
FIFAクラブワールドカップ プレビュー
6月15日(日本時間)よりスタートする新方式のFIFAクラブワールドカップ。32チームがアメリカに集まり、クラブ世界一を争う。従来から出場チームが大幅に増え、どのような大会になるのか。ここでは3人の識者に「オススメの3チーム」を挙げてもらった。
【優勝候補最右翼はパリ・サンジェルマン】
中山 淳(サッカージャーナリスト)
<オススメ3チーム>
パリ・サンジェルマン(フランス)
レアル・マドリード(スペイン)
フルミネンセ(ブラジル)
今大会の優勝候補最右翼と目される現ヨーロッパチャンピオンのパリ・サンジェルマンが、その勢いのまま世界の頂点に立つことができるか。それが、今回のクラブワールドカップで最も注目したいポイントになる。
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ルイス・エンリケ監督が浸透させた攻撃サッカーは、間違いなく現在世界トップと言えるレベルで、選手個々のクオリティーはもちろん、全員がチームのために走れるという強みもある。特にヴィティーニャ、ファビアン・ルイス、ジョアン・ネベスという中盤トリオの流動性のあるコンビネーションプレーは注目で、前線のウスマン・デンベレ、デジレ・ドゥエ、フビチャ・クヴァラツヘリア、あるいはブラッドリー・バルコラといったドリブルを武器とする点取り屋からも目が離せない。
チャンピオンズリーグで証明したように、おそらくサッカーのクオリティーでは出場チームのなかで最も高いと思われるが、問題はオフが短いということ。初優勝を飾れるかどうかは、どこまでコンディションを回復できるかにかかっている。
シャビ・アロンソが新監督に就任したレアル・マドリードも、見逃せないチームだ。さっそく大会前にはトレント・アレクサンダー=アーノルドとディーン・ハイセンのふたりを獲得。DFラインに新戦力を迎え入れ、さっそく今大会からプレーする予定となっている。
最大の見どころは、レバークーゼン時代にチーム戦術をしっかり落とし込んでいたシャビ・アロンソ監督が、世界有数のタレント軍団をどのようなチームに変えていくのかという点。傑出した個のプレーのみならず、新生マドリーのチーム戦術は要注目だ。
もうひとつ、ブラジルの名門フルミネンセにも注目したい。チームには、2020年から2022年まで鹿島アントラーズでプレーし、加入初年度には18得点を記録したエヴェラウドがいるほか、元ブラジル代表センターバックのチアゴ・シウバも健在なので、日本のサッカーファンにとっても観戦しがいがあるはず。
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しかも、今年4月からチームを率いるのは、1980年代に活躍した往年の名手レナト・ガウショ。1983年に来日したグレミオではトヨタカップ優勝の原動力となり、日本のオールドファンにとってはお馴染みの人物だ。ドルトムントと同居するグループFで旋風を巻き起こせるか、楽しみにしたい。
【シティでラヤン・シェルキは化けるか】
西部謙司(サッカーライター)
<オススメ3チーム>
パリ・サンジェルマン(フランス)
レアル・マドリード(スペイン)
マンチェスター・シティ(イングランド)
ベタだけれども最注目はパリ・サンジェルマン。国内リーグ、カップ、チャンピオンズリーグを制しての三冠にクラブワールドカップを加えることができるか。ヴィティーニャ、ヌーノ・メンデス、ゴンサロ・ラモスはポルトガル代表でネーションズリーグも優勝しているので、個人としては五冠になる。下馬評では優勝候補筆頭、シーズン後半の勢いを維持できれば確かに優勝に最も近いチームだろう。
シャビ・アロンソ新監督のレアル・マドリードも楽しみだ。キリアン・エムバペとヴィニシウス・ジュニオールの少なくともどちらかを守らせないと、おそらくチームとしての進化はない。カルロ・アンチェロッティ前監督でもできなかった課題を克服できるかどうかに注目したい。
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レアル・マドリードは戦術家の監督でことごとく失敗してきているので、期待と不安が半々というのが正直なところだが、成功すれば当代一の名監督の地位を確立できる。
