PayPay金融グループが「第2章」への扉を開いた。4月にPayPay銀行とPayPay証券を資本的に傘下に収め、決済を軸とした一体運営の体制が整った。4月1日に就任した栗尾圭一郎PayPay証券社長は「PayPayが順調に成長したタイミングで、連携してさらに高みを目指せるよう準備してきた」と語る。
2018年のPayPayのサービス開始から、ソフトバンクやヤフー、PayPayで金融事業全般に携わってきた栗尾氏は、「『PayPayは決済アプリ』というイメージを変え、資産を預けても安心な会社だと思ってもらえるようにしていきたい」と、グループとしての目指す姿を明らかにした。
約7000万人の巨大なユーザー基盤を持つ決済プラットフォームから、金融機能を一体化した「スーパーアプリ」へ――。PayPay金融グループが描く未来像に迫った。
●PayPay金融グループの新章
|
|
PayPay金融グループが5年越しの構想を形にした。4月1日にPayPay証券が、同14日にPayPay銀行がそれぞれPayPayの子会社となり、決済と金融サービスを一体化する体制が整った。
「金融会社として見てもらうためには、経済圏の中でいかにお金を集められるかが重要」と、栗尾氏は語る。2016年にソフトバンクで始まったPayPay立ち上げの準備から関わってきた栗尾氏にとって、この5年間は「適切なタイミングで必要な手を打ちながら、計画を進めてきた」期間だった。
2018年にリリースされたPayPayアプリは、キャッシュレス文化の定着とともに急速に普及。2020年7月に金融サービスを「PayPay」ブランドに統一する方針を発表し、One Tap Buy(現PayPay証券)、ジャパンネット銀行(現PayPay銀行)、YJカード(現PayPayカード)など順次ブランド統一を進めてきた。そして今年4月、資本再編を経て、「第2章」と位置付ける新たなフェーズに入った。
これまでPayPay証券はソフトバンクが主要株主、PayPay銀行はZホールディングス傘下、PayPayカードは当初ヤフー(現LINEヤフー)の完全子会社と、それぞれ異なる資本構成だった。これが今回の再編で、先行していたPayPayカードを含め、すべてがPayPayの完全子会社となったのである。
これにより「事業だけでなく、経営全体でシナジーを生むことができる体制が整った」と栗尾氏は強調する。
|
|
●決済アプリから金融プラットフォームへ
「銀行などの金融サービスの場合、日常的にアプリを開く機会は少ない。しかし、決済サービスの場合は、取引のたびにアプリを開くため、顧客とのタッチポイントが毎日のように生まれる」と、栗尾氏はPayPay金融グループが決済を軸にしていることの利点を、こう説明する。
タッチポイントの多さと頻度の高さは、他の金融サービスにはない強みだ。栗尾氏によれば、「決済時の入金も重要なタッチポイントとなる。この入金という“入口”をスムーズにし、その先の“出口”となるような金融サービスをきちんと用意できれば、ユーザーは自然と他のサービスにも関心を持ち、利用してくれるようになる」という考えが基本にある。
一方で、PayPayブランドの認知度調査では、「決済アプリ」としての認識が依然として強い。ジャパンネット銀行がPayPay銀行に名称変更した際も、銀行という堅いイメージの事業に、PayPayというカジュアルな名称がマッチせず、違和感を覚えたユーザーが多かった。このイメージからの脱却が重要になってくる。
そのため栗尾氏は、「PayPayブランドでNPS(顧客推奨度)を高め、資産を安心して預けられる会社として、地位を確立したい」と述べる。さらに「PayPay経済圏内の預かり資産が増加すれば、単なる決済会社ではなく、金融会社として認知されるようになる」との展望を示した。
|
|
資本再編の最大のメリットは、ユーザーデータの活用にある。栗尾氏は「これまではPayPayユーザーであることは把握できても、詳細な属性は不明だった」と指摘。しかし、資本関係が整理されたことで、PayPayの決済履歴などのデータを活用し、PayPay証券が提案する投資信託を、ユーザーに応じて変えるといったマーケティングが可能になる。
これにより、従来の区分けよりもさらに細かいユーザー分析が行えるようになる。「顧客のリスク許容度や資産の余力に応じた商品提案ができ、よりパーソナライズされたサービス提供が実現できる」と期待を寄せる。
