画像提供:マイナビニュース東金市、DeepForest Technologies(DFT)、NTT東日本-南関東 千葉事業部は、東金市が保有する保安林の管理効率化とデータベース化のため、AI解析技術などを活用した森林調査を昨年9月に実施した。
今後の森林整備方針の検討を目的に、AI解析技術を用いて森林の効率的な現状把握・分析を行なった本調査事業について、3者の代表者に聞いた。
○■保安林管理の現状と課題
1975年から1998年に実施された大規模宅地開発に伴い、18ヘクタールの保安林の移管を受けた東金市。
近年、大雨や地震による災害が大規模化するなか、設置から30年以上が経過した保安林は、隣地越境やサンブスギの溝腐病、倒木などによって近隣住宅や公共インフラへ影響を及ぼす恐れが出てきている。
「東金市では令和元年の台風15号・19号で、保安林とは別の森林で倒木が発生し、給水設備が被害を受ける事態も起きました。市の所有する保安林はその成り立ちから、住宅地と隣接している場所も多く、適切な管理・整備が求められています」と、東金市 農政課農政係 係長の繁田智之氏。
東金市の保安林は広範囲に及び、地形も急斜地が多い上、下草の繁茂などによって人が立ち入りにくい場所も多く、その管理には多くの人員や時間が掛かる。また、同市の農政係でも森林整備を担当する人員は限られており、今後の整備方針の検討には保安林の詳細なデータベース化が不可欠となっているという。
「毎年のように枝や下草などの隣地越境が見られる箇所は、定期的に枝打ちや草刈りを実施しています。ただ、基本的には職員が目視できる範囲内で現地の状況を確認し、事業者に作業を行ってもらうかたちで、想定外の場所などでは、どうしても場当たり的な対応になってしまう。そこで保安林全体の状況を網羅的に把握できる森林調査の方法を模索することになりました」(繁田氏)
森林環境譲与税を活用し、東金市は昨年7月、日吉台(5〜7丁目周辺)と八坂台(1丁目周辺)の2地区の保安林での森林調査事業に関する入札を執行。DFT社との埼玉県所沢市での「ナラ枯れ」把握に関する実績を持つ、NTT東日本が本調査事業を委託業務として受注した。
森林調査ではレーザー測量などを用いる手法などもあるが、NTT東日本はドローン空撮画像とDFT社のAI解析技術を活用して、効率的かつ正確に広範囲の森林状況を把握・分析可能と判断し、今回の応札に至ったそうだ。
○■ドローン×AIを活用した効率的な森林調査
本調査の対象となった保安林は18ヘクタールのうち約2ヘクタール。さまざまな樹種が混在する森林を調査対象として東金市が選定したという。
「急傾斜地など人力による調査が難しい東金市の保安林ですが、飛行当日はとくに大きなトラブルもなく、ドローンの空撮は短時間で済み、昨年9月6日の1日間で2地区の画像データの取得ができました」(NTT東日本 千葉支店 坂本拓実氏)
本調査ではドローンによるNTTグループのネットワーク設備点検などを行うNTT-ME社が、パロット社のドローン機体(ANAFI Ai)による空撮を実施。森林調査に関するソリューションやコンサルティングサービス事業を展開するDFT社がAI解析などを担当した。
従来の人間による森林調査は1ヘクタールにつき37時間ほど掛かるとも言われるが、GPSとカメラを搭載したドローンの20分ほどのフライトで、約10ヘクタールの森林を計測・スキャンできるという。
「空撮の際は飛行コースの重複度が不足することで『画像のラップ切れ』が発生ないよう、かつ一定の高度で地形に沿って飛行させる必要があります。ドローンやカメラレンズによる若干の違いもあったので、DFT社が過去の調査で撮影した空撮画像などを共有していただき、事前に綿密な飛行プランを立てました」(坂本氏)
