
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――就任100日越えたトランプ米大統領の世界各国スコア表、第2回です。前回は日本を評価していただきました。今回はまず、「パナマ運河」に関してです。米国はすでに中国から運河を取り戻した。これは「〇」でよいでありますか?
佐藤 ここは「〇」ですね。
――米国は今後、自国の港に入港する中国船に対して、一回あたり100万ドルの入港料を取ると言い始めています。
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佐藤 はい。なので、ある金額を超えてしまうとパナマ運河を通行するのではなく、南アメリカのドレーク海峡をぐるっと周ったほうが安くなるかもしれません。もっとも、ドレーク海峡は波がひどく荒いですけど。
――それってつまり、1914年にパナマ運河が出来た以前の航路に戻るということです。「トランプ革命」によって100年前まで戻ったと考えれば、すごく簡単ですね。
佐藤 そうです。
――次はガザ地区です。イスラエル軍はガザ地区に3本の回廊をぶち抜いて占領しました。最北部のガサ市から徹底的に空爆を再開しています。つまり、ハマスが武器を捨てないならば全滅させようとしています。
佐藤 これも「〇」です。なぜかと言うと、ガザ地区に関する関心が、国際世論から薄れていっているからです。なので、イスラエルはやりたいようにやれます。
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――すなわち、ハマスを全て潰さないと二度とイスラエルに平和は戻って来ない。
佐藤 そうです。だから、イスラエルが認定するテロリストを全滅させるということです。そして、その限りにおいて、その認定基準はイスラエルにあります。
ハマス側は「この人がテロリストだと思いますか」という市民の写真をネットに掲載して宣伝をしています。しかし「はい、そう思います」とイスラエルに言われたらテロリストとなります。それだけなんですよ。ここは「思います」で通用してしまう世界なんです。
――心の、思いの問題。その結果を吐露するだけと。
佐藤 だから、イスラエル軍に家を追われた女性が「私がテロリストに見えますか?」という朝日新聞の記事がありましたが、イスラエルが「はい、そう思います」と答えれば終わりなんです。「そう思う」で話が進む世界ですから。
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――ガザ地区のイスラエルによるテロリスト認定は、以前にご説明いただいた日本の政治資金規正法と同じ基準です。その人の「気持ち」ということですね。
佐藤 そうです、一緒です。イスラエルは認識の問題まで持って行ってしまったということです。だから、もうこれで終わりなんです。事実関係の確認やテロリストの指標、何をもってテロリストとするか......そういった議論もなく「思うか、思わないか」ですから。
――非常に単純明快でわかりやすい。
佐藤 そうです。それで石破(茂)さんは乗り切りましたよね?
――はい。石破さんは「これは私のお祝いです」と"気持ち"を伝えて助かりました。それと、イスラエルが「この人はテロリストです」と決めて空爆で爆殺することが同じ構図だと。
佐藤 はい、一緒です。
――イコール、なんですね。
佐藤 そう、イコールなんです。だから、世界はそういった"心の時代"に入ってきたんです。
――すさまじい「心の時代」です。
佐藤 ガザは「心の時代」の始まりです。だから、ここは「〇」となります。
――ガザ地区は「〇」。恐ろしい......。
では次にウクライナです。 腰が抜けそうになったのですが、佐藤さんの記事に「米露、ウクライナを釣り銭のごとき扱い」と書いてあったのに驚きました。
佐藤 ハンガリー出身のフランスで活躍したジャーナリスト、フランソワ・フェイトという人の書いた『人民民主主義の歴史』という有名な本があります。日本語訳は『スターリン時代の東欧』と『スターリン以後の東欧』です。その本の中で、東欧に関して「釣り銭のごとく我々を扱わないでくれ」という文言があるんです。
――それがこの言葉の由来なんですね。
佐藤 東欧諸国は国際政治の駆け引きの中で、釣り銭のように扱われています。
――コンビニの自動精算機に米露の紙幣を入れると、チャラーンとウクライナの小銭が釣り銭として出てくる。
佐藤 そうです、釣り銭がウクライナということです。
――すると、そういうシステムが出来ているから「〇」。あとはもう時期だけですね。
佐藤 そう、時間の問題です。そして、釣り銭の内容を現状の断片的な情報で考えるなら、例えばクリミアをロシア領と正規に認める案とかになりますね。
――それから、ウクライナと米国間で、鉱物資源の協定がオッケーになるとかならないとか......。
佐藤 それで金は永久的にアメリカに入ります。
――でしょうね。
佐藤 「では、本気で支援しますか?」という話になりますが、アメリカが軍事的にウクライナを支援すると思いますか?
