
政治色を帯びた物語と見るか。風刺の効いた喜劇と見るか。
6月28日公開の『アジアのユニークな国』は、UFO仮面ヤキソバンやソフトバンク「白戸家」などの個性的CMを生み出したディレクターとして知られる山内ケンジ監督(66)が手掛けた、6作目となる映画監督作。
違法風俗とイデオロギー
自宅の一階で寝たきりの義父を献身的に介護する主婦の曜子(鄭亜美)には、誰にも言えない秘密があった。平日の昼下がり、曜子は2階にある夫婦の寝室で違法風俗を行っていた。
CMディレクターとして、岸田國士戯曲賞受賞の劇作家として、そして映画監督として。山内監督がこれまで生み出してきたどの作品よりも群を抜いてきわどく、ユニークな問題作。山内監督自身もフルスイングの手応えを得ているようだ。
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「これまで映画監督作として5本の作品を撮っていますが、一部にウケるだけで話題にも上がりませんでした。ならばこの作品で今まで以上に尖って、観客の心を鷲掴みにしてギョッとさせたいと思いました」
曜子は、とある政治家が大嫌い。プレイ後は男性客にその話ばかりをし、イデオロギーが共通だと知ると心を許すが、思想が合わない相手には不潔なものを見るかのような冷たい眼差しで出禁を言い渡す。
とはいえ曜子の政治談議はどこか曖昧でぼんやりとしている。何かにつけて嫌いな政治家に結び付けて、過剰に嫌い嫌いと言いながら一周回って本当は好きなのではないか!?と思わされる。そもそも違法な場で自らの政治信条を語っていること自体が滑稽だ。
「リベラルとしての強い正義感を持つ曜子が、違法風俗をしているギャップ。モラルの是非はとりあえず置いておいて…みたいな、政治信条とは別に違法なことができてしまうアンバランスな倫理観に面白味が出ればと」
窮屈な世に対する抵抗
さらなるアンバランスなキャラクターの登場で、カオスは激しく渦を巻く。曜子の家に複数の男性が出入りする事を訝しがり、窓から覗いて聞き耳を立てずにはいられない隣人のシングルマザーだ。
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夫婦の寝室で何が起きているのかを常に監視し、気になり過ぎて先鋭化。SNSの暴走を具現化したかのような人物造形だ。山内監督も「いわゆるコンプライアンスを過剰に監視する人たちを象徴しているキャラクター」と解説する。
違法風俗という描写にも手加減なく、その結果R18+指定作品になった。よくぞここまで自らの作家性を前面に押し出した映画を作れたものだ。
「それは完全自主制作だからです。物語の舞台となる一軒家は僕の自宅ですし、プロデューサーは妻。集まってくれた役者も気心が知れているし、介護される義父は僕の実の父です。R18+もあえて狙ったもので、普通は興収を考えてそこを避けるわけですが、超低予算なので問題ありません」
同じようなスタイルで作った前作『夜明けの夫婦』に次ぐ“自宅映画”の第2弾。「人がやらないようなことをやりたいという意識は昔からあるし、今回は前作の反省を活かす形で撮れたので自分のやりたいことがやりたいようにできた。『アジアのユニークな国』はお金をかけた日本映画へのカウンターであり、窮屈な今の世の中に対する抵抗です」
ユニークな才能の持ち主がたどり着いたユニークな表現形態。自宅映画第3弾の可能性を聞くと「自宅は古く建て替えなければダメだと言われているので、それまでにはあと一作くらいは撮りたい。ぼんやりとしたアイデアはあるし、想定キャステイングも固まりつつあります」。自宅映画サーガ制作に向けて創作意欲は高まるばかりだ。
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(まいどなニュース特約・石井 隼人)