DFT社が2022年7月に提供を開始した「DF Scanner」は、AIを活用した世界初の森林解析ソフトウェア。オルソ化(地形によるゆがみや写真上の像の位置ズレをなくし、地図と同じく、真上から見たような正しい大きさと位置に表示する空中写真の処理)した画像を解析し、各樹木の検出や樹種識別を行う。また、画像データを合成して3次元で再現することで樹高・胸高直径・幹材積・CO2固定量推定も各樹木単位で把握できる。
AI解析の精度は、樹種や樹木の見た目などをAIに学習させるモデルによって左右され、本調査でAI解析を担当したDFT社 事業統括部の川田奈穂氏は、東金市の植生に応じた学習モデルを新たに作成した。
「現地で取得したデータからスギ、ナラやクヌギなど単木ごとにオルソ画像をクリップし、樹種ごとに学習用の画像を蓄積していくという作業で、モデルづくり自体は1地区あたり3日ほど掛かりました。スギひとつとっても見た目はいろいろで、千葉県一帯に多いサンブスギも他のスギとは見た目が異なるため、その地域に合った学習モデルをAIに覚えさせることがAI解析の精度向上につながります」(川田氏)
○■多様な広葉樹の分布と高齢木を発見、越境枝の判読も
「1地区あたり10〜20種の樹種データを取得でき、2ヘクタールという範囲ながらさまざまな種類の広葉樹が確認されました。広葉樹は成長に長い時間が掛かりますが、樹高の解析では貴重な高齢木も発見されています」(川田氏)
樹種識別による樹種分布の可視化や詳細なデータベースの作成に加え、空撮画像と地番図と重ね合わせることで住宅に越境している樹木も可視化された。
「枝の越境に関する画像判読は弊社では今回が初の実証でしたが、越境判断の省力化に関する実績は大きな成果だと感じています。広葉樹に関してはまだまだデータ不足で、今回さまざまな樹種の広葉樹のデータを採取できたことも、弊社にとっては大きな収穫でした」(川田氏)
なお、土砂崩れや倒木状況の画像判読も行われたが、今回の調査範囲では大きな土砂崩れや倒木被害はなかったそうだ。また、サンブスギの溝腐病については判読が困難だった。
現在、DFT社は樹種識別や広葉樹の「樹冠分離」の精度向上に向けて、各地域に応じたモデルづくりと学習データの蓄積を全国で進めている。
「今回の調査ではオルソ画像から、1本1本の樹木の境界を判別する『樹冠分離』の作業が一番大変でした。針葉樹の場合は、高さ情報から『樹頂点』という木のてっぺんを自動作成し、1本1本の木に分離することができますが、広葉樹の場合、木の形が複雑な場合が多く、樹頂点がとりにくいので。現在、弊社では、画像情報から『樹冠分離』ができる技術を開発中です。今後、自治体様との関係性の深いNTT東日本様と連携して実証を重ねて、より良い東金市様のモデルづくりに取り組みたいです」(川田氏)
この調査で得たデータベースを活用し、東金市は今後の森林整備方針の検討、保安林の適正な管理、新たな収入源(森林クレジット)の創出、市民へ向けた森林整備に係わる普及啓発に取り組む意向だ。
「今後は範囲を区切りながら継続的に調査を実施し、8年ほどかけて保安林全体の状況を網羅したいと考えています。森林の状況を詳細に把握できれば整備計画が立てやすくなり、攻めの管理で効率的に業者への発注も可能になる。結果的に保安林の管理コストの低減も図れるのかと思います」(繁田氏)
NTT東日本 まちづくり推進担当の川越鉄也氏は、「今回の取り組みで林群の特長などの知見を得られたことで、近隣の自治体様や同じような悩みをもつ他の自治体様への水平展開を行っていきたいと考えています」とのこと。
森林管理の担い手が自治体で不足する中、NTT東日本とDFTはデジタル化によって負担軽減を図り、国内の持続可能な森林管理・保全に貢献していくという。
伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら(伊藤綾)