管理職の皆さん、5月も中盤になりましたね。
新入社員を受け入れる立場の皆さんは、「これから、どのように関わっていけばいいんだろう?」と悩んでいませんか?
私事で恐縮ですが、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本』を出版してから、若い世代との関わり方について管理職の方々から困り事を伺う機会が増えました。
「自分とは価値観がまったく違うんじゃないか」とか、「パワハラやモラハラと言われないように気を付けなきゃ」など過度に気を使ってしまった結果、多くの管理職が「どうすればいいかよく分からない」といった状況にあるようです。
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それもうなずけます。メディアを見れば、「Z世代はコスパやタイパ重視で……」「Z世代はワークライフバランスを重視し……」「Z世代はリアルよりもオンラインのつながりが大切で……」「Z世代は飲みニケーションが苦手で……」のように、「最近の若い世代は、他の世代とは違う」といった情報であふれています。近年の「退職代行を利用する人が急増」といった情報も、「分からなさ」に拍車を掛けています。
また、「五月病」という言葉があるように、季節の変わり目である今の時期は、過度な緊張状態が続いていた新入社員がメンタル的に不安定になりがちです。ある程度会社の雰囲気が分かってきた人の中には、「この会社で本当によかったのだろうか?」と、自身の選択に不安を感じ始める人もいます。
管理職はますます「どのように関わったらいいのだろう?」と悩む時期ではないかと思うのです。
●新入社員はそんなに「違う」のか?
ところで、現代の新入社員は、どんな不安を抱いているのでしょうか? 彼らはそんなにわれわれと「違う」のでしょうか。
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@ITの記事『2025年卒新入社員が抱える不安 「人間関係」を抑えた1位は?』によれば、新入社員が抱えている不安の2位は「上司・先輩・同僚とうまくやっていけるか?」(つまり、人間関係)で、1位は「仕事をうまくこなせるか」だそうです。
50代の僕がこの調査結果を読んで最初に思ったのは、「自分が若い頃と、あまり変わらないんだな」でした。
どちらかといえば人見知りでコミュニケーションがあまり得意ではなく、何が得意で、何をしたいのかもよく分かっていなかった僕も、社会人になったときに、今の新入社員と同様、人間関係や仕事についていけるかどうか不安でした。
これをお読みの管理職の皆さんが新入社員だったときだって、きっと似たような感じだったのではないでしょうか?
ちなみに、僕の娘は大学4年生で、今、就職活動真っ最中です。もちろん、生きてきた時代は違いますし、デジタルネイティブの彼女らとは得意なコミュニケーションの手段も違います。でも、彼女の言動を観察していると、「社会人になる不安」にはそれほど大きな違いを感じません。
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●以前も「入社2日目で辞める人」はいた
また、近年話題の「退職代行」のような情報を知ると、「そんな簡単に会社を辞めてしまうのか」と、自分が若い頃との違いを感じる人もいるでしょう。ひょっとしたら「そんなに簡単に辞めてしまうなんて、ケシカラン!」「それでは耐性が身に付かない!」とネガティブな心象を抱いたり、「退職代行を使われないように、言動に気を付けないといけないな」と過度に不安になったりしている人もいるかもしれません。
でも、以前だって入社数日で会社を辞める人はいました。僕が社会人になったときの同期がそうです。彼は入社2日目で退職しました。その理由は正直よく分かりません。彼は誰にも告げずに会社に来なくなりました。
つまり、今までだって「辞めたい」と思う人はいたし、実際に退職した人だっていたわけです。近年の退職代行の話題は、このようなサービスが出てきたことによって「今まで見えなかったものが、見えるようになっただけ」です。
このように考えてみると、「最近の新入社員は、自分たちとは違うのだ」と、過度に不安がる必要はないのではないでしょうか。
●もちろん、注意すべきコミュニケーションはある
だからといって、「何も気にしなくていい」というわけではありません。新入社員と関わる上で、注意すべき点はあります。
僕たち40代以上の人は若いときに、今ならパワハラ、モラハラと言われる部類の理不尽な扱いを受ける機会が多くありました。目的も告げられないまま「いいからやれ!」と仕事を指示されたり、「そういうものだから」と妥協を強要されたりするケースもありました。何の悪気もなくプレッシャーをかけてきたり、傷つけたりする人もたくさんいました。
こういった人は今もいますけどね。でも、以前の方がはるかに多かった。実際、動画サイトで過去のドラマを見ていると、よくありますよね。「これ、今だったらアウトだな」というシーンが。でも、かつては問題視されることもなく、そうした理不尽な言動がなされていたわけです。僕たちはそのような環境で育ってきました。ドラマではありませんが「不適切にもほどがある!」と言ってやりたい。
それだけに、自分たちも「悪い」という認識がないまま、無意識にパワハラ、モラハラな言動をしてしまう恐れがあります。それを防ぐには、どうしたらいいのでしょうか。
皆さんもかつて、パワハラ、モラハラな言動を受けて、「何でそんな言い方をされなければいけないんだろう?」「何でそんなひどい仕打ちを受けなければならないんだろう?」「もっとちゃんと教えてよ」と、悔しく、悲しい思いをした経験が、一度や二度はあるはずです。
それならば、自分が「悔しい」「悲しい」と思った言動を、次の世代に繰り返さないようにしましょう。僕らの時代で断ち切りましょう。若かりし頃の悔しく、悲しい気持ちを思い出して、よく味わって、その言動を繰り返さないようにすること。まずは、そこからでいいんじゃないかと思います。
●新入社員と良好な関係を築くために
