
ダイソーで売られている墨汁がアラビアの書家たちの間で愛用されているという衝撃の事実がSNS上で大きな注目を集めている。
「アラビア書道の展示で笑っちゃった。『ダイソーの墨汁』キャプションが良いw」
と国立民族学博物館の企画展「点と線の美学——アラビア書道の軌跡」の展示を紹介したのは紀泉さん(@Kisen_and)。
「エジプトの書家が愛用する墨汁。800円程度で売られている」と展示されているダイソーの墨汁。学校の授業などで使った記憶のある懐かしい横向きキャップのボトルだ。
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10 世紀のバグダードで体系化され、イスラーム建築の装飾やクルアーン写本などに用いられてきた伝統あるアラビア書道で、なぜダイソーの墨汁が使われるようになったのか?
紀泉さんにお話を聞いた。
ーー展示をご覧になった感想を。
紀泉:日本では100円ショップで簡単に手に入るような物が展示のガラスケースの中に並んでいるのがシュールで、物としての面白さもあるのですが、さらにそれがエジプトのアラビア書道家に愛用されていること、現地では日本円換算で800円の値段になること、端的なキャプションでありながら衝撃的な事実が並べられているのが大変面白いと思いました。周りにはインク壺なども並んでいたのでよりそのインパクトが大きかったです。
「これが揃えばアラビア書道を始められる」というセットの一部でもありましたので、アラビア書道を身近なものに感じてもらおうという学芸員さんの意図もあったのではないかと思います。物の選び方、キャプション、見せ方、全てがハマっていてつい笑っちゃいました。
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ーー「ダイソーの墨汁」という導入はたしかにセンスを感じますね。
紀泉:ほとんど使ったことがないので詳しく存じ上げませんが、今回の反響で色々と情報をいただけたので一度使ってみたいですね。アラビア書道で使う紙は叩いてツルツルにしているらしいので、その紙との相性とか墨色まで含めて確かめてみたいです。
ーー投稿に大きな反響がありました。
紀泉:国立民族学博物館さまや企画展名のタグなどをつけずに投稿してしまったのが悔やまれます。反応くださった方々の中には行かれた方もたくさんいらっしゃるのですが、まだ見に行かれていない方にはぜひ足を運んでみてほしいです。ずっと行きたいと思っていた展示で、その期待をさらに上回った素晴らしい企画展でした。その素晴らしさをぜひ現地で他の展示と合わせて楽しんでもらいたいです。
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国立民族学博物館グローバル現象研究部・准教授の相島葉月さんにもお話を聞いた。
ーーエジプトの書家がダイソーの墨汁を使用した経緯は?
相島:ダイソーの墨汁を使用し始めた経緯や具体的な時期は分かりません。エジプトにダイソーはありませんが、日本人や日本を訪れたエジプト人書家が墨汁をエジプトに持ち帰り、アラビア書道家コミュニティでシェアしています。本企画展にご協力頂いたAl Qalam Art Houseでは、300エジプトポンド(847円)でダイソーの墨汁が販売されています。
ーー日本の墨が遠くエジプトでも評価されているのは面白いですね。
相島:ポーランド出身エジプト在住のイザベラ・ウフマン氏はダイソーを含む日本の墨汁を複数使用しています。こちらの作品も展示中です。展示場で墨色の濃淡を見比べてください。
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SNSユーザー達から
「気が合いますね。私も同じところで写真を撮ってしまいました。葦ペンを削るのに使うのもオルファのカッター、というところもツボでした」
「ダイソーの110円墨汁でもエジプトで買うと800円くらいするのか…… 770円の開明墨汁だと5600円?」
「万博のイエメンのアラビア文字を描く方は、マッキーも使ってました。マッキーが油性ペンの最高峰なことが知られたかもしれません。」
「弘法、筆を選ばず エジプト書家、墨汁を選ばず」
「ダイソーでこれを開発した人は驚きですね。どちらかというと安いから人気がある商品が、海外では書家が愛用するという。エジプトにはダイソーがあるのだろうか」
「エジプトの書家が愛用する墨汁。だけで良いのに 800円程度で売られている。は笑わせにきてるw」
エジプトはじめ中東各国でも伝統的な墨産業は存在したが、20世紀後半に近代的なインクが普及したことで衰退。代わりに日本製の墨汁が利用されるようになったようだ。日本でも墨産業はけっして順調ではない。これからも世界に高品質な墨や墨汁を提供し続けられるよう願いたい。
国立民族学博物館 施設概要
所在地:大阪府吹田市千里万博公園10-1
みんぱく創設50周年記念企画展「点と線の美学――アラビア書道の軌跡」(6月17日まで開催)
中将タカノリ