――その鉱物資源協定下だと、するわけはないと思います。
佐藤 そうです。レアアースや天然ガスを掘っている所に、ミサイルが飛んで来たら、困りますからね。
――ですよね。
佐藤 ウクライナに関しては、あとは後処理でどうやってカッコつけるか、それだけです。
そして、今回のイースター停戦ではっきりしたことがあります。ロシアは先日のイースターに30時間の停戦を宣言しました。しかし、それでもウクライナは撃ってきた。これで、どちらが平和を維持しようとしているか?というと、これはロシアにあると。
――そのイースターの30時間停戦は、トランプ米大統領がイライラして「話がまとまらないんだったら手を引くぞ」と言ったら、すぐにプーチンが打ち出した。
佐藤 だから、やっぱり両者のやり取りですよ。お互いにポイントがわかるから、ピンときたんでしょう。だからトランプにしても、自分の言う事にプーチンが30時間停戦と反応したから、かわいいわけです。
――ですね。次はイランです。
佐藤 ここは「△」ですね。
――なぜ「△」なんですか?
佐藤 イスラエルの状況が定まらないと、イランに手をつけられないからです。ここは、イスラエル、イラン、アメリカの3つが絡み合っています。肝は、イランがイスラエルを攻撃せず、イスラエルの国家滅亡を狙わない、ということです。
しかしいま、イスラエルが、イランの舎弟連中を皆殺ししているわけでしょ。その状況でイランがアメリカと手を握れますか? だからここに関しては、ちょっとこのタイミングがどうなるかわからないので「△」です。
――中東はさすがに入り組んで複雑に絡み合っていますね。
佐藤 ただし、いまのイランは非常に現実的です。だから、イランはシリアをサポートしなかったわけです。そして、ヒズボラを見殺しにしました。
そういったことを鑑みると、「イランのサウジアラビア化」ですよね。実はサウジの原理は、世界にワッハーブ王国を作ること。そういう意味では、アルカイダや「イスラム国」と一緒ですからね。
――なんと恐ろしい!
佐藤 そして、サウジには現代的な刑法も人権規定もありません。本来はそれが執行されるのはサウジの領内だけですが、時々、間違えてしまうんですよね。
例としては、2018年にイスタンブールのサウジ総領事館で、トルコに亡命した人物を殺し、バラバラにしてしまっています。あれは普段、サウジ国内でやっていることで、外国だったから問題になったわけです。
――大使館の館内は、サウジの領土とみなされないのですか?
佐藤 現場は大使館でなく、総領事館です。それに、そもそも外交特権免除というのは、ウイーン外交条約の大原則として、まず、その国の法体系を順守することがあります。その特権免除の中に、人を勝手に殺していいということはありません。だから、外交(領事)特権に隠れて人を殺してはダメなんです。
――人道であります。であれば、サウジ領内に誘い寄せればいつものようにできた?
佐藤 そうなりますね。サウジ領内に入ればやりたい放題です。ただ、それがわかっていたからサウジに行かなかったんです。
――だからして、民主党のバイデン前大統領はサウジを相手にしなかった。しかし、トランプはサウジを相手にする。
佐藤 ところが、まだイランが応じる状態にないから、これを判断するのはちょっと時期尚早です。
――すると、どこを見ていればいいですか?
佐藤 イランのトップ、アリ・ハメネイだけを見ていればいいと思います。
次回へ続く。次回の配信は5月23日(金)を予定しています。
取材・文/小峯隆生