「Galaxy S25 Edge」の薄型化は“逃げの進化”なのか? iPhoneに先手を打つサムスンの戦略と不安要素

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2025年06月14日 06:10  ITmedia Mobile

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2025年のGalaxy S25 Edgeは6.6型のディスプレイを採用。厚さ5.85mm、重量は163g。2億画素のカメラを備えるなど、フラグシップの一角を担う(画像はモック)

 近年、スマホの「薄さ」に特化した端末が注目を集めている。なぜ、今、このような新しいトレンドが生まれているのだろうか? そこでこの記事では、スマートフォンの薄型化が進む背景を探ってみたい。


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●薄型端末を可能にした折りたたみスマホと新しいバッテリー技術


 実のところ、スマホの薄型化は、10年ほど前にも見られたトレンドの再燃だといえる。その背景には、市場での差別化という側面もあるが、バッテリーの大容量化をはじめとする技術的な課題が克服できたことが大きく影響し、再び開発へとつながったと考えられる。これらの技術的課題を克服できた背景には、Samsung Electronics(サムスン電子)の「Galaxy Fold」をはじめとする折りたたみスマホの開発で培われた薄型化の技術が深く関わっている。


 実用的な折りたたみスマホは2019年のGalaxy Foldの登場以降、6年間で多くの製品が登場した。中でも薄型軽量化の分野は中国メーカーを中心に競争が激化し、近年では展開時の厚さが4.2mm台、重量が220g台の製品まで登場している。


 2024年にはHuaweiが3つ折りのスマホを発表した。こちらは最薄部3.6mmと驚異的な薄型化を実現。共通して従来のスマホのサイズ感や重量を目指し、折りたたみスマホは進化を続けている。


 折りたたみスマホがバッテリー容量を減らさずに薄型化できたのは、バッテリーの高密度化と急速充電技術の進化のおかげだ。


 高密度(エネルギー保存密度が高い)バッテリーを採用すれば、同じ容量でもバッテリーの薄型化や軽量化が可能となる。大容量化しても、従来より物理的な厚さや重量を抑えられるなど、バッテリーの進化はマイナスの面が少ない。


 現在の最新スマホには「シリコンカーボンバッテリー」と呼ばれる負極にシリコンを含有させた高密度バッテリーが採用されている。これはシリコンが現在主流のカーボン素材に対し、重量当たり11倍も多くのエネルギーを保持できることに着目したもの。カーボンにシリコンを安全な範囲でうまく配合することで、従来よりもバッテリーの高密度化(大容量化)が可能になった。


 大容量なバッテリーを実用的な時間で充電するために、急速充電技術も進化を遂げた。特に中国メーカーの上位機種では、軒並み60Wを超える出力での急速充電が当たり前となっている。バッテリーと急速充電技術はセットで進化しているのだ。


 つまり、大容量な高密度バッテリーと折りたたみスマホに使われた薄型化技術をそのまま普通のスマホに生かし、既存製品と差別化を図ったのがGalaxy S25 Edgeのような薄型スマホというわけだ。


●サムスンの薄型スマホは“逃げの進化”か、それとも持ちやすさへの挑戦か


 Galaxy S25 Edgeは従来のGalaxy Sシリーズと異なり、「薄さ」を前面に打ち出した端末。一方で、薄型化の代償か、バッテリー容量は3900mAhにとどまる。これは実働時間を削ってまで薄型化に極振りした構成であり、見方によっては薄型化は「逃げの進化」と捉えかねない。


 バッテリー容量の少なさは稼働時間にも直結する。Galaxy S25 Edgeの電池持ちは公称値で動画の連続再生時間が24時間としているが、これは1世代前の小型なGalaxy S24の28時間(Galaxy S25では29時間)よりも短く、Galaxy S25シリーズの中では最も短い。過去の機種と比較しても、Galaxy S25 Edgeは2年前の同サイズ機「Galaxy S23+」の27時間に劣り、3年前の「Galaxy S22+」の22時間を上回るくらいの電池持ちといったところ。


 自社製ディスプレイの発光効率のよさやソフトウェアの最適化で消費電力を抑えているとはいえ、Galaxy S25 Edgeの3900mAhの容量による電池持ちは、公称値でも3年前のスマホと大きく変わらない。公称スペックでこれだけの差があるようなら、客観的に見ても「Galaxy S25 Edgeは電池が持たない」と言わざるを得ない。


 薄型スマホはバッテリーが高密度化し、薄型化しても従来並みの容量、使用時間を確保できるからこその選択肢だ。10年前の薄型競争でなし得なかった「稼働時間の短さ」という課題を解決できたからこそ出すべき商品だと考える。


 スマートフォンの薄型化は、今後の新たなトレンドとなる可能性がある。しかし、2025年においては、単に「薄型化」したからといってバッテリー容量の少なさが許容されるわけではない。もし新時代の薄型スマートフォンとして手本を示すのであれば、薄型化を実現しつつも、6.6型サイズのGalaxy S25+と同等のバッテリー容量(4500mAh前後)を確保することが望ましいだろう。


 実際、薄型化と大容量バッテリーが両立できることは既に示されている。2025年3月にはTECNOが「SPARK Slim」というコンセプトをMWC Barcelonaで披露している。


 本機種は6.7型のディスプレイを採用しながら厚さ5.75mm、重量146gと軽量に仕上げた。加えて、薄型のボディーに5200mAhのバッテリーを搭載し、45Wの急速充電にも対応。薄型軽量化と大容量バッテリーを両立できることを世界に示した。


