
昨年4月、3度目の結婚を発表した熊谷真実さんをはじめ、桃井かおりさん、阿川佐和子さんなど、50代や60代で結婚する有名人は少なくない。芸能界だから特別な話と思いきや、一般のシニアも同様にチャンスを迎えている。
「マッチングアプリの登場などに伴いシニアの婚活事情は様変わりしました。そして出会いの場が格段に広がったことにより、熟年結婚の増加につながっています。私自身も59歳で再婚した一人です」
こう語るのは、結婚相談所を運営して仲人を務め、ライターの顔も持つ鎌田れいさん。熟年結婚は初婚・再婚とあり、国立社会保障・人口問題研究所のデータでは近年その数値が共に倍増している。
年齢に関係なくパートナーを見つける時代
1980年と2023年を比較した場合、55〜59歳女性の初婚数は2倍、再婚数は5倍、60〜64歳女性の初婚数は3倍、再婚数は6倍と、再婚の伸びのほうが著しい。
「熟年結婚の理由はさまざまですが、老後生活に対する経済的な不安や、老いからの寂しさを挙げる声が多いように感じます。一方で熟年離婚も増えており、自立した女性の中で積極的に新たなパートナーを求めるケースがあります」(鎌田さん。以下同)
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鎌田さんの例をひもといてみよう。21歳のころから執筆活動を始め、仕事に熱中。36歳のときにお見合い婚し、40歳で双子の母に。が、1度目の結婚は22年後に終わりを迎える。その後、婚活パーティーで現在の夫と出会い、半年後に再婚を果たしたのだ。
「前夫との離婚原因はモラハラでした。怒り出すと罵詈雑言を浴びせられ、私の心がどんどん疲弊していって……。ただ子どもがいたため、すぐには離婚を決断できませんでした。学費を準備し、進学を待って踏み出したんです。
再婚したのは私が自営業で年金が心もとなく、一人で生きていくことに不安を覚えたから。何より長年家庭生活を送ってきたため、誰かそばにいてほしいという思いが強かったんです。再婚は大正解。今年で4年目になりますが、ケンカは一度もありません」
熟年結婚は現実重視!譲歩と妥協も重要
とはいえ、熟年結婚までの道のりは決して平たんなものではない。まず立ちはだかるのがシニア婚活の壁。
「婚活に条件はつきものですが、シニアの場合、相手に対するリクエストが多すぎると、結婚を遠ざけます。特に初婚者は、夢見がちな傾向が強い。
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『すごく優しかったけど、手が自分の好みじゃなかった』『服装は清潔感があったけど、耳毛が出ていた』など、小さなことにこだわる人が多い印象です。50代以降の婚活については、結婚の現実を知っている離婚経験者のほうが有利といえますね」
さらに、年金や相続、親の介護などの問題を頭に置いておかなければならない。
「夫と死別した女性の再婚では、あえて事実婚を選ぶ人もいます。入籍してしまうと、遺族年金の受給がストップするからです。ただ事実婚の場合、新しい夫の財産を受け継ぐ相続人にはなれません。そのため、遺言書を残しておいてもらう必要があります」
このように熟年だからこその心配もあるが、先の心配ばかりするのは禁物。
「結婚には決断と覚悟が必要です。年を重ねてからの結婚はなおさらですね。何が起こっても、この人と一緒にいれば解決できる─。そう思える相手かどうかで結婚後の明暗は分かれるでしょう」
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離婚の苦労を乗り越えて本当の幸せを手に入れる
では、熟年結婚の成功を引き寄せるにはどうしたらいいか。婚活場面から押さえるべきポイントを解説する。
「婚活ではフットワークの軽さが大事になります。シニアは総じて腰が重いだけに、積極的に行動できる人ほど優位に立てます」
肝心なのは相手の見極め。前述したとおり、リクエスト過多を避けなければならない。
「恋愛と婚活は違います。お付き合いを通じて相手を好きになり、結婚に発展していくのが恋愛。一方、婚活は最初から結婚を目的にするため、相手に対し条件をあれこれ並べがち。これをやめて広い目で臨み、好きな気持ちをゆっくり育んでいくことですね」
その際、お互いの価値観を尊重し合えるかどうかが重要になる。それが熟年者同士の結婚を判断する一番の決め手だからだ。
「50年以上生きていると、価値観や習慣など完全にできあがっています。お互いそれを相手に押し付け合っても、受け入れられませんよね。異なる考え方を尊重し合えるのが最良のパートナーであり、熟年結婚のベストな形。
例えば“再婚しても、まずはわが子がいちばん”。そんな譲れない気持ちを互いに尊重できるとうまくいくのでは」
人生100年時代といわれて久しいが、医療技術の進歩で寿命が延び、今や「人生120年時代」と称されている。老後はどんどん長くなっていく。
「日本の家庭では7割が仮面夫婦という話をよく聞きます。仲が悪いにもかかわらず、世間体や経済的不安などから表面的な夫婦関係を続けているわけです。私も経験者ですけど、仮面夫婦は非常につらい日々を過ごさなければなりません」
一方で現在は50代や60代でも、再婚の道が開けている。
「長い老後を漠然とつらいまま過ごすのか、一歩踏み出して本当の幸せをつかむのか。自らの決断によって、老後の人生を明るく変えられる時代が到来しているのです」
熟年結婚うまくいく人5か条
★フットワークが軽い
★こだわりがあまりない
★相手の価値観を尊重できる
★ある程度お金の管理に長けている
★離婚経験者
鎌田さんが実感!シニア婚の懸念
ケース1「婚活の壁」
マッチングアプリの登場などでチャンスは広がったが、シニア婚活が誰でも成就するわけではない。「相手に対するリクエストが多い」などは、結婚を遠ざけることになる場合も。
ケース2「年金、相続の問題」
遺族年金の受給は再婚したら打ち切られるなど、年金や相続の問題への対処は不可欠。子どもがいる場合、相続でもめないようにするには養子縁組しないことが望ましい。
ケース3「親の介護問題」
親の介護問題も懸念材料。相手の親が年老いていた場合、その負担を考えがち。だが、先の心配ばかりしていたら何も始まらない。「熟年結婚には決断と覚悟が必要」と鎌田さん。
シニア利用も多い!鎌田さんおすすめ婚活アプリ
「シニア層もマッチングアプリを利用する人が非常に増えています」と鎌田さん。結婚相談所は月会費などがかかるのに対し、マッチングアプリは女性は無料というケースが多い。「ただし、詐欺被害も報告されています。アプリの利用は十分注意を」
【Goens】50代、60代専門のマッチングアプリ。50歳以上のユーザーに限定しているのが特徴で、共通の価値観や趣味を持った人との出会いをサポートしてくれる。
【marrish】特に再婚者やシングルマザー・シングルファーザーに向けたサポートが充実。利用ユーザーの年齢層も幅広い。
【Pairs】幅広い年齢層の会員に人気があるマッチングアプリ。全国に多くの会員がいるため、地方在住の人もパートナーを見つけやすい。
鎌田れいさん●結婚相談所「最短結婚ナビ」を主宰し、仲人を務める。数多くのカップルを成婚へ導く。一方で婚活ライターとして各種メディアで活躍中。自身は熟年離婚と結婚を経験。双子の女の子の母。
取材・文/百瀬康司