重度の知的障害と自閉症のある我が子は、母にとって“最推し” 「俺がかわいいの分かってるから」思春期の息子のアピールににじむ、親子の成長

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2025年05月24日 10:20  まいどなニュース

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幼少期のふみおくん…3歳半の頃に知的障害と自閉症であると診断されました

重度の知的障害と自閉症を持つ息子との暮らしを知ってほしい。その想いから日常を発信するのは、母親のまなさん(@manata33)。息子のふみおくん(仮名)は現在、12歳。生後間もない頃から首の座りが遅いなど、発達の遅れが見られ、3歳半の頃に知的障害と自閉症であると診断された。

【写真】現在は12歳になったふみおくん 笑顔は家族の宝物です

我が子に知的障害と自閉症があることが判明して…

「我が子が他の子と違う」と意識すると、親としては動揺することも多い。だが、まなさんは、ふみおくんの特性をかわいいと思った。

「私の場合は、福祉系の大学を卒業して福祉関係の仕事に4年半ほど就いていたこともあり、障害がある人への差別意識がなかったことも大きかったのかもしれません」

幼い頃のふみおくんは車のチャイルドシートから降ろす時、普通の赤ちゃんとは違って親の顔を見ず、車のスライドドアにある蝶番をじっと見つめていた。まなさんは、そんな姿を「職人肌」と感じ、愛しく思った。

「ただ、福祉の仕事をする中で自閉症の子を育てるのは簡単なことではないと分かっていたので『勉強しないと…』というプレッシャーは感じました」

一方、旦那さんはなかなか我が子の障害を受け入れられなかったという。自身の父親が教育熱心であったこともあり、ふみおくんの障害や特性が判明した時には「親父になんて言おう…」と葛藤した。

「義父にとって、息子は初孫。夫は、期待をかけられていたのに障害が…と思ったようでした」

病気で介助ができない…悩んだ母親が頼った「サポート場所」は? 

ふみおくんは未就学児の頃、2年ほど児童発達センターに通所した。ひらがなやカタカナの読み書きはできるが、歯磨きや入浴など日常生活を送るには介助が必要だ。重度訪問介護は原則として18歳以上が対象であるため、日常的な介助はまなさんらが行う。

だが、親も人間。体調を崩すことだってある。まなさんは2022年に体調を崩し、手術を受けることに。その際、頼ったのは育児の援助を受けたい人と育児の援助を行いたい人が互いに助け合う「ファミリーサポートセンター」だった。術後にできない入浴介助のみ手伝ってもらうなど、工夫して乗り越えた。

ただ、まなさんが住む地域では中学生からは「ファミリーサポートセンター」は利用できないそうだ。

まなさんは2024年、病気で再び介助が困難になった。当時、ふみおくんは小学6年生。再び、ファミリーサポートを利用するという選択肢もあったが、まなさんは、かつて通所していた児童発達センターと同じ法人が運営する療育施設に頼り、集中療育という形でふみおくんを入所させた。その選択を下したのには、深い理由がある。

「私は息子に合う教育が受けられるよう、地域の特別個別支援級から、排泄の教育などがしてもらえる特別支援学校への転学を希望していたのですが、6年生になっても申請が通らなくて…。住んでいる自治体では基本的に1年間しか集中療育の利用ができなかったので、自身の病気を治している最中に排泄の仕方などを学んでほしいと思ったんです」

当時、ふみおくんは性器を持って排尿することへの理解が難しかった。だが、性別が異なる母親にとって、思春期の息子に排尿の仕方を教えるのは葛藤があるものだ。そこで、まなさんは療育施設に、そうしたトレーニングも頼んだそう。

その結果、ふみおくんに嬉しい変化が。これまでは便器を抱き抱えないと排尿できなかったが、トレーニング後は「男の子のトイレでちゃんと持ってやるんだよ」と声かけをすれば、お尻を出す形にはなるものの、以前よりスムーズに排尿できるようになった。

また、集中療育を経たことで旦那さんの心境にも変化が。面会時に他の障害児の暮らしを見たり、他の保護者と交流したりする中で、我が子の障害や特性、「できること」を冷静に受け止められるようになったのだ。

「夫は、社会的な側面からも息子の将来を考えてくれるようになりました。定年後も働いて息子の生活を支えたいのと、障害がある人の成年後見制度に携わりたいという2つの目標から、今は司法書士を目指しています」

一方、義父は今でもありのままのふみおくんを受け入れられない。「この子は普通の子。甘やかして育ているから、こうなってる」などと現実逃避し、厳しい言葉を告げるため、まなさんは距離を置き、自身と我が子の心を守っている。

我が子を安心して任せられる「障害者施設」の見極め方は?

