7号車トヨタGR010ハイブリッド(トヨタ・ガズー・レーシング) 6月14日16時(日本時間23時)にいよいよスタートの時を迎える第93回ル・マン24時間レース。そのスターティンググリッドは、キャデラックVシリーズ.Rがフロントロウを独占し、2〜3列目には今年苦戦が続いてきたポルシェ963、WEC世界耐久選手権への参戦2年目で徐々に速さを増しつつあるBMW Mハイブリッド V8が続き、その背後には開幕3連勝を飾っているフェラーリ499Pがつけるなど、“役者”が上位に集まってきている。
一方、2022年以来ル・マンでの勝利から遠ざかっているトヨタGAZOO Racingは、7号車GR010ハイブリッドが予選第1ステージで敗退したことで16番手スタート。最終予選『ハイパーポール2』に進出した8号車も、アタック中のコースオフの影響でノータイムとなり、10番手スタートとなっている。テストデーからのリザルトやロングランペースから見ても、中位が“定位置”となりつつある状況だが、果たして決勝での上位進出はあるのだろうか?
■第2戦イモラにあったターニングポイント
木曜日朝、8号車の平川亮は予選セッションを振り返り、「テストデーから、フェラーリやBMWが早いということは予想していましたけど、他のクルマたちもみんな速かった。そこは若干予想外でした。結局、アストンマーティンもハイパーポール1に進出しているので」と語った。戦前の予想よりも、やや苦しいポジションに置かれているということだ。
ただ、トヨタのドライバーや関係者は、「自分たちは、最速ではない」ことを受け入れつつも、長丁場となる決勝に向けては決して悲観していないように見える。
『ミスなく、粘り強く』
そう書くと耐久レースで使い古された陳腐な言い回しに感じてしまうが、それを確実に実行することで勝機が訪れることは事実である。
そして、ラップタイム、戦略、セーフティカー、ピット作業などさまざまな要素が絡む24時間レースだが、ここでひとつ、トヨタの決勝の走りで注目したい要素がある。それが、コースの左右に設けられた縁石を乗り越えて走る能力だ。
ル・マンの舞台となるサルト・サーキットでは最終フォードシケインでとくに顕著だが、今年のトヨタは積極的に縁石の上にマシンを乗せて向きを変え、素早いコーナーリングを実現しているように見える。
「イモラなどでやってきたことを一部(セットアップに)盛り込んでいます。どこまでそう言えるかは分かりませんが、僕らのアドバンテージなのかなと思います」と平川。
トヨタは今年4月のWEC第2戦イモラ6時間レースを前に、足回りを中心に大幅なセットアップ変更を敢行。「足を動かす方向」のセットに活路を見出しており、中嶋一貴TGR-E副会長も「まだまだたやれることはたくさんあると実感した」と語っている。
平川は縁石を乗り越えた際のクルマについて、接地時の姿勢や収束の良さに加え、「クルマとしての強さというか、壊れないギヤボックスやフロアであったり、そのあたりのリライアビリティ(信頼性)もあります」と自信を見せる。
「僕らは24時間(縁石を使った走りが)できるんですけど、他のクルマはできないような雰囲気もありますし、そこは僕らのレースでの強さなのかなと思います。予選一発はみんな縁石使ってるけど、決勝想定のロングランでは(ライバル勢は)使わなかったりしてるように見えるので……」
7号車ドライバーであり、チーム代表も兼務する小林可夢偉にこの件を聞くと「僕ら、『ランドクルーザー』って言ってますから(笑)」と“可夢偉節”が返ってきた。
「どうやって『ル・マンのランドクルーザー』を作るか。縁石に乗っても優しいクルマ、乗り心地のいいクルマをどうやって作るか、みたいな話です」
そう語る可夢偉の表情からも、決して希望を失っていないことは伝わってきた。
繰り返しになるが、決勝での強さを左右する要素は無数にあり、それらをどれだけ多くそろえられるかが上位進出には必要となる。そのなかのひとつとして、各車の『縁石乗り上げ性能』に着目してレースを見てみるのも、面白いかもしれない。
https://twitter.com/24hoursoflemans/status/1933820523622130134
[オートスポーツweb 2025年06月14日]