
確かな専門知識を持っているものの集団行動が苦手なAさんは、転職先の企業が推進している専門業務型の裁量労働制という働き方に大きな期待を寄せていました。その理由は、時間給の仕事とは違い、出社や退社の時間に縛られず、自分の集中できる時間帯に仕事を進められ、自分のペースで能力を最大限に発揮できる理想的な環境だと考えているからです。
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採用面接でも、その自由な働き方が魅力だと伝え、企業側もAさんの専門スキルを高く評価している様子でした。しかし入社初日からその期待は揺らぎ始めます。
Aさんに言い渡されたのは、毎朝9時きっかりに始まる「朝礼」への参加義務でした。内容は各部署からの簡単な業務報告と、その日の社内連絡事項の共有、そして社訓の唱和です。Aさんの業務は個人で完結するものが多く、朝礼で共有される情報が直接的に役立つことは少ないように感じられました。
そんなある時、電車の遅延で数分遅刻してしまったAさんに対し、上司は厳しい口調で注意をしました。裁量労働制にも関わらず、多少の時間のズレは許容してくれない会社に疑問を感じていたAさんは、ついに我慢できなくなり、上司に朝礼参加の必要性について尋ねました。
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すると上司は、「会社の決まりだから」「みんな参加しているだろう」と繰り返すばかりで、明確な業務上の理由は示しません。にもかかわらず朝礼への参加を強制するのは、問題ないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
裁量労働制だからといって時間的拘束がないわけではない
ー裁量労働制とはどのような働き方ですか
裁量労働制とは、実際の労働時間ではなく、あらかじめ労使で定めた時間を働いたものとみなして賃金を支払う制度です。業務の性質上、その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある特定の業務に適用されます。
主に専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があり、裁量労働制は「何時間働いても固定給」という単純な制度ではありません。あくまで「業務の進め方や時間配分を労働者の裁量に任せる」という点が重要です。
ー会社は朝礼への参加を義務付けたりできるのですか?
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業務遂行上、必要なものであれば可能です。裁量労働制であっても、労働者は会社の従業員であるため、チームで仕事を進める上で必要な情報共有や意思決定のための会議、あるいは業務上不可欠な連絡事項を伝えるための朝礼などへの参加を会社が指示することは、基本的には認められます。
「裁量労働制だから、一切の時間的拘束を受けない」というのは誤解です。誤解に基づいて参加を拒否していると、業務命令違反として懲戒処分の対象となる可能性もあります。
ー朝礼参加が必要だと判断される要件とは?
その朝礼の内容と目的が、業務を円滑に進める上で本当に必要不可欠かどうかによります。その朝礼がなければ業務の遂行に具体的な支障が生じる、あるいはチームとしての業務効率が著しく低下するといった合理的な理由があれば、参加義務を課すことも許容されると考えられます。
しかしその必要性が乏しいにも関わらず、形式的に参加を強制するような場合は、裁量労働制の趣旨に反すると判断される可能性も出てくるでしょう。
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裁量労働制は、適切に運用されれば労働者と企業双方にとってメリットのある制度ですが、その内容を正しく理解し、運用することが非常に重要です。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表 大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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