
今年、大同生命のルーツである大阪の豪商・加島屋(かじまや)が創業から400年を迎える。5月17日、「加島屋400年」を記念したキックオフイベントが大阪市内で開催され、直木賞作家の門井慶喜氏、神戸大学の高槻泰郎准教授、大阪取引所の横山隆介社長らがトークセッションで語り合った。
■堂島米市場の中心で栄えた加島屋
「加島屋の資料が(大同生命)大阪本社の地下金庫に長年保管されていた」
シンポジウムの冒頭、大同生命の北原睦朗社長は、加島屋研究が本格化した経緯について語った。鴻池家、住友家、三井家などと比べると、加島屋は知名度が劣る。その一因は、加島屋関連の古文書が長らく表に出てこなかったことにあった。
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「15年ほど前、このまま眠らせておいていいのかという議論があり、大阪大学に調査を依頼した。当時の豪商の姿を知る非常に貴重な資料だと評価を受け、資料を全て寄託し、研究が進められていった」
成果の一部が、特別展示として同社大阪本社2階メモリアルホールで公開されている。

加島屋が創業したのは、中之島の蔵屋敷前の地。江戸時代、この一帯は、大名たちが年貢米や特産品を運んできて格納し、商人たちが売買を行う拠点だった。その蔵屋敷の北側には堂島米市場があり、ここでは国内で唯一の米のオークションが行われていた。加島屋の商売は、蔵屋敷に出入りして米や特産品の売買を仲介したり、大名に貸し付けたりすること。加島屋関連古文書を研究する神戸大学の高槻泰郎准教授は、「加島屋の歴史は日本の金融のど真ん中にあり、その流れは今につながっている」と指摘した。

■時代小説でよみがえった米市場と加島屋の物語
堂島米市場と加島屋を題材にしたのが、門井慶喜氏の小説『天下の値段 享保のデリバティブ』だ。門井氏は、「時代小説で、当時の金融や米市場が取り上げられたことはほとんどない」と語り、執筆動機を振り返った。小説の主人公は、米商人の垓太(がいた)と加島屋の久右衛門(きゅうえもん)。久右衛門は実在した加島屋の当主名だ。執筆にはさまざまな工夫を凝らした。「需要と供給」などの経済用語を当時でも違和感のない自然な言葉に置き換え、垓太が船の上から相場を眺めたり加島屋の茶室に招かれたりといったリアルな描写は、絵図や特別展示の加島屋模型などから着想を得たと明かした。
米市場が舞台なだけに、作中には、金融商品の中でも特に難解なデリバティブ(金融派生商品)の一種、先物取引が登場する。時代考証に当たった高槻准教授が最も懸念したのも、デリバティブの仕組みを読者にどう理解させるかだった。門井氏は、経済書のようにダラダラと解説しなくても、「人間は、自分の損得が関わる話には真剣になる」という特性を利用すれば、難解な事柄も理解しやすいという独自の執筆技法を紹介。シンポジウムには大阪取引所の横山隆介社長も登壇し、「将来米の値段が上がろうが下がろうが、(あらかじめ価格を決めておくことで)損失を回避できる。それが先物取引の役割」だと補足した。堂島米市場で行われた世界初の米先物取引は、現大阪取引所が専門に扱うデリバティブ取引の起源とされる。
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「加島屋400年」プロジェクトは、今後もイベントが目白押しだ。夏季限定で土日も開館する特別展示(大同生命大阪本社2階メモリアルホール)に加え、10月1日から2026年1月12日までは、加島屋に伝わる阿弥陀如来像を公開する「北御堂ミュージアム共同企画展示」が控えている。加島屋広岡家アーカイブの公開や特別展示のリニューアルも計画中だ。埋もれていた史料が語り出す大阪の金融の足跡。今後の展開にもますます注目したい。