●サムスンが今、薄型スマホを出さなければならない理由とは


 サムスンが今、Galaxy S25 Edgeを発売する背景には、主に2つの理由があると考えられる。


 1つは市場における差別化だ。昨今のスマホはカメラ性能なども含めて進化の幅は鈍化傾向にあり、分野によってはサプライヤーのパーツ性能で頭打ちになりつつある。カメラ特化の機種も当たり前になる中、物理的な見た目の違い、薄さと軽さという要素で差別化を図ったのがGalaxy S25 Edgeとなる。


 もう1つは、うわさされている薄型iPhoneへの対抗措置だ。AppleがiPhoneの薄型モデルを出すというのなら、当然、サムスン電子も黙ってはいられない。Appleよりも先に薄型スマホを発売して先手を打つことが重要だと考える。


 特にiPhoneはiOSというApple独自のOSを採用しているため、薄型化によってバッテリー容量が少なくてもソフトウェアの最適化である程度補うことができる。販路も世界中となれば、サムスン電子にとって強力なライバルとなるはずだ。


 もちろん、対抗馬はiPhoneだけではない。技術投資が著しい中国メーカーも、そう遠くないうちに薄型スマートフォンを展開してくるだろう。特に、高密度バッテリーと急速充電技術を得意とする中国勢は、バッテリー容量や軽量化といったハードウェア面で、1年以内にGalaxy S25 Edgeを上回ると考えられる。


 そうした状況下では、Galaxy S25 Edgeが持つ「薄型」という優位性は、後発メーカーの動向次第でほとんど意味を成さなくなるだろう。iPhoneの先行を「追いかける」形では既に後れを取っており、中国メーカーにはわずか1〜2年でバッテリー容量やカメラ性能において差をつけられるのは明白だ。


 加えて、昨今のスマホユーザーは世界的にも「手になじむ」「持ちやすい」機種を求めている。これを受けてか、従来よりも軽量な機種や重量バランスなどに配慮した製品が登場している。


 日本でも、モバイル社会研究所が2023年に行った「新機種購入のきっかけ」という調査では、iPhone、Androidスマートフォンのユーザーともに、操作性(持ちやすさを含む)が上位に挙がっている。このことから、サムスン電子の薄型スマートフォンは、「大画面でありながら軽量」という、手に負担の少ない持ちやすい機種としてアピールされていくだろう。


 現在の市場ニーズを見れば、薄型スマホが大画面でも軽量で持ちやすい機種と評価され、市場に受け入れられる可能性は十分にある。だからこそ競合機種が出るまでに、発売しなければならないというサムスン電子の焦りも感じられる。


 サムスン電子はGalaxy S25 Edgeをこの時期に発売することで、先行逃げ切りと次回作までの時間稼ぎを行う必要があると考えたのだろう。


●実は薄型化では直近で1敗のサムスン 薄型スマホで起死回生を図れるか


 サムスン電子は、最近の薄型化競争において、折りたたみスマートフォンの分野で後れを取っている。特に、薄型軽量化とバッテリーの大容量化において、その傾向が見られる。Galaxy Foldを世界初の実用機種として投入したものの、後発の中国メーカーに対してハードウェア面で優位性を確立できていない状態が続いているのが現状だ。


 最新技術を盛り込んだ折りたたみスマホ「Galaxy Z Fold Special Edition」は大画面化した上で厚さ4.9mm、重量も236gと薄型化したものの、バッテリー容量は4400mAhに据え置かれた。これは2019年に販売された「Galaxy Fold」の4310mAhからほとんど変化していない。


 これに対して、中国メーカー各社は、折りたたみ時の厚さが4mm台前半、重さも軒並み220g台と、10g以上も軽量なモデルを展開している。しかもバッテリー容量は5000mAh以上が当たり前だ。カメラ性能やペン対応の面でも引けを取らず、折りたたみスマホにおける薄型化やバッテリーの大容量化という点で、サムスン電子は後れを取っている状況だ。まさに「既に1敗」といえるだろう。


 薄型スマホという新たな市場の確立で起死回生を図りたいサムスン電子だが、スマホ向けの高密度バッテリーという武器が弱い点が惜しい。同社はグループ内にバッテリー製造のSamsung SDIを抱えており、新技術への対応や設計自由度は他社製品よりも柔軟にできる利点を持つ。


 それでも高密度化、充電速度の高速化に慎重な姿勢を貫くのは、2016年の「Galaxy Note 7」の発火事故の影響と思われる。この事件が起きて以降、同社はバッテリーの大容量化、高密度化、急速充電技術の採用に慎重な姿勢を見せている。


 今回のGalaxy S25 Edgeは薄型化と引き換えにバッテリー容量を犠牲にしたスマホであり、薄型化を免罪符に「バッテリー容量の限界」を覆い隠している。その限界を「薄さ」や「デザイン性」でカバーし、発売を先行することで優位性を確保する。


 そうなると、折りたたみスマートフォンのハードウェアで中国メーカーに劣勢を強いられたときと同じ状況に陥るだろう。今のサムスン電子に求められているのは、薄型端末でも高密度かつ大容量のバッテリーを搭載して他社と競争するか、あるいは低消費電力のディスプレイやプロセッサを搭載することで、バッテリー容量が少ない分を補うかのどちらかしかない。


 特にパーツレベルでの最適化は自社で多くのコア部品を内製しているサムスン電子の得意技。バッテリー容量が少なくても他社といい勝負ができる稼働時間を実現できるかは大きな課題となりそうだ。


 Galaxy S25 Edgeは薄型化という分かりやすい変化の裏で、今のサムスン電子が直面する現実を映し出す存在なのかもしれない。薄型化は新たなトレンドを構築する起死回生の一手として吉と出るか、凶と出るか――これからも注視していきたい。


●著者プロフィール


佐藤颯


 生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。


 スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。


・X:https://twitter.com/Hayaponlog


・Webサイト:https://www.hayaponlog.site/



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