●NISAの口座数は42万超で、業界トップ10入り
ではPayPay金融グループの中で、PayPay証券はどのような役割を担っているのか。栗尾氏は「投資によって資産を増やす立場だ」と位置づける。
「銀行に預ければ利息が得られるが、それ以上のリターンを目指して、PayPay証券で積極的に資産運用したいというユーザーもいる。そうしたユーザーに対して、さまざまな選択肢を提示することが重要だ」とし、それを7000万人が利用するプラットフォーム上で実現することが、PayPay証券の使命だと栗尾氏は話す。
その強みの1つが、少額からの投資を可能にする仕組みだ。「金額指定で購入できることが当社の強みであり、1000円から投資できることが非常に重要」と栗尾氏は強調する。
また、PayPay証券が力を入れてきた特徴的なサービスの1つが、PayPayポイントを使った投資体験「PayPayポイント運用」だ。現在は、約2000万人のユーザーを抱える規模にまで成長している。
栗尾氏は「当初1000円から購入可能としたものの、利用者の反応は期待したほどではなかった。多くのユーザーが、アプリを開いたものの、何をすれば良いか分からないという状況だった。そこで、まず投資を体験していただいた上で、実際の口座での取引に移行してもらう方が効果的だと考えた」と、その狙いを説明する。
これによる成果も出始めている。NISA口座数は2025年3月時点で42万超となり、業界トップ10に入る規模だ。栗尾氏はこの成長を評価しつつ、「単に口座を開設する段階から、ユーザーの資産が実際に増加しているかを、各証券会社が冷静に分析すべき時期に来ている」と指摘する。
PayPay証券とPayPay銀行が同じ資本の傘下となったことで期待されるのが、銀行と証券の連携(以下、銀証連携)だ。例えば楽天では、楽天証券での株式の買い付け資金が楽天銀行から自動的に引き落とされ、株式を売却したらその代金が自動的に楽天銀行に入金されるなど、ユーザーがシームレスに使える仕組みが構築されている。一方でPayPay証券では、これまでは株式や投資信託の買い付け時に、PayPay銀行から代金が決済されるだけにとどまっていた。
グループで相乗効果を生み出す上で重要な銀証連携に関しては、どのような戦略を描いているのか。栗尾氏は「銀証連携の本質はユーザー体験にあると考えている。現在の証券口座と銀行口座の連携では、通常金利が0.7%のところ、連携により1%に優遇されるといった程度のものが多いが、これは単なる優遇施策であり、機能面での本質的な価値は限られている」と指摘する。
「真の銀証連携とは、相互のユーザーに対して最適な選択肢を提供することにある」として、長期的には「残高を一元管理し、資金移動が容易にでき、コスト面も含めて総合的に管理できる環境の構築」が重要だと語る。
●資産形成と将来の成長戦略は?
PayPay証券は、今後どのような成長を目指すのか。
「当社の目標は、PayPay経済圏内でより多くの資金を集め、真の金融会社として認知されることにある。その観点から、運用資産残高の拡大は重要な指標の1つだ」と栗尾氏は述べる。具体的な数値目標は明らかにしなかったが、「SBIや楽天とは規模が異なるため、それらを除くネット証券市場において、相応のポジションを確立していきたい」とする。
しかし、「もちろん競合他社との比較は意識しているが、それ以上に、PayPayの7000万人のユーザーにいかに利用してもらえるかを重視している」とし、業界内での立ち位置よりも顧客体験を優先する姿勢だ。
栗尾氏が特に力を入れようとしているのが、「PayPayらしい資産運用サービスの体験」だ。その特徴は、ユーザーにPayPayに加えて金融サービスも活用してもらい、PayPayの決済額をさらに増やしていくという好循環を生み出す点にある。「ロイヤルユーザーは、決済だけでなく金融サービスも併用することで、PayPayの基本機能である決済自体の利用も増加するというデータが出ている」と説明する。
「PayPayユーザーがNISA口座や証券口座を開設する際には、PayPayに対するロイヤルティが選択理由の1つとなっており、そこに大きな成長の可能性がある」(栗尾氏)。PayPayというブランドの強みを生かすのが、PayPay金融グループにとっての成功の鍵となる。
(斎藤健二、金融・Fintechジャーナリスト)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。