
20年以上プロジェクトマネージャーを務めてきたプロジェクト管理のプロ・橋本将功さんの著書『人が壊れるマネジメント プロジェクトを始める前に知っておきたいアンチパターン 50』では、良かれと思っていても部下を追い詰めてしまう危険なマネジメントについて解説しています。
今回は本書から一部抜粋し、部下のミスを責めることがなぜ問題解決につながらないのか、そして心理的安全性の高いチームを作るためのヒントについて紹介します。
ミスを責めるだけでは改善されない
プロジェクトなどの新しい取り組みを実施する際に最も基本的な禁じ手は「ミスを責めること」です。ミスは誰でも起こすため、それを責められる環境では誰も進んで仕事をやろうとはしなくなります。
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つまり、多くの仕事を引き受ければ引き受けるほど、ミスが露見する可能性が上がるため、誰も積極的な姿勢を見せなくなるのです。特に減点方式で評価される組織ではこの傾向が強くなります。
そもそも、ミスを理由に個人を責めてもそれが改善されることは稀です。
ミスを責められた際に改善できる人は、最初から「正しい進め方」を知っている人であり、正しい進め方を知らない人は改善の方法がわからないため、単に萎縮してモチベーションが低下して仕事に積極的に取り組まなくなったり、自分自身のミスを認めないように隠したり誤魔化したりするほうに努力が向かいます。
また、ミスをしても謝ればいいと開き直ったり、いわゆる「ズル」をして成果を出そうとしたり、評価する立場の人(意思決定者やマネージャー)に個人的に取り入ろうとしたり、場合によっては他人の成果を横取りしてアピールしようとしたりすることもあります。
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これは言うまでもなく組織の競争力を大きく下げる結果をもたらします。
ミスを責めることの問題点とは?
ミスを責めることのより深刻な問題点は、それによって本質的な問題が放置されてしまうことです。ミスが発生する要因として本人の注意力の欠如以外にも、決められた仕事のプロセスの不適切さやプロジェクト計画の非現実性、過重労働、実行体制や労働環境の不備、教育や育成の不足などのより本質的な問題が存在する可能性があります。
露見したミスを責めて個人の責任に帰すことで、これらの問題が放置されることになると、ミスが発生しやすい要因がそのまま残っているため、同様のミスがその後も継続的に発生するようになるのです。
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ミスが発覚した場合に必要なのは、作業の担当者を責めることではなく、作業のプロセスやプロジェクト計画の問題、環境面や育成の不備について点検が必要な兆候だと捉えて、マネージャーの責任として冷静に事実確認を行うことです。
「心理的安全性」の高い環境とは?
仕事をする際の環境的な側面を捉える概念として、近年日本でも「心理的安全性(Psychological Safety)」という言葉をよく聞くようになりました。心理的安全性は組織行動学研究者であるエイミー・エドモンソン教授が 1999 年に提唱した概念で、「チームメンバーがリスクある行動をとったとしても、チーム内では安全であると信じられる状態」と定義されています。
心理的安全性が高い環境では、チーム内でお互いに自分の意見や質問、懸念を自由に表明できると感じられるため、新しい取り組みや課題の早期解決、メンバー間の学習が進んで高い生産性や効率性を発揮できるのです。
少子高齢化で人材確保が困難な時代背景もあり、心理的安全性という言葉自体は浸透しつつありますが、しばしば「相手のミスや間違いも指摘できない、ぬるま湯のような環境ではいい仕事はできない」といった誤解に基づいた見解を聞くことがあります。
そうした見解は、特に厳しい環境の中で叩き上げで出世した人や、周囲からサポートを受けずに自身の努力で大きな成果を出した人から多く聞きますが、心理的安全性が高い環境とは、ぬるま湯や仲良しクラブのような環境のことではありません。
心理的安全性を確保することは、相手の人格や意見を否定しないことで、多くの意見を集めて議論を行い、問題の所在を「人」ではなく「プロセス」や「環境」に求めることなのです。
橋本将功(はしもと まさよし)プロフィール
パラダイスウェア株式会社 代表取締役 早稲田大学第一文学部卒業。文学修士(MA)。大学・大学院ではイスラエル・パレスチナでテロリズムの調査研究を実施。IT業界25年目、PM歴24年目、経営歴15年目、父親歴11年目。 Webサイト/ Webツール/業務システム/アプリ/ 組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。世界のプロジェクト成功率を上げて人類の幸福度を最大化することが人生のミッション。著書に『人が壊れるマネジメント』(ソシム、2025)『プロジェクトマネジメントの本物の実力がつく本』(翔泳社、2023)『プロジェクトマネジメントの基本が全部わかる本』(翔泳社、2022)(文:橋本 将功)