
会社員のAさんにとって、休日に電車の写真を撮りに出かけることは何にも代えがたい楽しみのひとつです。それは幼い頃に初めてカメラを手にし、近所の踏切で夢中でシャッターを切った日から続くAさんの大切な趣味です。Aさんは常に列車の安全な運行を最優先し、撮影場所のルールやマナーを守ることを固く心に誓っていました。
しかし先日、Aさんがテレビを見ていると、いわゆる「撮り鉄」と見られる人物が線路敷地内に無断で立ち入り、走行中の電車を緊急停止させてしまったという報道が流れたそうです。Aさん自身、以前から一部の過激な撮り鉄による迷惑行為が増えていることには強い懸念を抱いていました。
Aさんはこのような一部の人々の身勝手な行動が、長年大切にしてきた鉄道写真という趣味全体のイメージを著しく傷つけていることを嘆かわしく思っていました。自分を含め、多くのファンはルールとマナーを守り、鉄道会社や他の利用者に迷惑をかけないよう細心の注意を払って趣味を楽しんでいるのに、なぜこのような愚かな行為が後を絶たないのか、Aさんには理解できません。
このような危険極まりない迷惑行為は、法的な責任は問われないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
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罰金の略式命令が出されたケースも
ー線路に立ち入って電車の運行を妨げると罪に問われますか?
罪に問われる可能性が高いと考えます。具体的には、まず鉄道営業法が挙げられます。この法律では、正当な理由なく鉄道地内に立ち入ることを禁じており、違反した場合は科料に処せられる可能性があります。
さらに、線路内への立ち入りによって列車の運行を不可能にしたり著しく困難にさせたりした場合は、刑法の威力業務妨害罪が成立する可能性があります。これは、威力を用いて鉄道会社の業務を妨害したとみなされるためで、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることがあります。
より深刻なケースとして、線路への立ち入りが列車の転覆や破壊といった具体的な危険を生じさせた場合には、往来危険罪というさらに重い罪に問われる可能性も否定できません。この罪の法定刑は2年以上の有期懲役です。
加えて、刑事上の責任とは別に、列車の遅延や運休によって鉄道会社が被った損害について、民事上の損害賠償を請求される可能性も十分に考えられます。
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ー実際に逮捕されたり有罪判決が出されたケースはありますか
実際に、このような行為によって逮捕されたり、有罪判決が出されたりしたケースは存在します。例えば2023年11月には、JR東日本の寝台特急「カシオペア」を撮影するため栃木県矢板市の線路敷地内に立ち入った男性2人を書類送検し、その後2人は鉄道営業法違反罪で罰金の略式命令を受けています。
もしも危険な行為をしている人を見かけたら
ー迷惑な人を見かけたらどうしたらいいですか
もし迷惑な撮り鉄と思われる人物や、危険な行為をしている人を見かけたら、自身の安全を確保したうえで、速やかに鉄道会社の駅員や乗務員、あるいは警察(110番)に通報してください。
もしご自身の安全が確保できる状況であれば、スマートフォンなどでその場の状況を写真や動画で記録しておくことは、後の対応に役立つ場合があります。
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くれぐれも直接注意することは極力避けましょう。相手が逆上したり、予期せぬトラブルに巻き込まれたりする危険性があるためです。安全で楽しい鉄道趣味を守るためにも、ルール違反や危険行為に対しては、冷静かつ適切な対応を心がけていただきたいと思います。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)