取材に応じる成蹊大の伊藤昌亮教授=4日、東京都武蔵野市 選挙におけるSNSの影響が強まる中、東京都議選が始まった。インターネット上の言論と選挙の関係に詳しい成蹊大の伊藤昌亮教授(社会学)は、動画を中心とするSNSによって「潜在的な世代間対立が明確になった」と指摘する一方、知事選などと比べて選挙区の小さい都議選では「効果は不透明だ」と話している。
昨年の都知事選で165万票余りを獲得した石丸伸二氏。躍進の背景には、後援会や支援者らがユーチューブや短編動画投稿アプリTikTok(ティックトック)に投稿したさまざまな応援動画があるとされる。
伊藤教授は視聴者の共感や支持を示す「いいね」の数が投開票日直後に1万件を超えていた動画128本の主な内容を分析。その結果、「老害批判」(39.8%)や「若者応援」(25.1%)、「マスメディア批判」(18.6%)が多くを占め、具体的な政策に触れたものは少なかった。
特に「勉強」「コツ」「話し方」といった単語が多く出てくる、自己啓発的な発信が人気だった。伊藤教授は「現役世代を応援しながら『私たちの邪魔をしているのは高齢者だ』という論理で支持を広げたのではないか」との見方を示す。
昨年の衆院選でも同様の傾向が見られた。X(旧ツイッター)の投稿で、公示前と投開票日前後のキーワードの増加率を比較したところ、高かったのは「シルバー民主主義」(約18.5倍)や「現役世代」(約6.2倍)で、「夫婦別姓」や「原発」は2倍に満たなかった。
こうした動画は、議会の公式動画や街頭演説などの配信を「切り抜き職人」と呼ばれる人たちが感動的なBGMや字幕を付けて短く編集。引用されるなどして、拡散されることが多い。
切り抜き職人は、主に再生回数に応じて得られる広告収入を目的としているが、動画の演出には想像力や技術力が問われる。「自身の力で再生数が増えると、やりがいを感じる部分があるのではないか」という。
ただ、昨年の衆院選では、SNSが結果に大きな影響を及ぼした小選挙区はほぼなかったとされる。伊藤教授は「人気投票になりやすい知事選や比例区と違い、比較的選挙区の狭い都議選でのSNSの効果は不透明だ」と話している。