Starlinkの衛星が漏らす電波、天文学者を妨害か 「電波望遠鏡による宇宙観測が困難に」

2

2025年06月13日 08:11  ITmedia NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia NEWS

写真

 オーストラリアのカーティン大学などに所属する研究者らが発表した論文「The Growing Impact of Unintended Starlink Broadband Emission on Radio Astronomy in the SKA-Low Frequency Range」は、地球の周りを回るStarlinkの衛星が、宇宙の謎を解き明かそうとする天文学者たちの観測を妨害している現状を主張した研究報告だ。


【その他の画像】


 Starlinkはイーロン・マスクが率いるSpaceXが運用する衛星インターネットサービスで、現在7000機以上の衛星が地球を周回している。これらの衛星から漏れ出る電波が、電波望遠鏡による宇宙観測を困難にしているという。


 オーストラリアの砂漠にある電波望遠鏡を使った最新の調査で、研究者たちは29日間にわたって空を観測し、7600万枚の全天画像を解析。結果、1806機のスターリンク衛星から予期しない電波(合計11万2534件の個別の放射)が出ていることを発見した。


 特に問題なのは、電波天文学専用に国際電気通信連合(ITU)によって保護されている周波数帯でも電波が検出されたことだ。電波望遠鏡は宇宙から届く極めて微弱な電波を捉えることで、星の誕生や銀河の進化、さらには宇宙初期の再電離期(宇宙で最初の天体の誕生後、天体が発する紫外線によって宇宙全体に広がっていた中性水素ガスが光電離された時期)の謎に迫ろうとしている。


 しかし、Starlink衛星から漏れる電波は、これらの微弱な宇宙からの信号をかき消してしまうほど強力。最悪の場合、観測画像の3割にStarlink衛星の電波が写り込んでいた。


 なぜ衛星から電波が漏れるのか。衛星から電波が漏れる原因について、論文では衛星内部の電気部品からの漏えいである可能性が高いとしている。


 さらに興味深い発見として、地上のFMラジオ放送(99.70 MHz)の電波が4機のStarlink衛星に反射して地上に戻ってくる現象も確認できた。


 現在のITUの電波規則では、このような意図しない電波放射は規制されていない。SpaceXは光学望遠鏡への影響については天文学者と協力して対策を進めているが、研究者らは電波天文学の分野でも同様の対話を継続することを望んでいる。


 Source and Image Credits: Grigg, Dylan, Steven Tingay, and Marcin Sokolowski. “The Growing Impact of Unintended Starlink Broadband Emission on Radio Astronomy in the SKA-Low Frequency Range.” arXiv preprint arXiv:2506.02831(2025).


 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2



ランキングIT・インターネット

前日のランキングへ

ニュース設定