
ホテルや旅館などに宿泊していて、設備を「うっかり、汚してしまった、壊してしまった」という経験のある人もいるだろう。そんな時は、すぐに施設側に申し出るべきだが……。ある地方都市のホテルでフロントスタッフとして働く加藤さん(仮名:20代女性)は、数か月前の冬の午後、驚くような経験をしたという。
「一階のロビーにはお手洗いがあるのですが、 連泊中の女性のお客様がホテルに帰って来た際に慌ててトイレに駆け込みました」
その後、誰もが予想もしなかった事態が発覚した。一体どういう状況だったのか。編集部では加藤さんに取材し、詳しく話を聞いた。(文:篠原みつき)
「従業員がトイレから慌てて出てきて清掃スタッフに連絡しました」
それは、チェックイン開始時刻より少し早い14時頃のこと。加藤さんによれば、その宿泊客は30代半ばの女性で、ホテルを数回利用したことのあるリピーターだった。ホテルに帰ってきたその女性客は、どんな様子だったのか。
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「髪で顔が隠れて表情まではわかりませんでしたが、ヒールをカツカツと鳴らしながら早歩きで、少し背中を丸めて膝を曲げたような体勢で、一階ロビーのトイレに駆け込みました」
やはりトイレを我慢して慌てていた様子がうかがえる。その後しばらくしてトイレから出て来るも、すぐに客室へは戻らなかった。
「何事もなかったようにロビーのソファーに5分ほど座っていました。特に苦しそうな感じもなく、普通でした。おそらく平常心を装っていたんだと思います」
しかしその直後、従業員がトイレに入ると、驚くべき事態が発覚した。
「従業員がトイレから慌てて出てきて清掃スタッフに連絡しました。どうしたんですか?と事情を聞くと、トイレの個室の中が糞尿だらけだったんです。便器だけではなく、床や流しボタンまで汚れている状態でした」
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その時、その女性客は客室へ向かうためエレベーターを待っていたそうだ。加藤さんがその姿をよく見ると、黒いスカートのお尻の部分が汚れていることに気が付いた。
「そのままエレベーターで客室へ上がり、15分ほどで再びロビーに戻られましたが、その際には汚れていたスカートは着替えられ、ストッキングも脱いでいました。もしかしたら、下半身だけでもシャワーで洗い流していたのかもしれないです」
とりあえず身繕いを済ませて戻ってきたが、トイレの件でホテルのスタッフに何かを言うことは無かったそうだ
20万円の損害と「教えてほしかった」という思い
原因はともかく、ホテルはチェックイン時間になっていた。急ピッチで清掃を済ませ、感染症を防ぐための対応にも追われた。その女性客が触れた可能性のある場所を、徹底的にアルコール消毒したのだ。
「トイレのドアやドアノブ、エレベーターのボタン、ソファー近くの机、エレベーター内の壁や鏡などですね。座っていたソファーは、匂いと汚れがついて買い替えるしかありませんでした。およそ20万円の損害です」
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女性客は3泊4日の滞在予定で、この出来事は2日目のことだった。彼女はその後も、この件には触れることはなく、予定通りチェックアウトしたそうだ。
加藤さんは「わざとではないでしょうし、女性なので恥ずかしい気持ちもわかりますが、もし汚してしまった際には教えて欲しいなと思いました」と複雑な心境を吐露する。
ちなみに、ホテル側として、客が家具などを汚してしまった場合、必ずしも弁償を求めるわけではないようだ。
「清掃で済むことや体調不良等など特別な事情があれば請求することはありません。しかし、お部屋でのタバコや染髪剤など、館内案内に禁止が記載されている行為で部屋のものを汚した場合は弁償をお願いすると思います」
旅館やホテルでは客による物損などをカバーするため、たいてい旅館賠償責任保険に入っているものだ。この件の損害の費用負担について、加藤さんは「支配人が本社と相談して決めたようなので詳しいことは分かりません」と話しているが、保険で賄った可能性は高いだろう。
意図せぬアクシデントであった可能性は高いものの、ホテルに迷惑かけて何も言わず出て来たリピーターの女性客。再びこのホテルを利用することは、心理的にかなり難しいのではないだろうか。
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