マンチェスター・シティ、というより移籍したラヤン・シェルキ(フランス)は是非注目してほしい選手だ。ネーションズリーグ準決勝スペイン戦、交代出場してからの約30分間で1ゴール2アシストと、3得点を生み出す圧巻の代表デビューだった。
完全な両足利き。一応右利きらしいのだが、ドリブルは左足でのタッチが多い。キックは両方使えるのでよくわからない。今どき珍しい、テクニックに特化したアタッカーである。アントワーヌ・グリーズマンが代表引退したので、マイケル・オリーセとトップ下のポジションを争っているが、独特な異物感はジネディーヌ・ジダン以来の衝撃である。
シティではケビン・デ・ブライネの後釜という位置づけだと思う。フィジカルモンスターのアーリング・ハーランドとの相性がどうなるか。ジャンルは違うが怪物的な感じはよく似ている。このふたりの相性は来季のシティを左右しそうだ。シェルキはさして速くもないし運動量も多くない。ジョゼップ・グアルディオラ監督の下で化けるのか、それとも干されてしまうのか。そのあたりも気になる。
【10代の選手に注目したい】
井川洋一(サッカーライター)
<オススメ3チーム>
パルメイラス(ブラジル)
リーベル・プレート(アルゼンチン)
ドルトムント(ドイツ)
もうすぐ始まる新装されたクラブワールドカップは、世界の6つの連盟を代表する32クラブが一堂に集う初の大会だ。とはいえ、これほどまでに情報が共有されている時代に、各地域の特色が顕著に現われるかどうかはわからない。よって筆者は近年のトップレベルを賑わす10代の選手――2年前のEUROではスペインのラミン・ヤマル、今季のチャンピオンズリーグではパリ・サンジェルマンのデジレ・ドゥエが大活躍した――に、この大会でも注目したいと思う(チャンピオンズリーグ決勝で最優秀選手に輝いたドゥエはその3日後に20歳に)。
まずはパルメイラスに所属する18歳の天才ドリブラー、エステバンだ。10歳の時に同国のフットボーラー史上最年少で『ナイキ』と契約した神童は、そのまま期待どおりに成長し、2020〜21年にコパ・リバルタドーレスを連覇したクラブで昨年に本格デビュー。いきなりチームのブラジル選手権2位フィニッシュに貢献し、『プラカール』誌からリーグ最優秀選手に選出された。昨年9月にはセレソンにもデビューし、すでに5キャップを積んでいる。
痩身ながらブレない軸を持ち、独特の間合いから易々と相手の逆を取る左利きのアタッカーは、チェルシーから推定総額5700万ユーロ(約95億円)の移籍金で引き抜かれ、新シーズンはロンドンのブルーズでプレーすることが決定。最後に母国のサポーターにいい置き土産を残せるよう、胸に期するものがあるはずだ。
リーベル・プレートの17歳の攻撃的MFフランコ・マスタントゥオーノも、来季からの契約で欧州のトップクラブ――レアル・マドリード――に引き抜かれると噂の超逸材だ。こちらも早熟のレフティーだが、最大の武器はこの年齢からは想像もつかないパワフルで高精度のキックにある。
右サイドからのカットインから放つシュートも豪快ながら、4月に行なわれたボカ・ジュニアーズとの"スーペルクラシコ"では、ゴールまでおよそ30メートルの位置から直接FKを右のトップコーナーに沈めて先制点を奪い、2−1の勝利に貢献している。そして6月5日のチリ戦で代表デビューを飾り、公式戦におけるアルゼンチン代表史上最年少出場選手となった。グループステージでは浦和レッズを相手に、どんなプレーを見せるだろうか。
開幕前に設けられた移籍期間に、ドルトムントに加入したジョーブ・ベリンガムも19歳のMFだ。レアル・マドリードに所属する実兄のジュードと同じく、若手を重用するドイツの名門を次のステップに選んだイングランドU−21代表は、終わったばかりのシーズンに、サンダーランドのプレミアリーグ昇格に主力として貢献。新天地で早速、世界を驚かせることになるか。
マルチクラブ・オーナーシップのペナルティーにより、出場権を剥奪されたメキシコのレオンの代わりに、プレーオフを制して滑り込みで参戦を決めたロサンゼルスFCのダビド・マルティネスも、19歳のアタッカーだ。アメリカのドナルド・トランプ大統領が発した入国制限の12カ国のなかに、彼の母国ベネズエラも含まれており、当初は出場が危惧されていたが、今大会に出場する代表チームの選手とスタッフには特例が認められたため、出場できる見通しだ。