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「5月1日、日本銀行が金融政策決定会合で、経済成長率の予想を発表しました。具体的には2025年度の実質GDPはプラス0.5%、2026年度はプラス0.7%で、トランプ大統領が就任した今年1月時点の見通しよりも、それぞれ0.6ポイント、0.3ポイントほど下方修正されています。この影響は私たちの将来の年金にダメージを与える可能性があります」
こう指摘するのは、生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんだ。日銀のレポートで《各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し(中略)成長ペースは鈍化すると考えられる》と示されたとおり、ドナルド・トランプ大統領が米国への輸入品に高い関税をかける政策をとったのが主要因だ。
その余波はすでに現れ、トヨタ自動車が、今期最終利益が35%減になる見通しであることを8日に発表したばかりだ。関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんが補足する。
「これまで、日本企業は国内での売り上げが悪くても、米国への輸出でドルを稼ぐことができました。しかし米国が高い関税をかけることになると、日本企業は関税を避けて米国内に工場を作り現地生産・販売することを選ぶでしょう。
そうなれば、日本の国内投資が米国にシフトされ、日本の株価や消費が低迷する可能性があります。関税だけでなく、トランプ政権は円安も問題視しています。今後、日本に円安の是正を、強く求めてくることが考えられます」
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米国との金利差を是正するため、日本は利上げをせねばならない状況に追い込まれる可能性がある。
「これまで低金利で融資を受けていた企業は、返済に行き詰まることになります。業績が悪化したり倒産したりする会社が増えれば、景気が低迷します」(島澤さん)
■年金の財政の将来は“最悪”の一歩手前に
トランプ大統領によって防衛費増額がもたらされる可能性に注視しているのは、前出の柏木さんだ。
「現状、日本の防衛費は目標だったGDP比2%を達成しつつありますが、トランプ政権の国防次官は今年3月、GDP比3%にするべきだと主張しています」
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仮にGDP比1%(6兆円)を上乗せされるとすれば、国民1人当たりの負担は約5万円にもなる。
「こうした経済成長に大きく左右されるのが、年金制度なのです」(柏木さん)
では、トランプ政権の関税政策の影響などにより、どの程度の年金が減ってしまうのだろうか。ヒントは、厚生労働省が5年に1度発表する“年金の健康診断”といわれる、「財政検証」にあるという。
財政検証では、“40年間、年金加入した会社員夫と専業主婦”をモデル世帯として、所得代替率(現役世代の所得に対し、モデル世帯が受け取る年金額の割合)の推移を予想している。今後、マクロ経済スライドという制度を使って、物価が上がっても年金額の増額を抑制することで、政府は所得代替率を徐々に50%近くまで引き下げていく方針だ。
「財政検証では、今後の出生率や経済状況に応じたシナリオを作って提示しています。今後、日本経済が高成長をするという楽観的なものや過去30年と同様の成長を続けていくという現実的なものから、今後まったく成長しないという悲観的なものまで、2024年の財政検証では主に4つのシナリオが示されました。
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しかし、今回のトランプ政権誕生により、4つあるシナリオのうち、悪いほうの2つのシナリオの中間くらいにまで経済が悪化する可能性があります」(島澤さん)
ここで指摘された2つのシナリオの所得代替率の中央値をとり、モデル世帯の年金額をあてはめて、将来の年金額を試算してみた。
すると、2025年度のモデル世帯の年金額は23万2784円だが、2030年には22万6796円となり、年間で7万1856円も減額に。さらに10年後の2035年には月の年金額が21万9千6円となり、2025年と比べ年間16万5336円も激減する結果となった。
あくまで実際の受給額ではなく、2025年の物価水準に合わせた数字ではあるが、年金の受給水準が減っていくことは間違いない。また、モデル世帯の試算なので、年金に未納期間があったり、基礎年金だけの人など、多くの人はさらに厳しい現実を突きつけられることになるだろう。
低年金時代を生き抜くためには準備が必要だと、柏木さんが語る。
「まずは健康で働き続けることです。そうすれば、年金の繰り下げ受給が可能になります。1カ月繰り下げるごとに0.7%(5年で42%)ずつ年金額を増やせます。
また、パートの人も労働時間が週20時間以上、勤め先が51人以上の企業など一定条件をクリアすれば、厚生年金に加入できます」
年収120万円で厚生年金に加入して5年間働けば、上乗せされる厚生年金は年間約3万3千円だ。
「働いて得た収入の一部を、iDeCoで積み立てて個人年金を増やしたり、NISAで積立投資して、老後資金を作ることも選択肢。毎月3万円を5年間積み立て、3%で運用できれば、元金180万円が194万円に増えます」
トランプ・ショックから、年金を自分で守らなければならない。
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