映画祭で受賞し、その前後にタイミングよく国内で劇場公開できれば、受賞効果がプラスされて動員増が期待でき、興行にとってベストですが、そのような作品は限られます。先読みして公開時期を決めていてもノミネートされるか、受賞するかは分かりません。
また、洋画は日本語の字幕を付けなければなりません。子ども向け、ファミリー向けのメジャー作品であれば日本語吹替版も制作し、両バージョンを同時公開する作品も増えましたが、インディ配給の作品は字幕版での上映が主流です。
買付けたり、製作した映画は年間にどのように公開(ブッキング)されるのでしょうか。大手映画会社の撮影所システムが機能し、ブロック・ブッキングがあった時代は、決められた上映期間で上映されていました。
しかし、シネコン(複合映画館)が普及すると、上映期間を決めずに上映するシステム、フリー・ブッキングが主流になります。洋画メジャー、インディ系の配給会社の作品は主にフリー・ブッキングで決められています。
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とはいえ、松竹(松竹マルチプレックスシアターズ)、東宝(TOHOシネマズ)、東映(ティ・ジョイ)は、今でも関連の興行会社(グループ会社)のシネコンでブロック・ブッキングに近いシステムで年間の作品を編成しています。スクリーンが10スクリーン前後あるシネコンでは、ある程度決めていた公開期間が終了しても、ヒットしていれば引き続き公開館数や上映スクリーンを変えながら自社製作・配給の作品を上映し続けることが可能です。
これは洋画でもヒットすれば同じですが、最初に800スクリーン近くでブッキングした期待の高い大作でも、公開最初の週末3日間の成績が振るわなければ、翌週から公開館数を減らされ、席数の少ないスクリーンへ変えられてしまいます。通常のメジャー作品は平均300〜500スクリーンで公開されますので、800スクリーンでの公開は超大作、もしくは配給会社にとっての勝負作と言えます。
柔軟に編成できることがシネコンのメリットですが、インディの配給会社からすると時間をかけて動員を増やしていくような作品にとっては、口コミなどで観客に評判が広がる前に打ち切られてしまうというデメリットにもなっています。
よく例えられるのは、コンビニの商品棚。人気のある商品は目立つ所に長期にわたって陳列されますが、売れない商品はすぐに棚から撤去されたり、目立たないところへ追いやられることと似ています。映画が“商品”として扱われるようなシステムについては、業界内や映画ファンの間でも賛否あります。
ゆえに作品にあった公開時期と館数をいかに確保するかが重要になってきます。より多くの来客が期待される時期、春休み、ゴールデンウイーク、夏休み、シルバーウイーク、冬休み、お正月など、各社はこの時期に大作、期待作をブッキングしようとします。
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しかし、それだけ競合作品が集中するわけですから、館数確保とともに、観客の奪い合いが起こるわけです。各種データを平均すると、日本人が1年間に映画館で映画を鑑賞する本数は平均で1.2本から1.7本となっています。
もちろん年齢層などによって異なり、映画好きのヘビー層(月1本以上映画館で映画鑑賞する人)は年12本、ミドル層(2〜3カ月に1本程度映画館で映画鑑賞する人)は年5本、ライト層(年に1〜2本程度映画館で映画鑑賞する人)は年1.4本程度という調査数字もありますが、ヘビー層でも平均月1本と考えると、いかに映画館で鑑賞する優先順位の上位作品となれるかが重要となります。
であるならば、あえてかき入れ時期を避けて公開するという考えにもなりますが、この判断にまさに配給会社の戦略が問われるわけです。例えば、かき入れ時期でないので競合が少なく、通常ならば100館規模で公開の作品であるのに200館確保できたとします。
ヒットすればしてやったりですが、100館だったら各館満席状態であったのに、倍にしたことで劇場によっては空席が目立ち、それが作品の興行的印象を下げてしまう(当たっていないように見えてしまう)ことがあります。
逆に100館規模で公開すべき作品なのに、満席感を演出しようとして50館で公開したところ、案の定、各上映館から観客があふれてしまい、他の作品に流れたり、早急に拡大館を確保できずに興行機会の損失を生んだりすることもありますので、そこの見極めが配給会社の手腕、興行会社(映画館)との駆け引きとなります。
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ここまでシネコンで公開することを例に解説してきましたが、作品によってはもちろん、公開初週の成績にすぐに左右されないミニシアター(1〜3スクリーンの単館劇場)でじっくりと“作品”として公開すべきであるわけです。
しかし、都内のミニシアターは1スクリーンあたり約50席から350席です。1日4回〜5回上映して週末3日間、すべて満席になったとしても興行成績は限られます。アート系の作品も昨今はシネコンでも多く上映されるようになりましたので、インディの配給会社からすると立地のいい、大きなスクリーンのシネコンで上映できるのであれば、そちらを選択することも理解できます。
なぜならコロナ禍前からミニシアターの運営は厳しい状況が続いているからです。要因としては、アート系の洋画の興行力がそもそも落ちたこと、平日の興行を支えていた高齢者層がコロナ禍以降映画館に戻ってきていないこと、ここでしか上映していない映画を鑑賞する価値が若者を中心に低下したことなど、いくつかの要因が挙げられます。
※この記事は『映画ビジネス』(和田隆/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。
(和田隆、映画ジャーナリスト、プロデューサー)
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