
日本三古泉、日本三名泉に数えられ、豊臣秀吉も愛したとされる関西の奥座敷、有馬温泉。有馬温泉の名物といえば「炭酸せんべい」。有馬の井戸から湧き出る井戸水をつかったせんべいです。しかし、その昔、有馬の井戸から湧き出る「炭酸水」が毒水だと恐れられていたのをご存じですか!?今回は、そんな炭酸水をつかった明治時代生まれの有馬温泉名物「炭酸せんべい」の誕生秘話に迫ります。
【動画】有馬温泉「炭酸せんべい」誕生物語!絶品スイーツ&賞味期限5秒の煎餅?
毎日手焼きで2万枚、年間約700万枚を販売。炭酸せんべい発祥のお店である三津森本舗の4代目社長弓削次郎さんに「炭酸せんべい」の成功秘話についてうかがいました。
有馬温泉の「銀泉」は「毒水」と誤解されていたってホント!?
有馬温泉の泉質の1つ「銀泉」は炭酸を大量に含む温泉。その影響で井戸の水にも炭酸が含まれており、発生するガスで鳥や虫が大量に死んでいたため、「毒水」として恐れられていました。しかし、明治初期に国が改めて検査をした結果、有益な飲料水であることが判明。
炭酸水が体に良いとわかったことで、有馬の近くの宝塚ではこの炭酸水をイギリス人のウィルキンソンが飲料水として販売を開始、炭酸水の商品化が進められました。その成功を横目に見ていた三津森本舗の創業者、三津繁松たちは「有馬にはこんなに炭酸水がありふれている。何かできないのか?」と炭酸水を使った「有馬にしかできない商品づくり」を考えるようになりました。
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有馬に名物を!「炭酸せんべい」誕生のきっかけは⁉
当時、有馬の名物といえば、竹細工と松茸昆布、山椒など・・・炭酸水を活用した商品化は難しいと考えられていました。そのとき、三津繁松が目をつけたのが「吉高屋」が販売するせんべい。有馬には食べ物を売る店が少なく、唯一名の知れたお菓子が「吉高屋」の「よしよしせんべい」だったのです。
炭酸水をつかったせんべいなんて、本当にできるのか?と仲間に言われた三津繁松でしたが「とりあえず一回やってみよう」と仲間とともに商品開発にチャレンジすることに。
和菓子の知識は皆無の繁松たちは「吉高屋」のせんべいの材料である小麦粉や砂糖に炭酸水を加えて焼いてみることに。しかし、これが大失敗。炭酸水により膨張したせんべいは、分厚く膨れて固くなってしまい、とても食べられるものではありませんでした。そんな中、三津繁松は「このパリパリした食感はおもしろい」「薄かったら美味しくなるはず」と諦めません。炭酸の効果である、パリパリした食感を活かすために、できるだけ薄く焼くことを考えます。
食感が楽しめる薄さを求めて試作を重ねた末・・・直径9cm、厚さ1mm、パリパリ食感の「炭酸せんべい」にたどり着きました!こうして誕生したのが現在の「炭酸せんべい」です!
炭酸せんべいが「有馬名物」になった意外な理由は「〇〇食」⁉
最初は大阪の問屋さんを通じて販売していた「炭酸せんべい」。販売当初は有馬ではなく大阪で「美味しい」と評判になった「炭酸せんべい」ですが、明治後期に一躍有名になる出来事が起こります。
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その出来事とは…病院食になったこと!当時、有馬温泉の愛好家であり大阪の病院で院長をしていた緒方洪庵の次男である緒方惟準が、卵やバターなどが入っていない「炭酸せんべい」は、子どもからお年寄りまで食べられるため病院食にぴったりだと、大量に購入。理想的な病院食と言われた「炭酸せんべい」は次第に有名になっていったそうです。
こうして大正時代には有馬名物として定着し、現在不動の人気を博しています。
新型コロナによって新しいスイーツが誕生!
有馬の名物として不動の人気を獲得した「炭酸せんべい」ですが、2019年から全世界を襲った「新型コロナウイルス」による外出自粛により有馬温泉の客足も途絶え、ネット販売に注力するも売上は激減。そんな時「三津森本舗」の4代目、弓削次郎さんはSNSである写真を見つけます。
その写真とは…炭酸せんべいを使ったパフェの写真。知り合いの主婦が次郎から購入した「炭酸せんべい」を使ってアレンジスイーツを作っていたのです。その主婦から「炭酸せんべいはシンプルだからいろいろなアレンジができる」というアドバイスをもらい、コロナ禍が明けたら「炭酸せんべい」のアレンジメニューを提供する店の出店を決意。
2021年、女性従業員たちがアイデアを出し合い、スイーツを主力とした「MITSUMORI CAFE」が誕生。フレンチトーストやティラミスなど、「炭酸せんべい」のアレンジスイーツが若者層に響き、大人気店となりました。
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賞味期限5秒⁉︎4時間で1600枚売れる「なま炭酸せんべい」も大人気に!
有馬温泉のメインストリート、太閤通りで人気なのが「湯の花堂本舗」。固まる前の柔らかい状態を食べることができる「なま炭酸せんべい」の実演販売がSNS中心に話題になりました。
1950年創業の「湯の花堂本舗」も「三津森本舗」とともに有馬の人気店です。お話をお伺いしたのは4代目社長である覚前正子さん。3代目の夫、政幸さんの元へ嫁いできた正子さんは長らく政幸さんを支えてきましたが、2010年に政幸さんが他界し「湯の花堂本舗」を継ぐことになりました。
現在、有馬温泉で広く販売されている「炭酸せんべい」は機械を使って大量に焼き上げられていますが、元来は鉄製の焼き型を使って職人が一枚ずつ焼いて作られていました。一枚焼きのほうがパリッと仕上がることから、正子さんの亡き夫も手焼きを復活させたいと考えていましたが、技術継承はかないませんでした。
しかし、引退した職人がまだ有馬にいたため、入社4年目の従業員を技術継承者に抜擢。職人から手焼きのノウハウを受け継ぎ、一枚焼きを復活させたのです。
そんなある日、正子さんは「炭酸せんべい」の焼き上がりが“やわらかくて美味しいこと”に気づきます。そこで…一枚焼きの利点を活かし、他にはない食感の「焼きたて炭酸せんべい」を売ることに!しかし、「手焼き」「焼きたて」という特別感が客に伝わらないために当初は思ったように売れませんでした。さらには、焼き型を温めるため、客の有無にかかわらず火の温度が必要だったため、せんべいが大量にあまり赤字になってしまうという事態も発生。
もっと特別感が伝わるにはどうすればよいのか悩んでいた時に、「生◯◯」というキャッチフレーズがヒット商品に多いことを発見。さらに「炭酸せんべいが固まる時間」=5秒だったことから、「賞味期限5秒のなま炭酸せんべい」と銘打ち販売したところ…その場ですぐに熱々のせんべいを食べるというアトラクション要素も相まり、今では1日4時間の限定販売で1600枚売れる大ヒット商品に!
他にも、現在は焼きたての炭酸せんべいに生チョコレートをディップした「炭酸せんべいチョコレートフォンデュ風」もここでしか味わえないと大人気に。伝統と進化が共存する「炭酸せんべい」。有馬温泉を訪れた際には、ぜひ両方味わってみてください。
番組情報
〇番組名
日経スペシャル もしものマネー道もしマネ
〇内容
『もしもの時』に備えるマネー道!マネー活用バラエティ!
〇放送日時
テレビ大阪 第1〜3日曜日 午後2時放送!放送終了後はYouTubeチャンネル、TVerで無料見逃し配信中。