画像提供:マイナビニュースヤマハ発動機が開発中の汎用小型電動プラットフォーム「ディアパソン」。その試作1号機のメディア向け試乗会が6月5日、東京・江戸川区カヌースラロームセンターで行われた。
「ディアパソン C580」は、“働き続けたい方の小さな相棒”を掲げ、現在は主に農作業での使用を想定し、開発が進められている。試乗会と同日に行われた説明会では、ヤマハモーターP&D台湾の小屋孝男氏が同車体の仕様や用途について詳しく語った。
免許返納にも対応!農業で活躍する「ディアパソン C580」
ディアパソンとは、社内外の既存アセット(モーターやコントロールユニット、バッテリーなど)を最大限に活用した新たなプラットフォームだ。おもなポイントは「小型化」「循環」「拡張」の3点。
「小型化」については、取り回しの良さや利便性を徹底的に追求。軽トラックの荷台に積載可能なサイズ感を目指す。「循環」については、ディアパソンC580を農作業などのビジネス用途でリース展開、残価設定ののちに買い戻し、さらに改良を加えてセカンドマーケットに送り出すという仕組みを想定する。「拡張性」については、すでに農業機械メーカーや自動車部品メーカーなど、さまざまな企業との協業が進んでいるという。
C580のコンセプトは、「働き続けたい方の小さな相棒」だ。小型特殊自動車に分類されるこのモデルは、軽作業に必要な積載性能や不整地を走行できる走破性を実装。また、バッテリーはホンダが販売する電動バッテリー「Mobile Power Pack e:」を採用する。
「山間地の方はガソリンスタンドが減ってきていて、エネルギーの確保もかなり難しくなっています。そこで、家庭でも充電できる着脱式のバッテリーを採用しました」と小屋氏は言う。
デザイン面にも配慮し、「格好良く作業がしたい」という農家の人々のニーズにも対応するなど、世代や性別を問わず働く人に寄り添うスタイルを追求している。ターゲット層は「いつまでも働き続けたい人とその家族」で、将来的には農業に従事する可能性のある若者や、外国人研修生なども視野に入れている。
さらに、小屋氏は高齢者の運転免許返納問題にも言及。「普通免許を返納しても、小型特殊や原付免許は希望すれば残せます。免許を返納された方や、返納の対象になる方々の中にも、『ずっと働きたい』という思いはあります。でも、働くためには車に乗らないといけないし、働かないと生活ができないという方々も少なくありません。C580は安心して働いていただくうえで、免許返納も含めた障壁を下げていく選択肢のひとつになるんじゃないかと考えています」と語った。
実際に「ディアパソン C580」に乗ってみた!
こちらがディアパソン C580の試作1号機。この日は実際にコース上で試乗することができた。
あくまで試作1号機なので、乗り心地はまだ改善の余地がある。ステアリングは重く、サスペンションが硬いので地面の凹凸がほぼダイレクトに伝わってくる。ブレーキの効きもいまいちだ。当然、これらの欠点は発売前に改良・解消していくという。
その上で感じたのは、運転している“楽しさ”を感じられるということ。パイプフレーム構造で開放感は高く、視界もクリア。景色の移り変わりをダイナミックに堪能できる。感覚的には、バギーに近いかもしれない。
ただし、EV車なので驚くほど静か。畜産関係者にとって、牛などの家畜に余計なストレスをかけず作業できるという点で、この静音性はかなり恩恵があるらしい。小型特殊なので法定速度は時速15kmと縛りがあるが、農作業での使用なら十分だろう。ちなみに商品化にあたっては、高剛性・高強度・軽量化も同時に実現する予定だ。
インパネ周りは極めてシンプル。原付バイクを運転できるレベルであれば、操作に困ることなどはなさそうだ。
人に寄り添う次世代のワークモビリティへ
ディアパソン C580は内部構造にもこだわりが詰まっている。高効率の小型軽量モーターに加え、6軸のIMU(慣性計測装置)を搭載。これにより、車体の姿勢や動きを把握し、道路面との制御を的確に行うことが可能になる。
「現在、トラクターの事故は年間300件ほど発生しています。業界全体でロールバーやシートベルトなどの安全対策が進んでいますが、我々もこれに準じて独自の安全技術を導入していこうと考えています」(小屋氏)
さらに小屋氏は、「すでに多くの共創パートナーから、『この車両の特長を活かした新たな提案』をいただいています。さまざまなシーンを想定し、その活躍の場を求めていきたいと思います」と話した。
小さなEVが拓く、大きな未来。ディアパソン C580は、人に寄り添う次世代のワークモビリティとしての第一歩を踏み出すべく、今後さらなる改良を遂げていく。(猿川佑)