NTTドコモやKDDIが相次いで新料金プランを発表し、6月から値上げを実施する。
ドコモは6月5日に「ドコモ MAX」と「ドコモ mini」、KDDIは6月3日に「auバリューリンクプラン」とUQ mobileの「コミコミプランバリュー」「トクトクプラン2」を導入。無制限プランに関しては、DAZNやPontaパスといったサービスをバンドルすることで料金を上げる。低容量プランは容量を上げ、割引条件を見直すことで値上げになるケースが増える。
大手2社が相次いで料金改定を打ち出す中、ソフトバンクは様子見のスタンスを貫く。楽天モバイルも、値上げの予定はないとしている。他社が料金を上げることは、ユーザー獲得のチャンスになる側面もあるからだ。大手キャリアが料金を上げることで、MVNOが活躍する余地も広がる。ドコモとKDDIが先陣を切った中、その他のキャリアやMVNOはどう動くのか。各社の方針をまとめた。
●迷うソフトバンク、背景にある好調な獲得とアップセル
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「今日現在は獲得が好調で、ARPU(1ユーザーあたりの平均収入)も下げ止まった状況。数が取れる方が、中長期目線で見ると収益性が高まるので、獲得競争にも負けたくない」――こう語るのは、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏だ。同氏は値上げに追随するのかを問われた際に、料金プランの値上げに対して迷いがあることを率直に明かした。
実際、電気代や人件費、建設費など、通信事業を維持するためのコストは上がっている。KDDIは値上げの背景として、こうしたコストの高騰を挙げ、パートナーに循環させていくことを強調した。宮川氏も「業界が未来永劫(えいごう)続くためには、インフレ率やデフレ率に合わせた構造でなければならない。取引先の従業員のことまで想像すると、値上げは正しいと思っている」と同調する。
一方で、「われわれは競争している」(同)というように、他社が値上げしたのであれば、料金据え置きのままでも新規ユーザーを獲得するチャンスが増える。宮川氏が値上げに慎重な姿勢を見せているのは、そのためだ。その背景には、ソフトバンクは官製値下げの影響を脱しており、コンシューマー向けのモバイル事業単体でも増収増益を果たしていることがある。
原動力になっているのが、同社が将棋になぞらえて「と金」と呼ぶ戦略だ。端的にいえば、「まずY!mobileというブランドで入口の間口を広げてお客さまにたくさん入っていただき、ペイトクのような世界にアップセルしていただく」(同)仕組みのこと。そのためには、Y!mobileでユーザーを獲得しつつ、ソフトバンクで決済サービスなどと連携した魅力的な料金プランを打ち出さなければならない。
この歯車がうまくかみ合ったソフトバンクは、スマホ契約者の純増数が2024年度は104万を記録。Y!mobileからソフトバンクへブランドを上げるユーザーが、ソフトバンクからY!mobileに移行するユーザーを上回った。料金値下げの影響を脱して、コンシューマー通信事業が再び軌道に乗り始めた中、その競争力を弱めてしまうリスクがある値上げに慎重になるのは理解できる。
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先に引用した宮川氏の発言が玉虫色だったこともあり、「値上げの検討」と捉えたメディアもあったが、同氏はソフトバンク、PayPay、三井住友フィナンシャルグループ、三井住友カードの提携を発表した場で、「今回の取り組みのような形で他の収益が強くなってくれば、値上げの話も1回はペンディングできる」とコメント。火消しとも取れる発言で、値上げに対して再度慎重な姿勢をのぞかせた。
●楽天モバイルも値上げ予定はなし、ユーザー獲得を重視か
もともとY!mobileは、突出した安さを追求していたわけでもない。サブブランドの主戦場ともいえる中容量帯では、「シンプル2 M」のデータ容量が6月から正式に30GBになる一方で、料金は割引なしだと4015円(税込み、以下同)かかる。この金額は割引がなく、音声通話が無料になるドコモのahamoやUQ mobileのコミコミプランバリューよりも高い。ソフトバンク光かSoftBank AirとPayPayカードがあれば2178円まで下がるが、音声通話に1回10分まで通話が無料になる「だれとでも定額+」をつけると、ahamoとほぼ横並びの3058円になる。
ahamoやコミコミプランバリューと同じく準音声通話定額が付く「シンプル2 L」は、データ容量が35GBで割引前が5115円、割引後が3278円。データ容量こそ多いが、割引後もahamoより高くなっている。いずれの料金プランも料金を抑えるには固定回線やホームルーターが必須。単体で契約しても安いahamoやコミコミプランバリューより、単身のユーザーを取り込みにくい。これらの料金を値上げして競争力が保てるかというと、そこには疑問符も付く。