我が子を任せる障害者向けの施設は、選び方が難しい。我が子が求めるケアを一番理解しているのは親であるからこそ、施設選びの時には見極め方に悩むこともあるだろう。

そうした時、着目すべきは職員の表情だと、まなさんは話す。

「施設長という上司とのコミュニケーションが上手くいっており、施設全体の雰囲気が良ければ、我が子を連れて面談に行った時、職員やパートの方が委縮せず、挨拶してくれることが多いんです。もちろん、建前で挨拶をする施設もあるあるけれど、そういう演技ができる元気が職員にあるのも、パワハラ体質の施設を避けるためのポイントにはなると思っています」

この見極め方は福祉関係の職に就いていた頃、自身が受けた教育や経験を活かして編み出したものだ。

なお、福祉の職に携わった経験もあり、障害児の親でもあるまなさんには歯がゆく感じられる福祉制度や社会の体制が多くある。例えば、障害者グループホームの在り方だ。

障害者グループホームは障害者総合支援法に基づき、身体障害者、精神障害者、知的障害者が入所できるが、実際に働く中でまなさんは障害種別を分けることの必要性を痛感した。

「大声を出して動く知的障害者の方に対して、車椅子の方が脅威を感じることもありました。障害種別で住み分けることできれば、ケア内容が多様になりにくいので、施設の職員にかかる負担も軽減されやすいように感じます」

また、少しの工夫で当事者の生きづらさが軽減される身近な福祉もあるとまなさんは話す。例を挙げると、コロナ禍によって普及したお店のタッチパネル。全てひらがな表記もされると、様々な障害を持つ当事者は安心できる。

「自閉症の人は視覚優位の方も多いので、駅のホームに足跡のマークなどが描かれると待ち方を教えやすいです。これは、認知症の人にとっても役立つのではないかと思います」

自分の時間を楽しみつつ、我が子の障害や特性と向き合う日々

障害児を育てる親の中には、自分自身を労わる時間を割くことに罪悪感を抱いてしまう人も少なくない。だが、まなさんは上手く自分の時間を生み出しながら、ふみおくんの特性や障害と向き合っている。

「私自身、決して生きやすい人生ではなかった。結婚も遅く、息子は不妊治療を受けてようやく授かった子。一生懸命、掴んだ幸せです。その結果、生まれてきた障害のある息子を育てるのは親である私の責任だけれど、私も息子も一緒に楽しく笑える時間を築いていきたい」

だから、まなさんは自分と子どもの両方が笑顔になれる場所へ足を運び、楽しみ方を模索した。

「息子は電車が好きで、私はコーヒーが好き。だから、息子が電車を見て喜んでいる姿を見守りながらコーヒーを楽しむようになりました」

ふみおくんは、電話ボックスを3時間ほど開け閉めする時期もあった。そんな時、まなさんは様子を見守りながら、文庫本を読んだそう。車からなかなか降りてくれない時には急かさず、自身のふくらはぎをほぐす時間と捉え、待つ。

「自分が好きで息子が見ても喜びそうなYouTubeを一緒に楽しむこともあります。親子で楽しめるYouTuberさんには感謝のスパチャを投げています」

今の社会では知的障害がある人やその親に向けられる視線は、冷たいことも多い。その背景には知的障害を持つ人は癇癪を起こしたり、暴れたりするという暗黙の認知があるからだろう。

だが、知的障害を持つ人に現れる症状には個人差がある。ふみおくんの知的障害は徐々に重くなっており、今年の5月には最重度知的障害者という判定になった。嬉しくなると体をユラユラさせ、貧乏ゆすりで感情を表現するが、暴れることはない。

怒る時や恐怖を感じた時は、まなさんに強くしがみつく。そうした時、まなさんの腕にはアザができるが、その行動は信頼できる人にしかしない。ふみおくんなりの「助けて」という、この感情表現をまなさんは「信頼の証」だとも感じている。

ありのままの姿を受け入れる両親がいるからこそ、ふみおくんは自己肯定感高め。苦手なシャンプー時には、「俺がかわいいのは分かってるから、早くやるべきことを済ませようぜ!」とアピール。その姿に両親は、我が子の成長も感じている。

我が子は最推し――。そう笑うまなさんの笑顔がより増えるには、知的障害や自閉症を正しく理解する人が増えることが重要だ。自分が知らない世界に触れるだけでも、この社会は少しずつ丸く、優しくなっていく。

(まいどなニュース特約・古川 諭香)

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