プラクティスに乗りこむ準備をする琢磨 第109回インディアナポリス500マイルレースで予選2番手、フロントロウスタートを獲得した佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/以下RLL)は、レース当日まで俄然忙しいスケジュールに追われることになった。
チーム・ペンスキーのジョセフ・ニューガーデン、ウィル・パワーが車両違反で最後列に押しやられたとはいえ、48歳でスポット参戦の琢磨が、あとわずかでポールポジションのフロントロウに並んだことは大きなニュースとなった。また、ルーキードライバーで新チーム、プレマのロバート・シュワルツマンがポールポジションとなったことも、インディアナポリスの話題をさらった。
予選2日目終了直後から、琢磨は注目の的となった。およそ3週間前のクラッシュで、マシンを全損してしまったこともビハインドストーリーとして深掘りされ、チームメイトのグラハム・レイホールが予選で不振に陥ったことも、さらに琢磨が浮き立つ要因のひとつになった。
琢磨にスポットライトが当たってくれることは喜ばしいし、日本のファンにとってうれしいニュースなのは間違いない。だが、これまで書き続けて来たように、オープンテストのクラッシュからここまでの経緯は時間と闘いながら、琢磨とRLLのクルー、エンジニアが愚直に働き、マシンの速さを追い求めてきた結果だ。オープンテストでのクラッシュからカーブデイまで、決して順風満帆な3週間ではなかった。
グリッド最前列予選2番手という報われる結果を得た反面、注目度と忙しさは比例する。翌月曜日のプラクティスからTVスクリーンに映る時間は圧倒的に長くなり、メディアデイで琢磨に飛ぶ質問も多くなった。
月曜日のプラクティスはレースセッティングでの走行となり、それを3番手で終えて好調さを裏付けていたが、琢磨への注目度はさらに高まったと言えるだろう。しかし、琢磨は「予選の後に言ったように、決勝のセッティングは50点くらいだったのが、今日の走行で70点くらいにはなりました。残りのカーブデイの2時間でどこまで仕上げられるかですね」と、慎重に決勝へ向けた準備を進めていた。
金曜日のカーブデイは500マイルの決勝前最後の走行となる。相変わらず雨予報に翻弄されるインディアナポリスだが、この日は朝から青空が広がった。
琢磨は朝に行われたインディ500ウイナーのブルージャケット・プレゼンテーションでブリックヤードに並び写真に収まった。
インディ500勝者だけに与えられるブルーのジャケットを纏い、リック・メアーズ、エマーソン・フィッティパルディ、マリオ・アンドレッティ、ジョニー・ラザフォードら、インディ500のレジェンドたちと記念撮影に収まる姿は、唯一の日本人ドライバーとして誇らしく見えた。
午前11時に予定通りグリーンフラッグが振られると、琢磨の75号車はコースに出て行った。パック(集団)に入り、周回を重ねて、レースのスティントを想定した長いランが続いた。2度のピットインと、その度にニュータイヤを投入して、セッション半ばにはトップ10に入った。28周目には225.415mphをマークして、ペンスキーのニューガーデンに続いて2番手のタイムとなった。
セッションも残り15分となる頃、琢磨は最後のセッティング変更を試すべくコースに出たが、しばらくすると琢磨がスロー走行する姿が場内のスクリーンに大写しにされた。明らかにペースが落ちたカーナンバー75のマシンはピットロードに向かう途中で、ゆっくりと止まった。
これまでプラクティス中でもマイナートラブルはあったものの、マシンを止めなくてはいけないほどのトラブルはなかったが、最後の最後でマシンをピットに導くことはできなかった。
「ストレートですこし違和感があり、アクセルを戻してターン1を過ぎたのですが、少し踏み込むといきなり右に左にマシンが振られて、危うくウォールに当たるところでした。なんとか立て直して運良くマシンをとどめる事ができて良かったです。右側のドライブシャフトに問題が出て、左側だけで駆動しているような状態でした」と、トラブルの状況を話す琢磨。さらに、カーブデイの手応えと決勝への意気込みを続ける。
「それまでは順調でしたが、最後のセッティングの違いを試せなかったことと、ピットストップ練習ができなかったことは心残りです。マシンのフィーリングは良くなってきていましたが、ペンスキーやチップ・ガナッシのマシンと一緒に走っていないので、一緒に走って(ペースを)確認したかったですね。月曜日(時点での仕上がり)は70点と言いましたが、今日は80点に届くかどうかかな。ここまで来たので、レースでは試していないことはしないですし、気温や路面にうまく合わせられるかどうかですが、試したセッティングを良く分析して決勝のマシンをまとめていきたいと思います」
もし、ふたたびオープンテストの悪夢となっていたのなら、例えフロントロウに並んでいても、3度目の栄冠は遠のいていただろう。むしろ今日のトラブルはレース中に発生せず、プラクティス最後の日に出たことは幸いしたのではないか。そう思うと2025年の佐藤琢磨はついているように思うのだが、結果は500マイルを走った後にわかる。
[オートスポーツweb 2025年05月24日]