
都内の中堅企業に勤めるAさんは、数カ月前に父親を亡くしました。悲しみに暮れる間もなく葬儀や諸手続きに追われる日々でしたが、一段落したところで遺産整理に取り掛かりました。
【写真】「死後、記念碑を建ててほしい」 父の遺言の法的効力は?<行政書士が解説>
父親が遺してくれた財産の中には、自宅不動産の他に、時価総額で5000万円相当にもなる大手企業の上場株式がありました。Aさん自身、決して経済的に余裕があるわけではなかったため、この株式の存在は大きな心の支えとなりました。他の遺産と合わせて相続税の概算額を税理士に試算してもらったところ、かなりの高額になることが判明しましたが、それでも相続した株式の一部を売却すれば十分に賄える計算でした。
しかし、事態は予期せぬ方向へ急変します。相続税の申告・納付期限が3カ月後に迫ったある日、世界的な金融不安のニュースが大きく報じられました。最初は遠い国の出来事のように感じていたAさんでしたが、その影響は瞬く間に日本の株式市場にも及び、日経平均株価は連日のように大きく値を下げていきます。不安に駆られたAさんが、父親から相続した株式の価格を確認すると相続開始時には5000万円あった価値が、わずか数週間で半分以下の2000万円程度にまで暴落してしまっていたのです。
支払うべき相続税の額は変わらないにも関わらず、その原資として考えていた株式の価値が大幅に目減りしてしまったため、Aさんは途方に暮れてしまいます。このような場合、相続税の支払いは一体どうなってしまうのでしょうか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞きました。
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救済措置は?大切なのは“リスクヘッジ”
ー株価が暴落して納税資金が不足した場合、どのような対処法が考えられますか?
相続税は原則として、相続開始から10カ月以内に金銭で一括納付する必要があります。Aさんのように予期せぬ株価暴落などで納税資金の確保が困難になった場合、いくつかの救済措置や対処法が考えられます。
ひとつは延納です。これは相続税額が10万円を超え、金銭で一括納付することが困難な理由がある場合、申請により年賦で納税を延長できる制度です。ただし延納税額に応じた担保の提供が必要となり、延納期間中は利子税がかかります。
延納によっても金銭で納付することが困難な場合に限り、相続した財産そのもので納税する物納も方法のひとつです。ただし、暴落した上場株式を物納申請して認められたとしても、その評価額は物納申請時の時価となるため、納税額全額をカバーできるとは限りません。
いずれにせよ相続後に株価が暴落したとしても、合わせて相続税が減額されるわけではないので注意が必要です。
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ー相続人が株価変動リスクに対してできることはありますか?
相続税の申告・納付期限である10カ月の間にも、株価は変動します。そのため、相続した株式を早期に売却して納税資金を確定させることも選択肢の一つです。ただし、売却後に株価が上昇する可能性もあるため、必要最低限にとどめておくのもいいでしょう。また、売却後には確定申告が必要で、所得税がかかる可能性には注意が必要です。
納税資金の計画を立てる際に、株式の売却代金のみをあてにするのではなく複数の選択肢を持つことも重要です。株価が下落した場合の代替案をあらかじめ考えておくことがリスク管理につながります。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)
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