2025年KYOJO CUP開幕戦 池島実紅(TGM Grand Prix KC-MG01) 女性限定フォーミュラカーレースの開幕で大きな転換点を迎えた新生KYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーたちの素顔を探るべく、2025年シリーズ開幕戦の富士スピードウェイにて、裏方として10年以上モータースポーツ業界に携わり、レーサーとしてはFIA-F4選手権やTOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cupなどへの参戦経験を持つ池島実紅(TGM Grand Prix KC-MG01)に、自身のルーツやTGM Grand Prixでの広報活動などを聞いた。
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⎯⎯まずは2024年KYOJO CUPシリーズと、開幕前に行われた3回の合同テストを振り返った感想を教えてください。
池島実紅(以下、池島):昨年はスポットで3回出場し、悔しさが残る感じで終わってしまいましたが、今季のKYOJO CUPでも戦わせていただけることになり、合同テストを迎えました。フォーミュラカーの乗車経験はあるものの、シーズンを通してフォーミュラカーに乗ったり、レースウイークに向けてしっかりと準備をして走るということがなかったので、ほとんど経験がない状態でテストに臨みましたが、さまざまな経験を積むことができたので開幕戦に向けてしっかりと準備ができたと思います。
⎯⎯今季のKYOJO CUPへの出場はどのように決まったのですか。
池島:ふだん私はTGM Grand Prixの広報として働いているので「今季のKYOJO CUPはスタッフ側かな」と思っていたのですが、チーム代表(池田和広/セルブスジャパン代表取締役)から急きょお声をかけていただき、出場させていただくことになりました。出場できると思っていなかったのでびっくりです。何年もフォーミュラカーに乗っていなかったので不安もありましたし、KYOJO CUPの注目度が高い分、他のカテゴリーで走れていたとしてもKYOJO CUPで結果を残せなければ「こいつは走れない」と思われてしまう面もあるので、そういった部分も含めて恐怖心もありました。ですが、シーズンを通してレースに出場し、結果につなげるという過程をいつかは踏まなければと思っていたので、出場を決めました。
⎯⎯ご自身のモータスポーツのルーツについて教えてください。最初にレースを始めたきっかけや、レーシングドライバーになることを決断したタイミングはいつでしたか。
池島:10歳のときに、クルマが大好きな父がキッズカートに連れて行ってくれたことがきっかけで、モータースポーツを知りました。キッズカートでは、お父さんがメカニックをして子どもが乗るというのがパッケージとして結構あったので、それを一緒に楽しむ目的でカート場に行き、初めてカートに乗りました。当時は遊園地に遊びに行くぐらいの感覚で、本格的にやっていなかったので、父と弟ふたりと一緒に走ることをただ楽しんでいました。
父とのカートは数年で終わり、その後しばらくは普通に学生をしていたのですが、15歳のときに駅にある本屋さんで『一緒にカートで走っていた子たちの名前はあるかな』とレース関係の本を開いたところ、カートとはまったく違うレースが載っていて、モータースポーツにはカートよりも上の世界があり、レーシングドライバーという職業があることを初めて知りました。そういえば、そのときに手に取った本がオートスポーツだったんですよ!
⎯⎯そうだったのですか!
池島:結構いろいろなところで言っている気がするのですが、直接お伝えするのは初めてです(笑)。オートスポーツが私にレースを教えてくれたので、レーシングドライバーを本格的に目指すきっかけといっても過言ではありません。モータースポーツはお金がかかるスポーツで、その点がカートを止めた理由のひとつでもあったので、レーサーを目指すことは難しいとわかってはいたのですが、オートスポーツを読んでからレースが頭から離れなくなってしまいました。
親にも絶対無理だと言わたのですが、無理だと言われたことを成し遂げることができたら自分を好きになれると思いましたし、普通に高校に通い、卒業した後にやりたいこともなかったので高校を辞め、レンタルカート場で働きながら一人暮らしをし、衣食住を100パーセント自分で賄いながらレースの世界を目指すことを決断しました。私は0-100(ゼロヒャク)思考なところがあるので、やると決めたからには自分を追い込み、逃げ道を作らないようにしたかったんです。
⎯⎯ご自身のキャリアについて、いちばんのハイライトとなったのはいつでしたか。
池島:昨年のGR86/BRZ Cupクラブマンシリーズ第7戦の予選で、B組のトップタイムを記録したことが私のハイライトです。ポールポジションを獲得されたのはA組トップの岸本尚将選手だったので、レースはフロントロウからのスタートでしたし、結果を残すことはできなかったのですが、周りの方々に初めて「ちゃんと走れるじゃん」と思っていただけたようで、いろいろな方に声をかけていただきました。
それまでは自分のドライビングに自信を持てるタイミングがなく『私は遅い。だから何かをしなくちゃいけない』という考え方をしていました。今でもその傾向はありますが、初めて自分自身でもしっかり走ることができたと感じたレースでしたし、周囲からの信頼を得ることができたので少し自信がつきました。
⎯⎯先ほど職業のお話が少し出ましたが、TGM Grand Prixの広報になられた経緯を教えてください。
池島:17歳でセルブスジャパンにアルバイトとして入り、18歳で就職したので、今所属している会社には10年ほどお世話になっています。雑用などのお手伝いからマネージャー業務まで、さまざまなお仕事を経験させていただきましたが、そのなかで自分なりにできることを探した結果、カメラができるので今は広報を担当しています。
チーム代表がガジェット好きで、吟味して買ったものが会社に届くのですが、それを開封しないで綺麗に取っておく人なんです。なので許可をもらって機材を使わせてもらい、できるようになったことを少しずつアピールしていたら「カメラマンやってよ」とお声をいただいたので、そこからなんとなく広報の仕事が始まりました。カメラも好きなのですが、私は写真を撮ることよりも編集をすることが好きなので、最初は映像制作から始めてその後カメラマンもするようになりました。
ドライバー達が見ている世界はとても格好良いのに、チーム内部の人間がそれを撮影し、コンテンツを制作するということをしていなかったので、チームの中からそういった情報を発信できたらという想いは常にありました。KYOJO CUP関連のコンテンツなどは私が制作しているのですが、結構頑張って作っているので多くの方に見て頂けると嬉しいです!