同様に、楽天モバイルも代表取締役会長の三木谷氏浩史氏が、決算説明会の質問に答える形で「現段階で、大きな値上げは考えていない」と発言。現状の「Rakuten最強プラン」を維持していく方針を示した。楽天モバイルの料金は、20GB超で3278円、家族契約があれば3168円になり、他社と比べると安さが際立っている。サブブランド並みの料金で、無制限のデータ通信が使える。
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一方で、同社の契約者数は3月に863万に達したところで、大手3社とはまだまだ開きがある。この段階で、無理やり値上げしてしまうと、四半期で30万回線に達している純増数を止めてしまう恐れがある。特に、楽天モバイルのユーザーはコストに敏感。1GB以下0円を廃止した際には、純減に見舞われる事態にもなっただけに、値上げに慎重なのは無理もない。
その反面、ARPUは緩やかながら上昇しており、2025年の第1四半期(1月から3月)にはデータARPUが1737円まで伸びた。楽天モバイルの料金プランは段階制を採用しているため、メイン回線として同社を選び、よりデータ通信を使うユーザーが増えていることが分かる。純増を支えている上に、ARPUも上がっているとなれば、値上げする必要性は薄い。現在、急速に成長している点は、値上げに踏み切った2社との大きな違いといえる。
●虎視眈々とチャンスを狙うMVNO、ドコモとauの値上げでユーザーは動くか
ドコモがirumoを、UQ mobileがミニミニプランを廃止することで、脚光が当たりそうなのがMVNOだ。もともとMVNOは、小容量から中容量を主戦場にしており、サブブランドより料金は一段安いか、割引などの条件が少ない。例えば、最大手のIIJmioは「ギガプラン」の5GBが950円。家族割引を適用すると、さらに100円料金が下がる。光回線やクレジットカードは必要ない。
MVNO側も、これをチャンスと捉えていることがうかがえる。老舗MVNOの日本通信で代表取締役社長を務める福田尚久氏は、筆者のインタビュー(全文は後日掲載予定)に答える形で大手キャリアの料金値上げが「追い風になると思っている」と述べた。「料金だけでなく企業姿勢も含めて、MVNOに流れるお客さまが増えることはあっても減ることはない」とコメントしている。
大手キャリアとMVNOの価格差があるのはもちろん、料金が変わるという事実で市場が活性化する可能性もある。MVNOシェア2位のmineoを運営するオプテージのモバイル事業戦略部長 松田守弘氏は、調査会社MMD研究所が主催したイベントで、「料金を見直すときに、大手キャリアだけでなくMVNOも見てもらえれば、私たちも機会として捉えられる」とユーザーが動くことに期待を寄せる。
また、3月にメルカリモバイルでMVNOに参入したばかりのメルカリも、「よりポジショニングを取りやすくなったことは、チャンスであるとポジティブに捉えている」(Business and Marketing Director 永井美沙氏)という。3月に新規参入したメルカリモバイルだが、「今回出してみて分かったが、世間全体がより価格コンシャス、付加価値コンシャスになっている。2プランで出したが、やはり料金に対するコメントはすごく多い」(同)という。
一方で、イオンリテールのイオンモバイル商品グループ統括マネージャーの井原龍二氏は、「チャンスだと思ってはいるが、大手キャリアのユーザーは7割ぐらいの方が一度も(MNPで)乗り換えていない」とし、MVNOがユーザーの選択肢にすら挙がっていないことが課題だとした。「大手キャリアの値上げだけでMVNOに目が向くかというと、そうではない。別のアプローチで仕掛けなければいけない」というのが、井原氏の考えだ。
とはいえ、MVNOにとってチャンスであることに変わりはない。イオンモバイルでも、「店頭では(代理店として)大手キャリアを扱っているので、うまく値上げしたという告知をして横並びで販売していく」(同)という。このタイミングを生かし、大手キャリアから動かないユーザーの目をMVNOに向けさせるきっかけになるキャンペーンを展開するなど、注目を集めるための取り組みは必要になりそうだ。
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Xで不具合 データセンター障害(写真:ITmedia NEWS)18
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