漫画『うつ病イラストレーターが犬を数える話』が2025年5月にXで投稿された。本作の主人公はうつ病を抱えるイラストレーター。川沿いのベンチに腰を下ろし道行く人を目で追うなか、主人公は散歩中の犬たちと出会う。1匹、2匹……さまざまな犬を数えながら過ごす、穏やかであたたかい日常。主人公が終盤で出会った可愛らしい犬とはーー。
本作は作者・副島あすかさん(@tat_asb_)の半エッセイ的作品であり、6月18日に刊行された『それでも暮らしが続くから』(KADOKAWA)に収録される1本だ。本作を創作したきっかけ、書籍化に至るまでの経緯など、話を聞いた。(あんどうまこと)
ーー『うつ病イラストレーターが犬を数える話』を創作したきっかけを教えてください。
副島あすか(以下、副島):私は生活の中の小さなジンクスみたいなものを大切にしているタイプなんです。「黄色い車を見つけたらその日は幸せ!」とか「猫に触れた日はケーキを買って帰る」だとか。
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担当編集さんと打ち合わせをするなか、すれ違う犬を数えていたことがある話で盛り上がったことがあって、この話は絶対に描きたいと思いました。散歩中の犬に触らせてもらうと、すごく幸せな気持ちになります。動物との触れ合いで気持ちが軽くなったり、日常が特別な1日になる様子が描けたらいいなと思って本作を描きました。
ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンは?
副島:コーギー軍団のコマです(笑)。コーギーが好きで多頭飼いに憧れがあり、このシーンを描きました。
ーーうつ病を題材とした本作は内面的な心情よりも、自身の外側にある事象が多く描かれている作品だと感じました。
副島:うつ病と診断される前の私は、うつ病と聞くと大層に構えてしまうところがありました。ただ自分がうつ病だと診断されてからは、たとえうつ病であっても日常はとくに何も変わらず、日々が続いていくものなのだなあと感じました。
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あくまで私の場合ですが、うつ病になると視界がどんどん狭まり、自分の気持ちばかりに目が行ってしまいます。本作ではできる限りフラットに、自分の気持ちにばかり肩入れしすぎないように、うつ病でも続いてしまう普通の日常を描くことを意識しました。
ーー『それでも暮らしが続くから』に収録される他の作品で描かれた「それでも絵を描くことだけは私の祈りになってくれる」というモノローグが印象に残っています。
副島:私は会社などに勤めても失敗ばかりで長続きせず、人とのコミュニケーションにも不安を抱いてしまいます。そんな私が唯一得意だったのが絵を描くことでした。
絵を描いている最中は何もかも忘れられる、というわけではありません。絵が描けなくて、つらくて、他の作家さんの実績を見ては落ち込んでーー。それでもなぜか、不思議と絵を描くことをやめられませんでした。
例えば「刺繍」は「人々が祈りや願いを込めて行う手芸」と言われています。私にとっての絵を描くことも、そういうものである気がします。一筆一筆に自分の中にある悲しみや苦しみ、執念や諦めを込め、1つの作品にして、人に見てもらえる形に仕上げる。そうして出来上がった絵を誰かが見てくれると、それだけで私はとても嬉しくなります。
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ーー副島さんにとって『それでも暮らしが続くから』の作品を描く毎日はどのような日々だった?
副島:本書に収録される作品の制作期間は半年間くらいでしょうか。とても楽しい時間でした。半分とはいえエッセイなので、自分が普段していることや行っているお店、買っているものなどをベースにお話ができていきました。
また「毎日描くべき絵や漫画がある」ことが私を安心させてくれたようにも感じています。普段は絵を描きたくても、その前段階となるアイディアが浮かばず苦しむことが多いのですが、漫画は作画のターンが長く、その日に自分が描くべきものがあるので苦しみは少なめでした。
ーー『それでも暮らしが続くから』の刊行に至った経緯は?
副島:『それでも暮らしが続くから』の原型として、漫画即売イベント「COMIX FEST.」に誘われたことがきっかけで描き始めた作品があります。私はイラストレーターであり、オリジナリティのあるストーリーを考えられる自信もなく……。だったら「自分の体験をもとに半分エッセイのような漫画を描こう」と思って描き始めたのが「COMIX FEST.」の出展作品であるZINE『生活は続く』でした。
『生活は続く』をXに投稿したところ担当編集さんが作品を見つけてくださり、タイトルや内容を整えた現在の形で書籍化に至りました。本当に運がよかったです。
ーー読者の方へのメッセージをお願いします。
副島:私は後世に残るような歴史的価値や社会的意義のある絵を描けません。大ヒット作品を生み出す漫画家にもなれない気がします。ただ自分と、自分を支えてくれる猫や好きな人たちを助けられるくらいには、絵で稼いでいけたらいいなと思っています。
本作を読んでくださった方、本当にありがとうございます。いいなと思ったら『それでも暮らしが続くから』もよろしくお願いします。好きな装丁家さんにデザインをお願いした、素敵な1冊に仕上がっていますので、ぜひ本棚に並べてくださいね。
■書誌情報
『それでも暮らしが続くから』
著者:副島あすか
価格:1,430円(税込)
発売日:2025年6月18日
出版社:KADOKAWA
(文・取材=あんどうまこと)
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