのようなものと捉えれば、全員が発言しやすい雰囲気づくりを心がけるようになるかもしれない。


●アナロジー思考の鍛え方、3つのステップ


 アナロジー思考は誰でも鍛えられる。具体的には次の3つのステップを実践してみよう。


「これは何に似ているか?」と問いかける


 部下の行動や態度に接したとき、「これは何に似ているか?」と自問する習慣をつける。最初は意識して行う必要がある。


 朝の会議で黙っている部下を見たら「これは何に似ているか?」と考えてみる。「朝は頭が回らない自分に似ているかも」「初めての合コンで緊張している状態に似ているかも」など、いくつかの例えを思い浮かべてみるのだ。


自分の経験を引き出して共通点を探す


 自分の過去の経験や、見聞きした出来事から共通点を探す。「この状況は、私が転職したときの状況に似ているな」「このプレゼンは、子どもの授業参観に似ているかも」といった具合に。共通点を見つけることで、新たな視点が生まれる。


具体策を実践する


 アナロジーから得た視点をもとに、具体的な対応策を考える。「転校生のように緊張しているなら、まずはランチに誘ってみよう」「授業参観なら、発表者をほめることが大事だな」といった具合に、アナロジーから実践へとつなげるのだ。


 アナロジー思考は単なる言葉遊びではない。実際の行動変容につなげてこそ価値がある。日々の小さな実践を積み重ねることで、次第に思考の習慣となり、レッテル貼りの誘惑にも負けなくなるだろう。


●まとめ


 新入社員に対してすぐに「やる気がない」「向いていない」とレッテルを貼ってしまう上司は、自らマネジメントの可能性を狭めているだけである。アナロジー思考を取り入れることで、部下への見方が変わる。仕事が嫌いな自分への見方も変わる。


 「いま見えているもの」に振り回されず、「かつての似た出来事」をヒントにすること。それが、成長を支える上司の条件だ。ついつい部下にレッテルを貼ってしまう全ての上司に、アナロジー思考を持ってもらいたい。


著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)


企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。



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  • …こんな反応だった、は、その時の事実でいいけど、その場で自分に都合いい反応が返されて当然、だと思うのは傲慢よ。空気読んでムリしてくれる子は疲れて萎むわよ。
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