最後に、新入社員との良好な関係を築くためのコツをお話しします。大きく分けると2つあります。僕が実際に試して、とても効果的だった方法です。一つは「新入社員の不安に耳を傾ける」こと。もう一つは「ネガティブな状況に肯定的な意味を付け、伝える」こと。
○新入社員の不安に耳を傾ける
先ほど、新入社員の不安は「人間関係」と「仕事をうまくこなせるか」の2つだという話をしました。彼らがこれらの不安を抱えているときに必要なのは、「その場合は○○した方がいいよ」といったアドバイスや、「分かるよ。俺が若い頃は……」といった上司の体験談ではありません。
まず、彼らが話す機会を作り、その話に耳を傾けること。自分の話をする前に、いったん受け止めること。そこから始めましょう。
話を聞くときには、相手の話に耳を傾け、会話の切れ目で「なるほど、○○に悩んでいるんだね」「そうか、××ということがあったのか」「つまり、△△という気持ちなんだね」のように、相手の話を要約したり、確認したりしながら話に耳を傾けます(専門用語では、これを「バックトラッキング」と言います)。「私はこのように理解しましたが、合っていますか?」「伝えたいのは、こういうことですね」と確認しながら話を聞くイメージです。
なお、「困ったときは何でも言ってね。話を聞くから」という言葉は一見優しく聞こえますが、そうとは限りません。本当に困ったり悩んだりしているときに、新入社員からは声を掛けづらいものですから。
不安を早めにキャッチアップするためには、1週間に1回など、定期的に話をする機会を設けることをお勧めします。いわゆる1on1ミーティングですね。
まず相手の話に耳を傾けることで、「○○さんは私の話を聞いてくれる」「××さんは私のことを分かってくれる」と思ってもらえる関係性ができるでしょう。なお、成長を支援するために「ここは、アドバイスをした方がいいな」と思うこともあると思います。その場合は、話をいったん聞いた後に伝えるといいでしょう。
○ネガティブな状況に肯定的な意味を付け、伝える
仕事をしていると、ネガティブな状況に陥ることがあります。特に経験が少ない新入社員の場合は、先輩の言っていることが理解できなかったり、作業のスピードが遅かったり、繰り返しミスをしたりして、落ち込むこともあるかもしれません。
そのような場合、僕たちが言われてきたのは「何度言ったら分かるの?」「ちゃんとメモを取りなよ」といったコミュニケーションでした。そのため、自分が注意する立場になった今、同じような伝え方をしたくなることもあるでしょう。でも、それでは人は萎縮するだけです。
このような場合にお勧めなのが「肯定的な意味を付ける」という方法です(専門用語で「リフレーミング」と言います)。リフレーミングは、ネガティブな状況に対して、それに役立つポジティブな意味や状況を考えて伝えます。
「経験がないために、先輩の言っていることが理解できない」という状況を例にとって考えてみましょう。どんなポジティブな意味が考えられるでしょうか? この経験が、どんなところに役立つでしょうか?
リフレーミングをするときは、「○○のおかげで……」「××だからこそ……」といった言葉を付けると、考えやすくなります。
「経験がないために、先輩の言っていることが理解できない。そのおかげで……」
「経験がないために、先輩の言っていることが理解できない。だからこそ……」
例えば、こんな感じです。「先輩が言っていることが理解できないのは、まだまだ伸びしろがあるってことだよ。質問すれば先輩と話す機会にもなるね。積極的に質問してみたら?」「先輩が言っていることが理解できないからこそ、繰り返し実践する機会になるんだよ。理解できるまで実践することが大切だよ」のように。
イメージとしては、元サッカー選手の本田圭佑さんや、お笑いコンビ「ぺこぱ」のお2人のような言葉遣いですね。
「作業のスピードが遅い」ならどうでしょうか? 「作業のスピードが遅いと不安になるのは、それだけていねいにやろうとしている証拠だね。○○を××にすると、もっと早くできるようになるよ」といった感じなら、アドバイスも受け入れやすくなるかもしれません。
リフレーミングを使うと、相手のネガティブな意識をポジティブにリードできます。頭をひねる必要があるのでうまくいかないこともありますが、でも大丈夫。ポジティブな意味を考える試み自体が大切です。自分にとっても、物事にポジティブな意味を付ける柔軟な思考のトレーニングにもなります。
「事実は変えられないが、解釈なら変えられる」。これが、コミュニケーションの可能性です。
●「Z世代さん」はいない
新入社員との関わり方について見てきました。
繰り返しになりますが、最近は「○○世代の特徴」といった情報が多いですね。そういった情報に触れると、「自分とは考え方が違うんじゃないか」と不安になるのも当然です。また、近年はコンプラ社会といわれています。「こういう言い方はパワハラになるんじゃないか?」と心配になることもあるでしょう。
また、新入社員が思い通りに動いてくれないと「最近の若い世代はこれだから……」のように、ある世代をまるっとひとくくりにして表現してしまいがちです。
でも、現代の新入社員と、僕らが新入社員だったときの不安は、さほど変わりません。また、僕ら同年代でもさまざまな価値観、さまざまな個性の人がいるように、若い世代の一人一人にもさまざまな価値観、さまざまな個性があります。「Z世代」とは誰かが勝手に付けたラベルのようなもので、実際には「Z世代さん」という人はいません。いるのは「私とあなた」です。
新入社員との関わり方に不安を覚えるのは「できれば、いい関係を築きたい」と思っている証拠であり、あなたの優しさです。まずは、新入社員の不安に耳を傾けること。そして、さまざまな状況に肯定的な意味を付け、伝えること。
もちろん、これで全てが解決できるわけではありませんが、新入社員一人一人に目を向ければ、良い関係が築けるようになるでしょう。少なくとも「最近の若い世代は〇〇の”傾向にある”と“言われている”」といったふわっとした情報で、過度に不安になることは少なくなるはずです。
●筆者プロフィール
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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