※画像はイメージです ITテクノロジーの発展により、人と人とのコミュニケーションスタイルは変化し、それに伴って人間関係は希薄になりつつあり、リアルで人と接することがより貴重な機会となっています。
今回取材した男性は、久々の出勤でバスを利用した際に、隣に居合わせたお婆さんとひょんなことから会話がはずみ、一期一会を楽しみました。ただ、その出会いの先にとんでもない展開があったようです。
◆自分をジロジロ見るお婆さん
システムエンジニアの横尾さん(仮名・29歳)は、コロナ禍以降、自宅からのリモート勤務が増えたといいます。今では、たまに開催される部署内ミーティングのために出社すること自体がちょっとした息抜きにもなっているそうです。そんなある日のことーー。
「最初の頃は、服装も自由だし、好きな時間にご飯も食べられるのでリモート勤務にとてもありがたみを感じていたのですが、それが定着してしまうと、今度は何か物足らないように感じるようになりました。
だから、たまの出社では帰りに街に寄れるので気分転換にも最適でした。ただ、7月ともなれば外気は相当暑くなり、帰る頃にはエアコンの効いた自宅での作業が恋しくなります」
そんな横尾さんは、帰りに乗車したバスの隣に座っていたお婆さんから強い視線を感じたそうです。そのジロジロ見る視線の先には、先日通販で購入したハンディ扇風機がありました。
◆「それは何をするものですか?」
その日も真夏並みの暑さになっていた都内。もともと汗っかきな体質もあり、吹き出る汗をハンドタオルで拭きながら右手に持ったハンディ扇風機で風を当てていると、「それは何をするものですか?」とお婆さんは横尾さんに尋ねてきたそうです。
「最初は何を指しているのかわからなかったのですが、どうやら私が手に持っているハンディ扇風機に興味を示したようです。『小型の扇風機ですよ』と優しく答えると、お婆さんは目を大きく見開きながらとても感動しているようでした」
横尾さんは、田舎の祖母を思い出し、懐かしむ気持ちで会話を楽しんだといいます。
◆嬉しくなりプレゼントすることに
お婆さんとの久々の人とのコミュニケーションに感動した横尾さんは、そのハンディ扇風機をプレゼントしようと決めたそうです。
「あまりにも感動していたので、たかが数千円の商品だしプレゼントしようと決めました。住所さえ教えてもらえれば、簡単に送付先を指定できる便利な世の中ですしね。
私はお婆さんに『ご住所を教えていただければ、これと同じ商品をお届けしますよ』と言うと、最初はとても不思議そうに私の顔を見つめていたのですが、しばらくして送付先を教えてくれました」
横尾さんは、帰宅すると真っ先にハンディ扇風機を注文し、お婆さんに教えてもらった住所に送る手配をしたといいます。
◆数日後にかかってきた怒りの電話
ところが、それから数日後、いつものようにリモートで仕事をしている横尾さんの携帯に、見覚えのある電話番号からの着信があったそうです。
「固定電話からの電話番号で着信がありました。友人や同僚は皆携帯番号なので最初は見当がつかなかったのですが、見覚えのあるその電話番号がお婆さんの自宅からだと分かり、電話に出ました。
すると『あんたか?母親に商品を送りつけてきたのは。これ、今流行りの送りつけ詐欺だろ!年寄りだと思って舐めやがって!』と、ものすごい剣幕で怒鳴られ、一方的に電話を切られてしまいました」
電話をかけてきたのはお婆さんの息子とのことで、横尾さんは、いわゆる“送りつけ詐欺”と誤解されてしまったのです。
「あの日、バスを降りる際に『もし何かあればこちらに電話してください』と言って、メモ用紙に名前と電話番号を書いて渡したんです。たぶんそれを見て連絡してきたのでしょう。たしかに、突然知らない人から荷物が届けば不安にもなります。でも、私は善意のつもりだったので、かなりショックでした」
それ以来、今回の一件がトラウマになったという横尾さんは、初対面の人とコミュニケーションすることが怖くなってしまったそうです。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営