⎯⎯チームマネージャーのご経験があるとのことですが、具体的にはどのようなカテゴリーを担当されたのですか。
池島:スーパーフォーミュラやスーパーGTなどでマネージャーを担当させて頂きました。マネージャー経験がある分、チームがどういった構成で動き、どの役割の人がどんな業務を担当しているのかを把握できているので、その点は私の強みでもあると思っています。レースがチームスポーツであることをより一層感じることができますし、KYOJO CUPで私のクルマを担当してくれている人は同期なのですが、ふだん一緒に働いている仲間とレースに臨むことは新鮮ですし、とてもやりやすいです。
⎯⎯サーキットでは織戸茉彩選手と仲良くされているシーンをよく目にしますが、チームメイトとの関係性はいかがですか。
池島:チームメイトがいるという環境がレース人生でほぼ初めてなのですが、織戸選手が同じチームで本当に良かったと思っています。一般的にチームメイトはライバル同士というふうに見られますが、結果を残せるかは自分の速さ次第だと私は思うので、チームメイト同士でバチバチすることはあまりしたくないと思っていました。セットアップなど、織戸選手とはすべてを共有してやることができていて、一緒に何かを作り上げ、お互いに深め合うということをドライバー同士でできるのは、本当にすごいことだと思います。織戸選手は今季初めてフォーミュラカーに乗っているのですが、勉強熱心で努力家なので尊敬していますし、明るい子でよく話しかけてくれるので、一緒にいると居心地が良いです。
⎯⎯良い環境でレースに臨まれているのですね。休日はどのように過ごされているのですか。
池島:飼っているトイプードルと遊びに行きます。結構走る子なので、ドッグランに行ったりしてストレスを発散してもらっています。男の子なのでやんちゃですが、甘えん坊なのでとても可愛いです。
⎯⎯レース以外の趣味や好きなものはありますか。
池島:趣味はアニメ観ることと、競馬を観ることです。アニメはいろいろなジャンルの作品を幅広く観るのですが、いち押しのアニメは『ウマ娘 プリティーダービー』です(笑)。現実の競走馬のストーリーに基づいて作られた作品なのですが、競馬の世界で登り詰めてきた女の子たちが一緒に頑張って、誰が勝利を掴むかというところがレースそのものなので本当に格好いいですし、めちゃくちゃ感動します。個人的には競争女子ととても相性が良いのではと思っています。
スーパーフォーミュラがパートナーを務めている『HIGHSPEED Etoile』や、ウマ娘で声優をされている日笠陽子さんとKYOJO CUPがコラボした動画がTOYOTA GAZOO RacingのYouTubeチャンネルにアップされているのですが、撮影の際に日笠さんと一緒にカートに乗らせていただきました。撮影時は普段どおりに振舞っていましたが、いろいろなキャラクターが頭に浮かんでしまって、内心はテンションが上がっていました(笑)。
⎯⎯もし、池島選手がモータースポーツに出会っていなかったら、どんな人生を歩まれていたと思いますか。
池島:今から挑戦するのは難しいですが、競馬やウマ娘の影響を受けているのか騎手に挑戦してみたい気持ちがあるので、レーサー以外の人生となると騎手だったかもしれません(笑)。レースの世界観や環境が好きなので、モータースポーツに出会っていなかったとしても、なんらかのレースに携わる仕事をしていたと思います。
⎯⎯最後に、今シーズンの意気込みを教えてください。
池島:徐々にレベルアップをしてはいますが、まだまだ課題がありますし、(5月9日のフリー走行を終えた時点では)クルマの調子が悪いといった問題点も出てきています。ですが、そういった課題点をチームと乗り越えて表彰台を掴むことができたらとても嬉しいと思うので、その光景が現実となるようにチームと一緒にレースに取り組み、私が目指すプロのレーシングドライバーに少しでも近づくことができるように頑張りたいです。
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5月10日に行われた開幕戦のスプリントレースでは10位、翌11日のファイナルレースでは12位でチェッカーを受けた池島。開幕戦での表彰台獲得は叶わなかったものの、並行して今季も参戦するGR86/BRZ Cup クラブマンシリーズ第2戦ではポール・トゥ・ウインで念願の初優勝を掴んだ。池島はKYOJO CUPでも表彰台と優勝を勝ち獲ることができるのか、今後の走りに注目したい。
⚫︎Profile 池島実紅(いけじま・みく)
1997年1月29日生まれ、埼玉県出身。KYOJO CUP初年度である2017年の開幕戦から参戦を開始し、以降3年間はスポットでレースに出場。2024年にKYOJO CUPに舞い戻り、参戦5年目となる2025年シーズンはTGM Grand Prixから自身初となるフルシーズンエントリーを果たしている。
[オートスポーツweb 2025年06月19日]