『あんぱん』25歳俳優の“悲しくて悔しすぎるセリフ”に震える。優しさを利用する、戦争の恐ろしさ

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2025年06月14日 09:00  女子SPA!

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画像:中沢元紀 Instagramより
 今田美桜が主演を務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・毎週月〜土あさ8時〜ほか)。6月9日から始まった第11週「軍隊は大きらい、だけど」が終わり、16日からは第12週「逆転しない正義」が始まる。

 第11週では、小倉連隊に配置換えされた嵩(北村匠海)が先輩隊員から理不尽な暴力を振るわれる日々を送るものの、幹部候補生の試験を受け乙種に合格したことをきっかけに先輩隊員たちと和解。隊員間の絆が深まった中、13日に放送された第55回ではついに戦地の中国に上陸することとなる。

◆激高する兄を前に、戦う覚悟を語る千尋

 ここ最近の『あんぱん』では毎週のことではあるが、第11週も怒涛の展開の連続だった。中でも記憶に強く刻まれたのは、嵩が弟の千尋(中沢元紀)と久しぶりの再会を果たした第54回だ。困っている人を助けるため、法の道を目指すことを決意し、京都帝国大学に進学したものの、現在は海軍士官となっていた千尋。“お国の命令”ではなく、自ら志願して軍人になったと話す千尋に、嵩は怒りをにじませる。

 しかし千尋は、海軍に志願する学友たちが作る“空気”から逃れられず、海軍予備学生になったことを説明。続けて、駆逐艦に乗り、敵の潜水艦のスクリュー音を探知して爆雷を投下する任務に就いたという。嵩は「弱い者の声を聞いて、救うために、法科に行ったんだろ」と激高するが、千尋は「行き先は南方や。もう後戻りはできん」と5日後に佐世保から駆逐艦に乗艦することを淡々と伝える。

 そして、「わしはこの国の美しい海や山や川を守るために戦う。伯母さんやおしんちゃんを守るため、それからわしを産んでくれたあの母さんを守るため、のぶさんや国民学校の子どもらあを守るため、立派に戦う。そのためやったら命らあおしゅうない」と語気を強めた。

◆千尋が海軍への道を進んだことの“納得感”

 優しかった千尋がすっかり“立派な姿”になったことに困惑したが、それと同時に千尋が海軍に入った理由が実に“千尋らしい”と妙に納得感を覚えた回だった。

 千尋はしっかり者ではあるが、人のために自分を犠牲にする危うさがある。嵩と千尋の“育ての親”、寛(竹野内豊)の急逝に伴い、寛が営んできた「柳井医院」を閉めることになる。しかし、寛の妻・千代子(戸田菜穂)が柳井医院を残したそうにしていることを察し、法律ではなく医療の勉強をしているシーンがあった。

 幼少期の千尋(平山正剛)は身体が弱く、周囲の助けを借りながら成長してきた過去を持つ。だからこそ「迷惑をかけてきた」という意識、もとい罪悪感が強く、自分のことは二の次にしてでも周囲の期待に応えようとする性格だったように思う。戦時中特有の高揚した空気も相まって、“学友たちが求める千尋”を演じた結果、海軍の道に進んだのだろう。

◆「この戦争がなかったら」愛する人のために生きたい!

 第54回では、これまで本心を表に出してこなかった千尋が「わしは生きて帰れたら、もう誰にも遠慮はせん。今度こそのぶさんをつかまえる」と、嵩に遠慮してアプローチできないでいた幼馴染・のぶ(今田美桜)に思いを伝えると宣言。

 さらには、「この戦争がなかったら、わしはもっと法学の道を極めて、腹を空かせた子どもらや、虐げられた女性らを救いたかった」「この戦争がなかったら、いっぺんも優しい言葉を掛けちゃれんかった母さんに親孝行したかった」「この戦争がなかったら、兄貴ともっと何べんも、酒を飲んで語り合いたかった」と自身のやりたかったことを並べる。そして、「この戦争さえなかったら、愛する国のために死ぬより、わしは愛する人のために生きたい!」と叫んだ。

 千尋が自身の望むことをここまで解放したシーンはない。ようやく自分のやりたいことに正面から向き合えたのだ。だからこそ、そんな千尋の思いを踏みつぶす戦争が本当に憎い。加えて、「自分のため」に「人のため」に生きたいと願うその利他的な性格を、戦争によって「お国のため」に利用されてしまうことが心底悲しく、悔しい。

 戦後に制定された日本国憲法では国民主権が掲げられているが、戦前から戦時中の日本は「天皇主権」という体制のもとで、「お国のため」に人生を全うすることが正解とされていた。そんな、当時の“当たり前”に恐ろしさも覚える。

◆これから起こる悲劇を思う

 悲しさや憤りばかりではなく、第54回にはほっこりする部分もあった。先述した通り、千尋は誰かのために動いてきた優しい人だ。そのため、本音を打ち明けることは難しい性格である。そんな千尋が嵩の前では、自分の本音を吐き出しており、千尋がどれだけ嵩を信頼しているのかがうかがえて頬が緩んだ。

 とはいえ、2人の絆の深さを感じれば感じるほど、これから“悲劇”が起こった時の精神的ダメージは計り知れない。ただ、それが戦争である。嵩や千尋の“立派で、勇敢で、漢らしい”姿を見て、戦争がいかに悲しみしか生まない行いなのかを直視したい。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki

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  • ワシの婆さんの兄弟は海軍で南方戦線で戦死している人ばかりなんだが、「海軍は頭良くてイケメン」と陸軍生き残りのジジイに言ったら、キレられたw
    • イイネ!3
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